++君の預り知らないところで/チアキ






*サイドストーリー1のネタバレあります


 春がすぐそこまで近づいている。雲ひとつない快晴で、桜の蕾が綻び始めてしまうぐらいのぽかぽかとした陽気だ。今日は特に予定が無かったものの、せっかくいい天気だし、と散歩に出かけることにした。
 
「チアキくんって筋肉質だよね」

 シャワーを浴び終えて髪を拭いていると、名前がまじまじと俺を見ながらそう言った。

「あんまり凝視されると照れるよ」
「ごめんごめん。でも胸板とか、この腕の筋肉とか、これで特に何もしてないんだったらちょっと羨ましいな。私も欲しい」
「君はそのままでもいいと思うよ。二の腕なんて可愛らし……」
「チアキくん触ったら怒るよ」

 彼女の二の腕に触れようとしたところで、ぴしゃりと手を払い除けられた。じとっとした目で睨みを効かせられて、思わず笑ってしまう。

「木登ったり、お姫様抱っこぐらいならできるって言ったり、培った筋肉有効に活用できてるというか」
「そんなこともあったな」
「窓の外見たらチアキくん居て心臓飛び出そうだったよ」
「良いサプライズだっただろう?」
「かなりびっくりしたけどね。直前の須田さんの電話といい」
「はは、懐かしいな」

 その後の面会でも、びっくりしすぎてその夜はよく眠れなかった、と彼女が話していたのを思い出す。俺はあのあと看守にねちねちと小言を言われたし、監視の目がいくらか厳しくなったが、それをした価値はあったと今でも思う。計画していたときは気が滅入ってしまうような監視生活のことを少しだけ忘れることが出来た。それにこうやって彼女と一緒にいることができるのも、ある意味そのおかげなのかもしれないなとも思う。連絡先の交換も出来ず、彼女が島を出るのも突然だった。狭いとは言えないこの世界で、彼女に再びあえて、こうやって一緒に居るというのも奇跡みたいな話だ。

「そう言えば名前は、お姫様抱っこされたいんだっけ?」
「一回ぐらいはされてみたい!って思うけど、あれってする側は腰痛めそうだし、される側もバランス取るの大変だって聞くから」
「確かに、意識がない人間を横抱きにするのは結構骨が折れるな。起こしてしまうかもしれないって思うと特に」
「したことあるみたいな言い草だね」

 誰?、前の恋人とか?、とによによと笑いながら彼女が尋ねる。俺は嫉妬をしぱっなしなのに、彼女はこういう時に穴をほじくるように聞いてくるから気持ちとしては複雑だ。正直もう少しぐらい嫉妬をむき出しにしてくれた方が嬉しい。

「シンディーと話してたんだけど、やっぱりこう、お姫様抱っこをされるときの顔の近さとか胸板の厚みとか人肌にドキドキするんだって。チアキくん顔良いし体温は高めだし、筋肉もついてるし、されてる側としたら心臓飛び出ちゃうぐらいドキドキしたんじゃないかな。でも意識がない人? 寝てる人運んだならその人何も感じてないのかな。ちょっと勿体ないよね」
「名前のことなんだけど」
「え?」
「いや、この前、君が職場の飲み会でだいぶ酔っ払っていただろう? 迎えにいったときに肩を貸すより抱き抱えた方が早いと思って」
「ねえ! 聞いてない!」
「言ってなかったからな」
「最近チアキくんのこと職場でからかわれるのってそれ? 熱々だねえ、ってことあるごとに言われるんだけど?!」
「実際そうなんだから問題無いだろう?」
「うわ恥ずかしい……」

 今度は意識がある時に、今でもいいけど?、と笑いながら尋ねれば、馬鹿言ってないで早く髪乾かしなよ、とぴしゃりと冷たい返答だ。





20190320


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