幸運少女と誤解
次の休日、小平太と待ち合わせをして町に出かける事になった伊織は、約束を取り付けた日から何となく周りにも分かるくらい上機嫌だった。
「随分と機嫌がいいな」
「次の休みに小平太が団子屋さんに連れてってくれるんだー!」
「お前団子好きだもんな、よかったじゃないか」
「うん、すごく楽しみなの!」
今日は用具委員会の手伝いに来ていたので自然と食満と話すようにはなるのだが、伊作から聞いたせいもあるのか伊織は何となく食満の機嫌があまりよくないのを感じていた。
「留三郎、具合悪いの?」
「は?」
「あ、いや何となく?」
「悪くないが…?」
「そう、それならよかった!」
今日伊織が任されたのは道具点検だ。食満と直接顔を合わせないのはいいが、道具のぶつかる音しかしない倉庫の重苦しい空気に伊織は息が詰まりそうになる。
「っ!」
「どうした!!」
食満の様子を気にしながら作業しついたせいか、伊織は手裏剣の点検中に指を怪我してしまった。手裏剣で怪我するなんて下級生の時以来だなんて考えながら痛む指をギュッと抑える。
すぐにしゃがみ込み、その弾みで床に落ち突き刺さった手裏剣で食満が気づいて駆け寄ってきた。指を見るなり、それをいきなり口に含む。
「ちょ、留三郎!!」
「消毒だ消毒」
「分かってるけど、いきなりでびっくりするじゃない…!!」
食満が伊織の指を口から出す。唾液塗れになってはいるが、まだ血が止まらないようだった。
「保健室に行くぞ!」
「う、うん!」
「…そういえば、今日保健委員は薬草採取に行くとか何とか言って、いないんだったな」
「そういえば、そうだったね」
食満は先日の夜長屋で同室の伊作から薬草採取の話を聞かされていた事をすっかり忘れていた。先程伊織に大胆な事をしてしまったが、保健室にいけば伊作やら他の保健委員がいるから大丈夫だろうとアテにしていたのが間違いだったようだ。これも一種の巻き込まれ不運かもしれない。
「消毒液と絆創膏は……」
「あ、場所なら分かるよ」
「いや、俺も伊作の手伝いした事あるから分かる。座ってろ」
ぐるりと保健室内を見渡した食満に伊織が立ち上がろうとするがすぐに食満に止められ、また座りなおす。んー、と少し悩んだ後に消毒液、絆創膏、小量の綿を取り出してきた。綿に消毒液を染み込ませ、食満は伊織の手をとると傷口に綿をあてる。しみるのか顔を歪め、食満から離れようとする伊織の手首をぎゅっと掴み手当を続ける。
「…なんか恥ずかしいなあ」
「何がだ?」
消毒液に慣れたのか大人しくなった伊織が突然口を尖らせそう言った。悔しそうに続ける。
「六年生にもなって手裏剣で怪我するんだなんてさ。恥ずかしいよ」
「確かに六年生ともなると手裏剣で怪我をする事は滅多にないが…伊織、お前こそ何か悩んでるんじゃないか?」
「え、いや、悩みなんてないよ!むしろ次の休みが楽しみすぎて、浮かれてたのかもしれないや、あははっ」
食満が機嫌悪そうにしていて、あの空気に居心地悪いなと感じていたから、なんて言えるわけもなく、咄嗟に思い付いた小平太との約束を口にした。まあ、楽しみで浮かれていたというのは一理あるといえばあるから嘘にはならない。
しかし、それはいけなかったようで、絆創膏を指に付けていた食満の手が一瞬ぴくりと止まり、少し悲しそうな顔をして立ち上がる。
「と、留三ろ」
「今日はもう切り上げろ。また怪我されたらたまんないからな。」
ごみをくずかごに入れて「じゃあな」と言って保健室を出ていく食満。伊織には食満が怒っている事は気づいたが、何が原因なのかは分からずにいた。
「留三郎、なんで怒ってるの…?」
「…やっぱり伊織は小平太が好きなのか…」
戸一つ隔てて、二人はすれ違いと誤解をした。
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