兵部が「君の可愛いは僕のおかげ」と言いたい話
休日のある日。
カタストロフィ号で、澪・カズラ・カガリ・パティらが、全員スマホを操作しながら何かを話している。
珍しい光景に、たまたま通りかかった兵部は、後ろからその手元を覗き込んだ。
「何みてるんだい?」
「しょ、少佐!」
声のした方を見ると、すぐ近くに兵部の顔があり驚く澪。
少し横にずれてから、「ママゾンのほしいなリストだよ」と答えた。
「マ…ほしいなリスト?」
「大手通販サイトです」
続けてパティが答える。
通販サイト内にブックマークのような機能があり、欲しいなと思ったものをリスト化できる。
作ったリストは自分のメモにもなるし、そのリストを他人に共有することでプレゼントとして贈ることもできるというのだ。
「へえ。プレゼント、他人と被ったりしないのかい?」
「支払い画面に進む前にアラートが出て教えてくれるの」
「でも支払い画面に進む前に、そもそもみんなどれにするのってここで打ち合わせた方が早いんで」
「なるほど…デジタルなんだかアナログなんだか…」
デジタルから少し離れている兵部に、今回のアナログな作戦を指摘される。
少し間があってから、それもそうだね、とメンバーは笑った。
「で、誰の欲しいなリスト?」
「天理。誕生日近いから」
「ほお」
天理の誕生日を兵部が把握していないわけではないが、誕生日の1カ月前から準備する澪たちに感心する。
そして天理の名前を聞いて、より一層興味がわいたらしい。
澪のスマホをひょいと取り上げると、そのまま手元で操作し始めた。
「え、少佐?」
「ふむふむ…なぁ、僕もこれで天理にプレゼントを贈れるかい?」
「贈れますよ。やります?」
「ああ。ちょっといいこと思いついたから…君たちにぜひ協力してほしい」
スマホを澪に返してから、ニヤリと笑って見せる。
こういうときは大抵、ちょっとくだらないことだったりするのだが、今回は天理が絡んでいるので、本当に”いいこと”かもしれない。
4人は顔をあわせると、やれやれといった感じで兵部に協力することにした。
天理の誕生日 当日。
朝起きたてから、真っ先にお祝いしてくれる3人。
寝る前にも、「一番乗り!」と言いながら、日付が変わった瞬間にお祝いしてくれたというのに、何年たってもやってくれることは同じだ。
ピロリロリーン
朝食を食べていると、インターフォンがなる。
カメラにはママゾンの配達員がうつっており、「ママゾンです〜」とママゾンのロゴマークが入った箱を見せてきた。
応答した紫穂がオートロックを解除する。
「あ、私の誕プレかも。私でてくるよ!」
「え、主役なんだからあたしいくよ!」
「ううん、直接受け取りたい!」
代わりに対応しようとした薫に、天理は真っ先に立ち上がる。
少しして玄関のインターフォンが鳴った。
洗面所で軽く前髪を整え、ドア越しに不審者ではないことをテレパシーで確認してからドアを開ける。
「お疲れ様でーす」
「やあ天理」
「天理ー!誕生日おめでとう!」
そこにはママゾンの配達員に扮した兵部と、澪・カズラがいた。
「え、みんな?!あれ、なんで?」
インターフォン越しには確かに本物の配達員だったはずだった。だからこそ紫穂も疑いなく通したのに、と。
確かに玄関越しにテレパシーを使った際、悪意こそ感じなかったものの、まさか顔見知りとは思わなかった。
てっきり、分かったうえで出てきたものだと思っていた澪とカズラは、天理の驚きっぷりが不思議で二人で目を合わせる。
「え、逆に気付かなかったの…?」
「ちょっと不用心じゃない?天理とあろうものが…」
「え、いや…その…ちょっと浮かれてた、かも?」
だって、来てくれると思わなかったからさ、と天理が照れくさそうに言う。
澪とカズラは心配なんてどうでもよくなって、友達に抱き着いた。
「ゴホン、ご歓談中失礼!ただ会いに来たんじゃなくて、ちゃんとプレゼントを持ってきているんだぜ」
兵部がわざとらしく咳払いをした。
背中に隠していた箱を天理の前に出して見せる。
それは確かにインターフォン越しにみたママゾンの箱で間違いなかった。
「配達員さんから横取りして、自分たちの手で渡そうって?」
「まぁ横取りと言えばそうなんだけど…一応、カガリとパティと一緒に少し休憩してもらっているカンジ」
「でも!まとめて届いた方がいいでしょ?ここに全員分入ってるからね!」
「ありがとう!助かる〜」
「僕からのプレゼントも入ってるから」
楽しみだな、と天理が微笑む。するとリビングから「天理〜?」と薫の声が聞こえた。
「女王くるんじゃ…」
「そろそろ帰ろうか」
「じゃあね天理」
先にテレポートで去る澪とカズラ。残った兵部が、天理の頭をそっと引き寄せて、
「誕生日おめでとう、天理」
額にそっとキスをした。
「…京介からの誕生日プレゼントって、これ?」
「これもだけど…ちゃんと中にも入ってるよ」
頭から離れかけた兵部の手をそっと握って、自分の頬に手繰り寄せる天理。
いつもと変わらないように見えるが、ほんのり頬が赤らんでいるのは兵部にもわかった。
「ありがと、京介。起きてからは一番乗りだよ」
「お祝い”は”一番乗りだったろ?」
「あぁ、メッセージ上はね!」
直接お祝いの言葉をくれたのは一緒に夜中まで起きていたチルドレンだが、
0時0分ピッタリに一番に連絡がきたのは、間違いなく兵部だった。
ふふ、と天理が微笑んだあと、ガチャリとリビングのドアが開く音がした。
「本当にお忍びなんだ、じゃ」
「みんなによろしくね」
兵部がテレポートで去る直前に、頬に寄せていた兵部の手に軽く唇を当てた天理。
伏せた目を開くころには、兵部の残像があったくらいだろうか。
不意打ちでお返ししてみせたけど、本人の反応を見るのを忘れたなぁ、と少し後悔した。
「天理!大丈夫?重たくない?」
「ん、平気!ありがと!」
振り返った天理は、いつもと変わらない様子で答えた。
サイコキネシスで浮かせていたママゾンの箱は、薫がバトンタッチしてリビングへ運んでくれる。
ふと、洗面台に立ち寄って、少し乱れた前髪を直してからリビングに戻るのであった。
結局、当日は開封する暇もなく、誕生日プレゼントの山はそのまま部屋の隅に置かれていた。
案の定、多方面からプレゼントが届き、あれよあれよという間にため込んでしまったのだ。
ちゃんと中身を確認したのは、特務エスパーの任務が終わって———誕生日から数日経ってからのことだった。
「は〜しまった!ため込んじゃった…」
せっかくのいただきものなので、すぐに開封してお礼を言いたかったと悔やまずにはいられない。
それでも時間が惜しいと、天理はもらった順番にプレゼントを開けることにした。
まずは、日付が変わった瞬間にお祝いしてくれたチルドレンたち。
3人で合わせてくれたらしい。有名なヘアケアブランドのラインナップが揃っていた。
高校生になってから髪を染め、時たま毛先をヘアアイロンで巻いている天理。欲しいなリストに、ケア用品や新しいヘアアイロン、コームなどの日常使いまでいくつか入れていたのだ。
「さすが、分かってるなぁ」
実は一番欲しかったのはこの辺りだった。綺麗なロングヘアを維持するのはなかなか難しい。
毎日一緒にいるけれども、こうして自分のことをわかってもらえるのは嬉しい。
次に開封するのは、誕生日当日の朝、兵部一向が直接届けてくれたプレゼントだ。
流石に全員分まとめてるだけあって大きい箱だ。何が入ってるのかワクワクする。
箱を開けると、中にはラッピングされたプレゼントがいくつも入っていた。
それぞれタグが付いており、差出人がわかるようになっている。
「…京介から」
気づけば、天理は兵部からのプレゼントに手を伸ばしていた。
今までは直接ほしいものを聞かれたり、行きたいところに連れて行ってもらっていた。
今回は、友達用に作った欲しいなリストの中からのチョイス。正直、兵部が何を選んだのか一番気になる。
一呼吸おいてから、ラッピングを解いていく。
「おぉ…!」
中身に驚く天理。一式そろっているそれの総額を考え、大人の財力を思い知った。
それから順番に他のプレゼントを開封し、お礼のメッセージを送り終わったころには末摘から夕食に呼ばれていた。
翌日
いつも通り登校する面々。いい加減、チルドレンとそれを取り巻くメンバーたちの華やかさに生徒たちが慣れたころだったが、今日は久しぶりに生徒たちが何か囁いている。
男女問わず、チルドレンたちに見とれていた。
「なんかコレ、久しぶりだね?」
薫が気付いて仲間内に言う。澪が「魅了の香水でもつけた?」とからかい始める。
その中で、紫穂が天理にこっそり耳打ちした。
「(天理ちゃんさ、今日いつもと違うでしょ。みんな言ってる)」
「(そう?皆からもらったヘアケア使ったからかな?髪が輝いちゃっているのかも)」
ふふ、と笑う天理。
ちょうど予鈴がなり、野次馬だった他の生徒も含めて、その場にいた生徒たちは一斉に校舎に足を向けるのだった。
「天理」
「あ、京介」
その日の放課後。日直の仕事を済ませた天理が教室に戻ろうとしていた時、背後から兵部が声をかけた。
すっかり生徒会長が板についた兵部。今日もまた青春を謳歌していたらしい。
「なんだか今日は一段と可愛いね」
「そう?なんか今日よく言われるんだよね〜。なんでだろ?」
薫たちがくれたヘアケアを使ったからかな?
と、朝紫穂に話したことをそのまま兵部にも伝える天理。
すると兵部は天理の髪をそっと手に取った。
「確かに、いつもより艶があるかもね。
それより…」
はらりと兵部の手から髪の毛が零れ落ちる。
兵部の手は、そのまま天理の顎に添えられていた。
「化粧、変えた?」
「半分正解で、半分違う。
…何だと思う?」
兵部は少し考えるように天理の顔を覗き込む。
じっと見つめられ、天理は思わず視線を逸らしそうになるのをこらえ、まっすぐ兵部を見つめた。
「半分か。やり方を変えていないのなら…」
兵部の視線が、天理の目元、頬、唇と順番に辿っていく。まるで答え合わせをするみたいに。
その視線がくすぐったい気もするが、天理がじっと兵部の瞳にうつる自分を見ていた。
「まさか、全部僕のプレゼント?」
「正解」
天理が少し得意げに笑う。
「今日の私、京介がくれたコスメだけでフルメイクしたの」
その言葉に、兵部は一瞬だけ虚をつかれたような顔をしたあと、いつもの余裕を取り戻して笑った。
「なるほどね。じゃあ……天理の可愛いを、全部僕が彩っているわけだね」
「な、なにその言い方」
得意げだったはずの天理が、今度は顔を赤くする番だった。
ふふ、と兵部が笑うのを見て、天理は一瞬むっとした顔を見せる。
でもすぐに、いたずらっぽい笑みに変わった。
「そうだよ。これからも自分磨き頑張るから」
つま先立ちになって、兵部の頬にちょんとキスを落とす天理。
「私だけ、見ててね」
窓から差し込む夕日が、天理の頬をオレンジ色に染めていた。
その笑顔があまりにも眩しくて、兵部は一瞬、言葉に詰まる。
「……天理しか、見てないよ」
夕日のせいなのか、兵部の頬もほんの少し赤らんでいた。
そのとき、廊下の向こうから他の生徒たちの話し声が近づいてくる。
我に返った天理は、パッと兵部から離れた。
「じゃ、また明日ね!」
逃げるように駆け出す背中を、兵部はしばらく見送っていた。
曲がり角で、他の生徒とすれ違う天理。先ほど声が聞こえてきた生徒たちで間違いない。
その生徒たちは兵部の横を通る際軽く会釈したが、すぐに
「祐崎さん、今日一段と可愛いよな」と天理の話題に盛り上がっていた。
それを聞いた兵部はふっと笑ってから目を伏せる。
先ほどの天理を思い浮かべていた。
いつもまっすぐに自分を見つめる天理。
彼女がいくら大勢の人間の瞳に映ろうとも、彼女の瞳には自分だけが映ると、兵部はその自信に満たされていた。
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2026/7/27
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