03


「どうだろう、君の口に合うかな」
「はい…ありがとうございます」

珀祢は少しして、仙蔵の入れた茶を飲んでいた。実家の祖母がお茶好きで、遊びに行くたびに緑茶を出してくれたなぁと思い出しながら飲む。
口に合うかな、とわざわざ聞かれたのは何故だろうと考えながら、ゆっくりと仙蔵の問いに答えた。

(もし…コスプレ喫茶とかではなく、さらに大昔に不時着してしまったとしたら…)

考えたくもないが、その可能性もあるなと考える珀祢の眉間に少しシワがよる。


その様子をみて、伊作・乱太郎は固唾を飲んで少し緊張した。
仙蔵だけが冷静に見ている。
この3人からすれば、この時代では見慣れない服装と目立つ赤髪に、慄くのも仕方ないだろう。


「それを飲み終えたら、学園長先生のところに報告しに行きたい。大丈夫か?」
「分かりました、もういけます。」


くいっと茶を飲み干し、珀祢は仙蔵について行く形で保健室を出る。
珀祢も保健委員の二人が驚いている様子には気づいていたので、声はかけずに2人を見て会釈をした。


ぱたん。


「…は〜!!」
「びっくりしたね…!!」

戸がしまり、足音が聞こえなくなってから2人は互いの顔を見て安堵の息を漏らした。
伊作においては、珀祢の下敷きになり、本来であれば全身が痛いところであったが、彼女に負い目を感じさせない為に軽傷であるかのように振る舞ってみせていた。


「伊作先輩こそ大丈夫ですか?」
「伊達に不運委員長はやってないよ、はは…」


珀祢を受け止めた以外にも、数々の不運に遭遇してきた伊作は、少し身体が頑丈らしい。
空から降ってきたはずなのに、特に大怪我もなく普通に歩けていた姿を思い出して、安心した。


「さて、さっきまでの続きをやろうか」
「はい!」







「こちらだ」

大きな平家の日本家屋の廊下を歩き、鹿威しの音を背景に案内された部屋には、白髪おかっぱの老人が水色頭巾を被ったネコと共に鎮座していた。


「学園長先生、お連れしました」
「うむ、ご苦労!」
「ヘム!」


珀祢はここまできて、こんなにも手の込んだコスプレ喫茶など最早あるのだろうかと。そういう類いのものではなく、やはり時代を間違えてしまったのではないかという可能性に固まりつつあった。
ただ、この学園長先生と呼ばれた老人が何を口にするかにもよる。
珀祢は静かに深呼吸をした。


「聞いてたよりも元気そうでよかった。空から降ってきたと聞いていたから、大怪我をしてないかと心配だったんじゃが…」
「幸運にも、保健委員会委員長の善法寺伊作が下敷きとなった為、彼女はほぼ無傷です」
「そうかそうか、それはよかった!」
「ヘム〜!」

ニコ!と微笑む学園長先生に合わせるように、猫もニコ!と笑う。まるで兄弟のように似ているその様子はは微笑ましい。


「ところで、名前はなんというのじゃ?」
「私は…倉梨 珀祢と申します」
「珀祢。ふむ、ここがどこだか分かるかの?」
「いえ、さっぱり…」


珀祢は落ち着いて、真っ直ぐ背筋を伸ばしたまま答える。内心ではもちろん緊張しているが。


「ここは、忍術学園じゃ。忍者の卵が通う学舎。生徒のことは忍者の卵で忍たまと呼んでおる」
「私ももちろん忍たまで六年だ。忍び装束の色で学年の違いが分かるようになっている」


仙蔵は、保健室で出会ったーー珀祢が下敷きにした伊作とも同じ緑の忍び装束を着ている。
眼鏡をかけていたーー乱太郎は、水色に柄入りだった、
乱太郎の年齢は…見た様子だと10歳くらいだろうか、もしここがコスプレ喫茶だとしたら、その年齢の子供が働いているのはおかしなことになる。
珀祢は、可能ならば避けたかった結果を目の前にし、自分の身分をどう扱うか思考を巡らせていた。


「ところで…珀祢、お主は…どこからやってきた?」


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