5/28 うそだ!
寝不足だ。ふあ、とあくびをしながら私はパンプスを履く。今日、ハルトさんは出社がお昼からだそうだ。玄関先にはエプロンを付けてお弁当まで持ってにこやかに微笑みながら見送ってくれる彼の姿。新妻か、という言葉を喉の奥に閉じ込める。
「君の好きなものを入れておいたから」
「うん」
「タンブラーの中は、目覚ましの効果のあるミントティーにしてる」
「うん、ありがとう」
彼からランチバックを手渡され、私は眠気が一向に消えない顔でいってきます、と彼に告げる。
「あっ、!」
「何か忘れたの……?」
大げさに驚いた表情をした彼に視線をやって、私は首を傾げる。彼はここ、と自分の肩筋を指さした。私はそれにぴんと来なくて更に首を傾げた。
「痕ついてるから、シャツあんまり開けない方がいいよ」
ばっと開いていたシャツを手繰り寄せる。頭に血が上り、一気に目が覚醒する。私はハルトさん!、と叫びながらパンプスを脱いで洗面所へと向かった。き、気がつかなかった……! 彼にはあれだけ目に見えるところにはつけないでねって言ってあるのに! 鏡の前で確認した。ボタンは一つ開けている。華奢なデザインのネックレスを除けて、私は彼がここ、と指さした方の首筋を見てみるけれど何も見当たらない。反対側の方を見てみるけれど何もない。また最初に見た方を、少しシャツを広げてみると、いくつかうっ血痕が確認できた。これだったらボタンを一つ外していても外からは見えない。私は恨めしげな声でハルトさあん、と彼の名前を呼ぶ。まったく無駄な杞憂をした。
「ごめんね、目、覚めるかなって思って。あとこの前の白髪のお返……! いたっ!」
「いってきます」
悪びれた風を装いながら、平然と言ってのけた彼の脛に軽く蹴りをお見舞いする。この前の白髪はわざとじゃないって、気を付けて行ってきてね、とどこか満足げな顔で玄関先まで見送ってくれる。帰ったら頭突きだ。
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