5/24 あっ
「どうです、気持ち良い?」
「んー、もうちょっと左強く……」
とんとん、と手をげんこつにして彼の肩を叩く。ハルトさんはここのところ仕事で机に齧りっぱなしだったからなのか、肩が思った以上に硬くて驚いてしまった。だんだん叩く拳も痛くなってきて、肘でぐりぐりとツボを押せば、彼が息を漏らす。それが無意味に官能的だった。
「この際一回ぐらい、整体に行った方がいいんじゃない?」
「……実はこの前行った」
「いいな、どうだった?」
「すごく気持ちがよかったけど、」
「けど?」
「次の日にはまた肩が凝っていた」
「慢性的な運動不足じゃないですか、お客さん」
そうかも、と肩を叩かれているので波打った声で彼が返答する。更にジムは続かなそうだし、と彼が続けた。ハルトさんが一列に並んだランニングマシーンとトレーニング器具に囲まれていて、ジャージを着ている姿を想像してみる。とても似合わない。ただ個人的に、薄いシャツと長いジャージを着て、流れる汗を時折腕で拭いながらランニングマシーンで無心に走っている姿はとても見たい。ずっと眺めていたい。更に耳にイヤホンも付いていて走るとコードが弛んで揺れていたら文句も無い。そんな想像をしながら肘でぐりぐりとしていると、何か考えてるだろう、と図星なことを言われて言葉を濁した。
「――あっ、!」
肘に全体重をかけている中、見つけてしまった。ハルトさんの黒いふわふわとした整った髪。その中で一本、明らかに黒いものでないものが混じっている。今みたいに彼の髪の毛の一本一本が見えるまで近づくのはもう何度も何度もしているわけだけれど、初めて発見してしまった。私は震えながら口を開く。
「し、白髪……」
「えっ!」
「後ろに一本生えてる……」
彼もまた動揺している。後ろからでも目を泳がせているのが分かった。彼もまた初の邂逅らしい。
「ぬ、抜く?」
「白髪って抜くと増えるんじゃなかった……?」
「でもこのままだとバレるんじゃない……?」
「抜いてください……」
勢いよく抜くと、ぶちりという引き抜かれる音が私にまで聞こえた。今君、白髪だけじゃなくてその周辺も何本か抜いただろう、と彼が責め立てるように言うが、これは必要な犠牲だったのでやむを得ないと彼に説く。ハルトさんは文句を一つ二つ零して、見せて、と言った。
掌に乗ったそれを二人で覗き込むように見る。光の加減で薄く透明にも見えるそれ。なんだか私の知っている白髪と違う。
「銀髪……?」
「なんだ、良かった……。もう白髪が生えてきたのかと思って、少し焦った……」
ほっと彼が肩を撫で下ろしたのもつかの間、今度はちゃんと見てから抜いてね、と釘を刺すように言われた。それに、はあい、と返事をするけれど、遠目から見たら白髪も銀髪も同じである。
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