たらふくチキンを食べた後、寮に戻ればシリウスはジェームズと同室で、隣同士のベッドだった。偶然に喜び、互いのベッドの上を跳ね回った。
他に同室なのはリーマスとピーター。リーマスはチョコが好きらしく、ずっと食べていた。ピーターはおどおどしてたから、あれはビビりだなとシリウスは思った。
ジェームズとひたすら喋って、リーマスに寝るように促されたのは真夜中だった。布団の中で大人しくなりながら、明日のことを考える。きっと吠えメールが届くだろう。でも構わない、親の言葉なんて前から聞いて聞かぬふりだった。問題があるとすれば姉のことだと思いながら、シリウスは眠りについた。
「おはようシリウス」
「んぁー、はよ」
「君寝覚め悪いんだね、早くしないとチキンが無くなるよ」
「チキン!」
布団を蹴飛ばして起き上がったシリウスにジェームズは苦笑した。
「今日から授業だった?」
「まだ時間割もらってないけど、多分そうだね」
「色々あるんだろ?」
「僕は早く飛行術がしたいよ!」
「俺も!」
明るい気分のシリウスは、寮の外に現実が待っていることを忘れていた。『太った婦人』の向こうに見知った顔を見つけて、顔が固まった。
「シリウス」
自分とも弟とも違うエメラルドの瞳。きっちり制服を着込んでいる姿は、彼女らしい姿だった。
「おはようございます」
「………なんで、」
「…お母様には、手紙を送りました。私からきつく言っておくから、お母様は何もしなくていいと」
ひどく冷たい声。そんな言い方をするリゲルを見たくなかった。
「シリウス、私がここに来た理由はわかりますね?」
「……………」
優しい姉。いつも側にいて、慰めてくれた姉。リゲルだけはあの閉塞的な人間たちとは違うのでは、と心のどこかで思っていた。けどそれは儚い妄想だったらしい。あれだけ好きだった姉が嫌いになりそうだ。
「…俺はもう、家の言いなりにはならない」
「…………」
「たとえ姉貴でも、俺の邪魔はさせない。やっと自由になったんだ!失望だろうがなんだろうが好きにしろよ、俺は姉貴やあいつと違って、家の奴隷じゃないからな」
そんなことを言うつもりはなかったのに。今ので絶対に嫌われただろう。リゲルの目を見るのが怖かった。
「ひどいことを、言うのね」
「……………」
「…そんなに難しい顔をして、私はお祝いに来たんですよ」
「え?」
「そうでもない限り、わざわざ地下からこんなとこまで来ません。入学おめでとう、シリウス」
ふんわり笑うリゲルはいつものリゲルだ。胸になにか熱いものが沸いて来るような気がした。
「きつく言っておくからって…」
「言うわけありませんよ、可愛い弟の幸せを邪魔しないための嘘です。そちらは…ポッターの子ですね?」
「ジェームズですよ、レディ」
「あらまぁレディなんて、お上手なんだから」
寮から出てくる人間がリゲルの緑のネクタイを見てぎょっとしていたが、もうどうでもよかった。やっぱり姉は姉なんだ。昨日といい今日といい、喜びで気がおかしくなりそうだった。
「それで、シリウス。サイラスとイヴェットに何か言われましたか?」
「何も。二人とも言いかけてやめた」
「それは、もしかして私を気遣かってくれたのかしら…」
しばらく考えこむそぶりをしてから、リゲルは一歩シリウスに近づく。
「シリウス、私はね、学校はお家でできないことをする場所だと思うの。だから貴方も好きにすればいい、私も去年はずっと好きにしてた」
「っげぇ、リゲル!何でここにいるんだよ!!」
大声が響く。振り返るとサイラスがそこにいた。
「可愛い弟とそのお友達に挨拶に決まってるでしょう?」
「うわ、その口調死ぬほど合わねぇ」
「言ったわね」
リゲルは見たこともないくらい悪戯に笑った。
「新学期初ターゲットはテメェだサイラス!」
「やめろマジでやめろ!弟くん助けて!」
フランクなんてレベルじゃない、もはや暴言の域に達した言葉が彼女の口から飛び出した。
「さぁシリウス、私はもう行きます。きっと幻滅するだろうけど、嫌いにならないでほしいな」
リゲルは走り出す。目の前のサイラスは悲鳴を上げながら逃げるが、リゲルはまるで鳥にでもなったかのように階段を飛び降りる。目を疑ったところでリゲルがこっちを振り向いた。
「ベルトはここに置いておくから!!」
一体何の話だ、と思って視線を落とすと落ちてくしゃくしゃになったズボンが目に入った。
「あーあ。さすがリゲル、容赦なしね」
首だけを後ろに向けた。イヴェットが扉から出て階段を下りていく。
「早くズボン履きなさいよ、変態みたい。ポッターもね」
「僕…!」
「仕方ないわよ、リゲルだもの」
「おい!」
通りすぎるイヴェットにシリウスは声をかけるしかなかった。
「これ!どういうことだよ!」
「リゲルはね、知らないだろうけどセクハラの達人なの。ベルトハンター、なんてあだ名で呼ばれてる」
絶叫が階下から響く。またか、という顔でイヴェットは呟いた。
「リゲルの前でズボンを下ろされない男なんていないのよ」
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情交と街