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唇に当たる、青年のひんやり冷たい人差し指がが離れた時、
やっと時間が動いた気がした。
2、3人ほど離れた位置に彼はいたはずなのに、今は瀬名の目の前にいる。
いつの間に移動してきたのか、
そして今のはなんだったのか。
瀬名は驚いた目で青年を見る。
青年は、瀬名を愛おしそうに見つめ、微笑むと一枚の小さく折り畳まれた紙を渡した。
「僕の名前。」
四つ折にされた紙を指差していう青年。
青年が、「じゃあね」と手をふり、テレポートで去った瞬間、
雨は止んだ。
雨が止んだ瞬間、
瀬名と同じように図書館の外で雨宿りをしていた人たちも、
図書館の中で雨が止むのを待っていた人たちも、
一斉に図書館から出ていった。
雨雲に隠されていた太陽が照らし、雨水を反射して煌めく中、
瀬名は人の流れが少ない方へと歩きだす。
掌の紙を見つめ、そっと開いた。
そこには、
「……兵部、京介…」
兵部京介
とかかれていた。
───…「僕の名前。」
唇に当てられた、ひんやりと冷たい感触を思い出す。
「兵部京介…」
再度その名を呟き、空を見ると虹があった。
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