3/21 その肩に齧りつきたい

 肩が見える。私よりも広くてしっかりとした肩だ。少しよれたシャツから覗くのは普段日に当たらないためか真っ白な肌で、彼がフライパンを揺らすたびに筋が動く。
「ハルトさあん」
「ん、なに?」
「このシャツ、そろそろ新しいのにしない?」
「どこか汚れてる?」
「んー、そういうわけじゃないけど、少しよれてきてるなあって」
「君がよくしがみ付くからかな」
「……えっち」
「そういう意味じゃなくて、こんな短い間にそれを連想してしまう君こそ……――」
 隙あり、とかぷりと彼の肩に甘噛みすると、驚いたようで体全体が跳ねた。菜箸でかき回していたウィンナーが一つフライパンの外、コンロころころと転がる。
「……君ってたまに、突拍子のない行動をするよね」
「そこにおいしそうな肩があったから……」
「そこに山があるから登るみたいなこと言わない。お腹空いているの?」
「非常に」
「落ちたウィンナー、食べる?」
「食べる」
 彼がやれやれ、と転がったウィンナーをつまむと、後ろにいる私の口に放り投げた。まだ熱いそれをはふはふと噛んでいると、彼が美味しい?、と尋ねてきたのでそれに頷いた。美味しすぎてもう一個食べたいくらい、とその後に続けると、お皿に盛るときに少なくなってしまうからだめ、と彼が答えた。それに間延びした声で返事をしながら、彼の肩に顎を乗せる。
「ほらハルトさん、そろそろ玉ねぎ入れないと」
「君にそこに居られると、そわそわするのだけど」
「ハルトさんが手順を間違えないように監視してます」
「いやだなあ、間違えたら君に噛み殺されそう」
 そう言いつつも、手慣れた手つきで玉ねぎを投入する。みじん切りにした野菜とウィンナーとが炒められていいにおいが鼻先に漂ってくる。ぐう、とお腹の虫が存在をこれでもか、と主張し始めて、それが彼にも聞こえたらしく、少し元気すぎるんじゃない?、と喉の奥でハルトさんが笑う。ちょっとむかっとしたので、足の甲で蹴った。

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