すぐ追いつくからそこでまってて/御手洗翔太


「名前さんってピアスの穴開いてるんだね」
「ん、ああ、もう塞がりかけですけどね」

 資料作りの最中、翔太くんが後ろからのし掛かる。いつものように名前さんー、と一言言ってから、寄りかかるそれには今はもう慣れたものだった。彼がつん、と私の耳たぶに触れる。
 僕も開けたいなあ、と彼が独りでに呟く。今彼は中学生のはずで、流石に今開けるとなると校則にも引っかかると思うし、アイドルをしている以上、世間体も気になるかもしれないなあ、と思ってしまった。開けるとしても高校生から、それにしたってあと一年もすれば彼もそうなのだけれど。翔太くんも聡い子なので、そこらへんの事情は分かっているのだろう。

「ねえ名前さん、開けるとき痛かった?」
「どうでしょう。開けるときより手入れの時の方が痛かったかもしれないです。開けるのは一瞬ですけど、手入れってピアスホールが安定するまで一カ月以上続きますしね」
「うえー」
「男性であまりする人居ないですけど、イヤリングもイヤーカフもありますし。自分の身体に傷つけるようなことなんて、あまりしない方がいいですよ」
「もうしてる人に言われても説得力ないよー」
「確かにそうですね」

 ふーん、と彼が私の耳を凝視しているような気配がする。翔太くんが耳たぶをむにっと掴んで、その指先の冷たさに少しだけ驚く。それにも慣れて、いつまでも触れて遊んでいる彼に、もうそろそろ撮影の時間ですよ、と言うと、うん、と心ここにあらずな返事が返ってくる。

「ねえ名前さん」
「はい」
「開ける時って、自分で開けたの?」
「鏡を見ながら。でも人から開けて貰った方がバランスが取れるからいいって聞きますね」
「そっか」

 そう言えば、同じユニットの北斗さんもピアスをしていた気がする。北斗さんがピアスをしているのはプライベートが多くて、歌を歌うときはイヤホンに引っかかりやすくなるからという理由で外すのだと聞いたことがある。今翔太くんがこうやってピアスの話題を出したのも北斗さんの影響かな、だなんて考えた。

「僕がピアス開けるってなったら、名前さん開けてくれる?」
「えー、いやですよ−。アイドルの身体に穴開けるって」
「自分のは開けたくせに」
「だって自分の身体ですもん。他人は他人じゃないですか」

 けち、と彼がむすっとした顔で言ったのがディスプレイに反射して見えた。むー、と妥協をするように彼が切り出す。

「じゃあ、名前さんにピアス、プレゼントしたら毎日着けてくれる?」
「忘れなければ……」
「そこ忘れないで欲しいなあ。鬱陶しい?」
「いや推しに何かいただけたらもう天に舞い上がるぐらい喜びますけど……。そもそもどうして突然プレゼントだなんて。未成年にたかってるみたいでちょっと良心の呵責が……」
「名前さんが着けたら似合いそうだなって思ったピアスあったんだよね」
「……あんまり派手だと仕事中はちょっと」
「シンプルなやつだから大丈夫! 約束だからね!」
「ちょっとまっ、」

 じゃあ撮影行って来ます!、と彼が事務所を飛び出した。まだ着けるとは言ってないんだけど、その私の声は空気の中に解けていく。
 






20171206

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