水族館と魚と私と-4






「ただいま〜…」

玄関にテレポートした名前が、靴を脱ぎながら恐る恐る声をかける。
リビングは電気がついているし、皆がいることは分かっていたが、なんだか目の前にすると少し怖気付いてしまう。
スリッパをはきゆっくりとリビングへ向かい、そっと扉をあけると…


「天理!」「天理ちゃん!」「おかえり天理」


薫葵紫穂皆本が、口々に天理の名前を呼ぶ。
ちょうど夕食の準備をしており、食卓に次々と食べ物が並べられているところだった。


「え、これって…」
「天理の大好物!こいつらが作ってくれとせがむからさ」
「うらちもちょうど食べたかったしな!」
「皆本さん、快く引き受けて腕を振るってくれたのよ」
「あ、天理なんか持ってる!」


思わず腹の虫がなる天理。
天理の手荷物に気づいた薫が近づき、念動力で受け取った。


「えっと…おばあちゃんのとこいって、水族館に連れてってもらった!あと皆で食べようと思ったケーキ…」
「ここのフルーツタルト、美味しいわよね♪」
「冷やしとこうや、そのほうがごっつ美味しくなるで!」
「ねえねえ、天理」


ささっとフルーツタルトが葵のテレポートにより冷蔵庫に収められる。
それから3人が運んでいた食器類をテーブルに置いて、天理に近寄ってきた。


「あの…昼間はごめん!!あの後あたしたちもお互い話し合って謝りあってさ、」
「皆都合のいい時に頼ってくるから、ついカッとなってしもて…」
「天理ちゃんは別チームでいいなんて本気で思ってないからね!」
「薫、葵、紫穂…」


水族館で遊んできたことでリフレッシュした天理はもう怒ってなかったが、きちんと面と向かって3人が謝ってくれたことが嬉しかった。
別チームになったら嫌だと思っていたから、このままザ・チルドレンでいられることに安堵して、小さく息をつく。


「私こそ急に飛び出してごめん!心配かけたよね。
あと…宿題の件、葵に頼ったり答えをテレパシーで見ればいいやとか言ってごめんね」
「え、お前らそんなことで喧嘩してたのか?!」


キッチンの方でガクッという音が聞こえた気がする。
チルドレンの四人が喧嘩した際、皆本は不在にしていたので喧嘩の詳細は知らなかったのだった。


「ウチが真面目に宿題教えたのに、薫と紫穂が真面目に勉強せえへんから…」
「葵ちゃんが怒って。天理ちゃんは真面目にやってるのかと思ったら、葵ちゃんの思考まる読みでうつしてるだけだったし」
「さらに葵怒っちゃって、そんで普段の任務とかの話になって、具体的に念動力で動いて解決できちゃうあたしと天理は花形だーとか」
「私は花形とかないと思ってるから宥めようとしたんだけど、複合能力者だし一人で全部できるじゃん!って言われてカッとなって家飛び出しちゃった!」


4人による喧嘩の詳細を聞いた皆本がまたすっ転ぶような音が聞こえた。


「まぁ…能力の違いはあれど、たしかに花形なんてないと僕も思うよ。皆んなそれぞれ素晴らしい才能さ」
「皆本…」「皆本さん…」「皆本はん…」
「優劣なんてない、皆それぞれ素敵だよ。
さあ、天理も帰ってきたところだしご飯にしよう!」


好物ばかりが並べられた食卓に、食欲が刺激されないわけがない。
天理が嬉しそうに手をのばす。

微笑ましいその様子を遠くから見る人影がひとつがあった。


「まぁ子供らしい喧嘩だな…でも、天理は少しずつ、気づいているはずだ」


パンドラとバベルの考え方の違いを、ね。


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