04


「ところで…珀祢、お主は…どこからやってきた?」


学園長がゆっくりと聞く。可能な限り、珀祢に恐怖も緊張も与えないように。
そのことに珀祢も気が付いていた。ここが"コスプレ喫茶"などの類の店ではなく、本物のそういう時代ならば、最初から手足を縄で縛り拘束して拷問することもできただろう。むしろ、学園の安全を考えるならばそうするべきである。

それなのに珀祢の服装にも大きく驚かず、決して拘束もしないのは、少なくとも珀祢を「敵」とは思っていないということだ。

(いやむしろ…なぜこの状況下で他所者を自由にさせておけるんだ?)

例えば天井裏に刺客が潜んでいて、敵と断定されればすぐ始末できるようにしているとか?

(その可能性もありえなくはない…でも)

「えっと…その…」


学園長の、敵意のない姿勢に嘘偽りはなさそうだ。そう珀祢は感じていた。
いろいろ危険性は孕んでいるものの、黙っていても仕方がない。


「あの…遠い未来なら来たなどと、そういう事は信じてもらえますか、」
「み、未来…」
「ほおぉ」


仙蔵は眉間に皺を寄せて驚く。
学園長は仙蔵ほど大きく驚にはきないものの、珍しそうに頷いた。


「私がいた世界では、ここは遥か遠い過去…なのです。
私は自分がいた世界からおよそら100年前の世界に用があって、未来の技術で過去へ渡ろうとしたのですが…事故で、さらにさらに過去へきてしまったようです」
「が、学園長先生!」


俄かに信じがたいと、嘘ではないかと学園長を見る仙蔵。
電子機器のないこの時代の人間に、時間を移動するなど想像もつかないだろう。


「信じられないのも当然です。この時代の異国にもないような衣服を着ていますから。
傷の手当て、ありがとうございました。ご納得のいくようになさってください」


珀祢は握りしめた両の手を前へだす。拘束してくれというような仕草だ。
このような時代でこんな話、受け入れてもらえるはずがない。脱走しよく分からない土地で死ぬか生きるかの生活をするより、ここで大人しく捕まっていた方が安全かもしれないのだ。
カノンも助けに来てくれるかもしれない。珀祢と離れた事にもう気づいてる筈だ。未来の技術ならば、珀祢がいる時代も場所もある程度絞ることもできそうだ。


「そんなつもりはない。両手をおろしなさい」
「…え?」


学園長の言葉に顔をあげ、驚く珀祢。


「長生きしとると、そういう類の話を耳にすることもあるんじゃよ。この学園内で起きたのは初めてじゃがな」
「学園長先生、この者をどうするおつもりで?」
「立花仙蔵、おぬしがしばらく面倒を見てやってくれ」


いつになるか分からんが、必ず元の世界へ帰してあげたい。それまでじゃ

仙蔵は驚きで一瞬出かけた言葉をすぐ飲み込み、「はっ」と承諾をする。
ただの学校長とは思えない貫禄と、それに従う生徒。忍を育てるこの学舎は、軍人を育てている王牙学園とそう大差ないのかもしれない。


「まぁとにもかくにも、まずは心と身を整えるのが先決じゃ。落ち着いたら今後について一緒に考えるぞ!」
「ヘム!」


かくして、珀祢は学園長の許可を得、ひとまず身の安全を保障されることとなった。


[ 10/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

clegateau