少し先の未来を想像した/桜庭薫
ことこととスープが煮えている。最近めっきりと寒くなってきたから、具だくさんのミネストローネ。身体が芯まで温まるようにと、すり下ろした生姜も入れた。何も考えずに具材を入れて煮込んでいるせいで、鍋いっぱいのそれ。三日くらいは余裕で食べることが出来そうだ。この量を見たら彼から、またこんなに作って、と呆れられそうだ。
「──今日はミネストローネか」
「野菜もたくさん摂れるからいいかなって思って」
まあそうだな、と彼が言う。後ろでかちゃくちゃとお皿を出す音。あーすみません、とスペースを空ける。キッチンも二人並ぶと手狭だ。
薫さんがテーブルにお皿を並べていく。カプレーゼと、バゲットと、あと薫さん担当の鶏のグリル。コンロの魚を焼くところを使っているので、彼がその焼き具合を見にこちらへ再び向かってくる。
「でも言わないんですね。またこれをずっと食べる生活が続くのか、って」
「君が何回もするものだから慣れた」
「あはは、すみませんー」
ぐるぐるとスープをかき回す。まだにんじんが柔らかくなっていないような気がする。何せ信じられないぐらい大ざっばに作っているので、根菜がまだ硬かったり、逆に煮すぎて原型をとどめていなかったりすることがよくあるのだ。それもご愛嬌だと思って欲しい。
「……そのスープ、明日昼食に持って行って構わないか?」
「私も持って行こうと思っていたんですけど、二人揃って持って行ったら茶化されそうですね。四季あたりに特に」
「言わせておけばいい。そもそも隠しているわけでもないだろう」
ちょんちょん、と突かれて私は場所を譲る。薫さんはグリルを開けて、鶏肉を裏返した。香ばしいにおいが鼻をくすぐる。こうやってご飯を作るようになって気が付いたことが一つ、薫さんは工程一つ一つ丁寧で、あと少し凝り性だ。それが彼らしいと思ってしまうし、言わずもがなとても美味しい。
「そっちももうちょっとで出来ますか?」
「ああ、あと5分ほどあれば」
「了解です」
狭いキッチンの中、二人並ぶ。彼は腕組みをして、離れたリビングのテレビのバラエティ番組を眺めている。テレビの中では絶対に見せない薫さんの所帯じみた表情に、何だか得をしているな、と思ってしまうのはもうしょうがない。いつも格好良くて一等に美人で、なんだか浮世離れしているかのように思える彼も、案外普通の人間なのだと、知らしめられている感じがする。
そんな彼の表情をじっと眺めていると、私が視線を遣っていることに彼が気が付いたらしい。首を少し下に向ける。目がぱちりと合って、それになんとなしににこっと笑みを見せると、薫さんが突然首筋にぽすんと頭を寄りかからせてくる。
「どうしたんです?」
「何か無ければ寄りかかってはいけないのか?」
「そんなことないですけど」
彼から甘えてくるというのも中々珍しくて、可愛らしいなあと思ってしまう。ぽすんと寄りかかって少し猫背になっている。その背中に腕を回して、ぽんぽんと背中を撫でた。
薫さんのにおいがする。シャンプーもリンスも、洗剤も同じものを使っているはずなのに、私と薫さんではにおいが違うのはなんでなんだろう。すきだなあ、そう思いながらぎゅっと力を入れると、彼もまた腕を回してきた。さらさらの髪の毛の隙間から覗く耳が赤く染まっている。彼はポーカーフェイスだけれど、こういうところですぐに色々分かってしまう。甘え下手な彼は、今日も可愛い。
お題箱よりトゥインクル!でもしかしたらな桜庭がPに甘える話
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