シリウス・ブラックはそのとき、自分が世界で一番恵まれた人間のような心地がしていた。

レールの敷かれた人生が嫌だった。家系や血筋に固執する親が嫌いだった。タペストリーに長々連ねられた名前も、他者を見下すためのものでしかない。少なくともシリウスにはそう思えた。
だからこそ、組分け帽子がグリフィンドールの名前を叫んだとき、初めて“道を踏み外した”とき、生まれて初めてと言っていいほどの大きな喜びを感じたのだ。大広間は一旦静まり返ったもののすぐにグリフィンドールから歓声が爆発し、自分は歓迎されているのだと嬉しくなった。

シリウスには兄弟がいる。姉のリゲルと弟のレギュラス。家に従順なレギュラスとシリウスの仲はあまりよくなかったが、リゲルは二人の間を取り持つのが上手かった。ふて腐れるシリウスを宥めるのはリゲルの仕事だった。「そんなに怖い顔をして、皺ができますよ」と自分に触れた手が優しかったのを覚えている。シリウスは家の人間の中で、姉が一番好きだった。
グリフィンドールの席に向かいながら、横目でスリザリンを見る。姉は自分に失望しただろうか。もう今までの様には話せないのだろうか。それはそれで寂しいような気もする。

「君、ブラック?もしかしなくても、リゲル・ブラックの弟か?」
「…ああ」

知らない上級生に話し掛けられる。ブラックと呼ばれるのはあまり好きではない。シリウスは少し不機嫌になった。

「おっと失敬、俺はサイラス・ターナー。二年だ」
「姉貴がどうにかしたのか?」
「いや、ちょっと…何というか」

歯切れの悪い返事だ。

「有名人なのよ、貴方のお姉さん」

横から声がした。こちらも上級生らしい。小麦色の肌の女子生徒だった。

「イヴェット・クレイよ、サイラスとおんなじ二年。よろしくね」
「有名人?」
「ほら貴方のお姉さん…あれじゃない?」
「あれってなんだよ」

姉はどうやら良い意味での有名人ではないらしい。苦笑いするイヴェットにまたシリウスは不機嫌になる。姉を悪く言ってほしくないのもあったが、この人たちのほうがホグワーツでの姉をよく知っていることを認めたくなかった。シリウスは負けず嫌いなのだ。

「もしかして、家じゃ普通なの?」
「嘘だろ…俺はあいつに」
「待ってサイラス。ごめんなさいね、知らないなら言わないわ」
「なんだよ…」
「早けりゃ明日にでも分かるだろうよ、お前の姉ちゃん凄いから」

全く、声をかけておきながらいったい何だというのだ。しばらくむすっとしていたシリウスの機嫌は組分けを終え走ってくるジェームズを見て上がり、目の前に並んだ料理の中に好物のチキンを見つけてもとに戻った。

―――
サイラス・ターナー
イヴェット・クレイ

共に獅子寮の二年生


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情交と街