ちょっと待ってほしい。かなり待ってほしい。
これはどういうことだろう。
壁際に追い詰められた我が身の、なんと矮小なこと。否否、私が小さいのではなく、相手が大きいのだ。
…こんなにも。

柔らかい目をしていると思っていた、その眦はきり、としている。それが目の前でなくて、少し上の方にあるのだ。ああうん、随分と背が伸びたんだね。なんて冗談を言える空気ではなかった。

小さくて、ぽちゃっとしていて、愛くるしい、弟分みたいなやつだった。向こうだって、姉のように慕っていたはずだ。かつてのふにゃっとした手のひらは、マメができて潰れてを繰り返した分厚い肌で覆われている。その手が、おとこのひとの手が、私の手を握っている。それだけで、それだけなのに。どうしてこうも。

彼の体躯と壁との間に挟まれた私は、すっぽりとあいたスペースにはまり込んでいる。逃げ場を失った小動物のようだ。

「なあ」

低くなった声。それが脳を揺さぶるように響く。

「はぐらかすのは、やめてくれないか」

切なくて熱のこもった声だった。恋慕に焦がした声だった。そんな声が、かつての少年から出てしまったのだから。私の身はすくむ一方だった。

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情交と街