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ザアアァ、と雨がアスファルトを濡らしていく。
その光景を、瀬名はとある図書館から見ていた。
天気予報では、降水確率20%弱だったハズなのにと少し落ち込む。
今日は、朝から洗濯日和といわんばかりの晴天だった為、傘を持って出歩く人はほとんどいなかった。
みな、各々建物へ避難している。この図書館にも近くを歩いていた人たちが駆け込み、出入り口にはたくさんの人が大雨を目の前に立ち尽くしていた。
(早く帰りたいけど…)
ちらり、と横を見る。
瀬名と同じように傘を持っていない人々が雨宿りをしているのだが、思ったより人が集まってきたのだ。
雨が小雨程度なら、皆傘が無くても雨の中を歩いただろう。
ただし今日の雨は大粒。ゲリラ豪雨というやつに近い雨だ。
超能力者である瀬名は、テレポートが使える。この大雨はノイズになるし、何よりこんなにたくさんの人に見られるのはリスクが高い。場合によっては普段利用する図書館を変えなくてはならないかもしれない。
超能力者が珍しくない世の中ではあるのだが、
(……世間からの目は厳しい。)
まるで化け物扱い。
超能力者は人として見てもらえない事が多々ある。様々な建物の入り口には万引き防止センサーのようなもの───ESPを感知する機械が必ず設置されており、高超度エスパーが通るとブザーが鳴り入館を断られてしまう。
目立たないようやり過ごすなら、やはりこのまま雨が待つのを待つのが正解だな、と。
肩から一段と大きなため息を吐いた時だった。
(……たしかに、そうだね)
(…!)
考え事をする瀬名の精神内に、第三者のテレパシーでの言葉が響く。
位置からしてそう遠くはないハズだ。
だが、誰なのかすぐには分からない。
(左。)
言われるままに左を見る。そこには、銀髪の青年が立っていた。
学ランを着る青年の目はどこか悲しげに瀬名をうつす。
(あなた…誰?)
(君の同胞、とでもいっておこうか。まぁ、エスパーさ。)
(まぁ、テレパシー使えてるのだからそれは分かるけど)
テレパシーで会話をしていく。
黙ったまま見つめ合うのはおかしな話なので、2人は自然に視線を外した。
端から見れば、普通に雨宿りをしているように見えるだろう。
(学生ですか。高校生?)
(うーん…高校生ではないんだけど、これは趣味だよ)
(……趣味?)
学ランを着るのが趣味だという青年に、瀬名は横目でちらりと見た。眉の間に皺がある。
それを見た青年はぷっ と小さく笑った。
(おかしいかい?)
(おかしい…)
(結構気にいってるんだけどなー…)
(…あの、高校生じゃなくて学ラン着るのが趣味って、あなたいくつ)
そう言いかけた−−伝えかけた時、
唇に、ひんやりとした人差し指があてられた。
雨の音も、人の話し声も、
ポケットの中の携帯の着信を知らせるバイブさえも、
その瞬間は何も、聞こえなかった。
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