伊作を女装させてアルバイトを手伝う話
「え、女装して薬を売る?」
きり丸のアルバイトをたまたま手伝ったことをきっかけに、伊作が保健委員会で女装して薬を売って経費の足しにしようというのを、医務室で聞いた伊織。大きな瞳を見開いて驚いていた。
「へ、変かな…?」
「そんなことないよ!私に任せて?」
伊織の驚きように、伊作は少し萎縮するが、すぐに入ったフォローにより笑顔が戻る。
さっそく…と腕まくりをした伊織が伊作に化粧を施していく。
骨格と声は誤魔化せないものの、実の妹の手にかかれば…
「わー!!伊織先輩が、ふたり?!」
ちょうど保健室に入ってきた乱太郎も伏木蔵が驚き、その反動で抱えていた薬草がいくつか足元に溢れる
見た目は、ほぼ双子の妹の伊織に近い形になっていた。流石双子である。
「ちょうどいいところに!乱太郎、伏木蔵、ちょっとおいで」
伊織が、2人に「ここに座りな」と言うように床をポンポンと叩く。
それからアルバイトの主旨の説明をして、乱太郎と伏木蔵も女装して参加することになった。
「まずは3人で偵察ね。好評だったら、左近や数馬も声かけて、保健委員会全員でやってみなよ!」
「僕たち、大事な役目ですね!!」
モノは試し、まず先陣を切ることになった乱太郎と伏木蔵はとてもやる気だ。
「それじゃ、2人ともおめかししよう♪」
伊織が化粧道具を両手に持ってニヤリと笑った。
……
…
「いらっしゃいませ〜!」
「腹痛、下痢、虫刺されに効くお薬で〜す!」
「飲んでよし塗ってよし、道中のお供にお薬はいかがですか〜!」
3人は、お守り風に包まれた丸薬を売っていた。
これはドクダミ、ヨモギ、センブリ、をブレンドした丸薬で、飲めば腹痛や下痢に効くし、潰して傷口や虫刺されに塗ることもできる。
さらに、和紙で小さく包み、麻の紐で結び、そこに「無病息災」や「道中安全」と書かれていて、手作りのお守りも兼ねているのだ。
旅人にとってまたとない機会。
1人、また1人と買っていくのを皮切りに、なんだなんだと次々と人が集まってきて、大盛況だった。
「伊織先輩の案、すごいですね!」
「いったん出してる分が売り切れちゃいそうです〜」
「あ、私が予備を陳列させるわね!」
乱太郎も伏木蔵も伊達に保健委員をやっているわけじゃない。
元から持ち合わせる優しさも含めて、2人は旅人に丁寧に説明しながらどんどん薬を裁き、
一旦、陳列していた分の薬がそろそろ売り切れるところだった。
背後の壁に立てかけて置いていた薬箱から、予備の在庫分を出そうとする。
慌てていたのか、手にいっぱい抱えるように持った薬をうっかり落としてしまい、それが運悪く弾んで近くの水たまりに向かっていこうとした
「あっ!、」
ように見えたが、一度弾んだ薬は全て誰かの手により素早く回収された。
そこに立っていたのはスラリと背の高い好青年だった。
「え、」
「「ぜ、善法寺伊作先輩が、2人?!」」
その好青年を見た乱太郎と伏木蔵が声を上げた。
確かに伊作に容姿が似ているのだ。
少し骨格が細めのようだが、目のあたりは特に似ている。
「お嬢さんたち、大丈夫かい?」
青年から発せられた声は、想像よりも高めだった。
拾い上げた薬が、青年から伊作の手に渡る。
近くで見ると益々、顔が整っていることに驚いた。
その青年が醸し出す爽やかな雰囲気と甘い香りに、不意にも伊作はドキッとしてしまった。
「それじゃ私はこれで…」
伊作の手に乗り切らなかった分は、先ほど売り込んでいた時のように陳列させ、立ち上がった青年はニコッと笑って見せた。
そして伊作に再び近づき、肩に手を置くと耳元で小さく呟く。
「頑張ってね、伊作兄」
その声はまさに伊織の声そのもので、伊作が再び顔を見ると、好青年の顔つきから見慣れた妹の笑顔になっていた。
目の前で話した伊作にはそれがわかったが、乱太郎と伏木蔵には「女装した伊作先輩が好青年にナンパされた」「しかもその好青年は伊作先輩に瓜二つ」ということで、店番に身が入らず動揺していた。
伊作は少しぼーっとしていたものの、両手でパン!!!と両頬を叩いて気合いを入れ直す。
その後で乱太郎と伏木蔵も落ち着き、再び薬売りに専念したのだった。
……
…
「良かったのか?あの場に残る方が、伊織の幸運でさらに売れるのに」
「いやー、もう十分貢献したよ」
少し離れた道中で、先ほどの好青年──伊織と、ロングヘアの女性が会話する。
その女性は、女装した留三郎だった。
そして伊織もまた、男装している。
普段と性別が真逆なのだ。
「急に、女装男装してデートしよ!って誘われたかと思ったら、伊作の手伝いだったとはな」
「やだなぁ留三郎、あっちがついでだよ!私は留三郎とデートする方がメインだもんっ」
周りに誰もいないことを確認してから、伊織が留三郎の腕に抱きつく。
可愛く甘えてくれる彼女を尻目に、留三郎は満更でもなさそうに頬をかいた。
「まぁ…何かと新鮮だし、練習にもなるからな」
「そうだよ!私も一度は…こうしてエスコートしてみたかったし?」
留三郎から離れた伊織が、くるりと回ってから手を差し出してみせる。
少し低めに出した声で、 留三郎をみつめた。
普段は太陽のように笑い愛らしい彼女が、今は飄々と男性を演じて見せてる。
そのギャップももちろんだが、単純に、容姿端麗な好青年に見えて思わずドキッとした。
「それじゃ、デート再開してもいいかな?留子さん」
「ごほんっ!…もちろんよ」
差し伸べられた伊織の手に自分の手を重ねる留三郎。
伊織はにこりと笑うと留三郎の手を引いてまた違う町へ向けて歩き始めた。
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2026/5/11
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