幸運少女とペア実習 その二
ペア実習の発表会場から離れたところまでやってきて食満が止まったので、後ろを付いてきていた伊織も足を止めた。
背を向けていた食満が手に持っている四つ折にされたくじを開き、内容を確認する。伊織はその内容なんかより、食満にいつ話し掛けられるか、という事にドキドキしていた。
「見ろ」
ふと食満が振り返り、くじを見せられる。あまりにも自然に話し掛けられたのでそこまで驚きはしなかったが、少し肩を震わせてからくじを見て復唱する。
「"コガネタケ城とカンムリダケ城の戦の旗印をとってくる"…」
コガネタケとカンムリダケといえば、何日か前から戦を始めた城だ。元々は同盟を組んでいたが、それは相手の様子を探るためであって、互いに水面下で戦の準備をしていたという。
「城の名前まで明記されているなんて、六年生の私たちには簡単かもしれないね」
「まあ誰に当たるか分からないしな。今回は学園長先生の突然の思いつきで一年生から六年生まで全員参加の実習だし、そう難しいのはないだろう」
「そうだね…」
全く、学園長先生の突然の思いつきには毎度の事ながら驚かされる、と空を仰ぎながら思う伊織。
「実習期間は今日と明日の二日間、ペアが決まった瞬間から始めていい事になってるし、合戦場まで距離がある。すぐに準備して行くぞ!」
「う、うん!」
太陽が橙色に染まる頃、食満・伊織ペアは林の中をかけていた。合戦場に向かっている途中だ。
「うっ!?」
途中変な形をした枝に足を取られた伊織がずるっと足を滑らせ落ちかける。すぐに気づいた食満は足を止め、伊織に駆け寄った。
「伊織、大丈夫か?」
「う、うん、ちょっと考え事してただけ」
「休むか?」
あまりにも普通に接してくる食満が何を思い考えているか伊織にはわからなくてずっと考えていたのだ。そのせいもあり枝に足をとられ、軽く捻ってしまったようだ。
食満が伊織の足首の具合を見る。
「いや、大丈夫だよ!」
「どこが大丈夫なんだ馬鹿野郎!」
自分の不注意で実習を失敗にしてはダメだと、食満に心配をかけぬように伊織はぱっと立ち上がってみせた。が、すぐにまた体制を崩し食満に体を支えられる。
「無理するな」
「…ご、っごめん…」
そっと伊織を座らせ、再び足の具合を見る。たしか、こういう時、伊作は固定してあえて動かしにくくしていたなあと手当の仕方を思い出す。
ばっと頭巾を外し、記憶の中の伊作と同じように伊織の足首にそれを巻き付けて固定させる。
「見よう見真似だが…これで大丈夫だろう」
「ありがとう、留三郎!」
食満の肩を借りて立ち上がると、先程とは違いちゃんと足が動かせる事に伊織は喜びを感じた。余計な事を考えていたけど、何だかんだで食満は優しい。逆に深く考えない方がいいのかもしれない。
「さっきよりスピード落として行こう。余計痛めたら帰りがきついしな」
「うん!」
食満の優しさに思わず笑みがこぼれる伊織。足を一歩踏み出しかけたところで背後に気配を感じとっさに苦無を出し振るう。
「何奴!」
苦無を振るうと打たれた手裏剣とぶつかり、カキンと金属音がして火花が散った。後ろに退き、気配がした方を見つめる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫っ」
先程の苦無と手裏剣の金属音に食満も苦無を手に持っており、二人は背中合わせに林の中を見渡す。
「どこにいる…?」
「まだ日が沈みきってないのに襲ってくるとはな…」
「なかなか手強いよ…どうする?」
「俺が引き付ける、お前は先に行ってろ!」
「…分かった!」
食満がすぎに合図をして、互いが交差するようにして飛び立った。すれ違い様に、二人は互いの顔を視界の端で捉える。
枝から枝へ、飛び移りながら伊織は背後の金属音を聞いていた。この音がなくなった時が、勝敗がついた時。どちらかが倒れたという事。
どうか死なないで、伊織がそう思いながらとある木に着した時、背後に覆いかぶさるような気配を感じ後ろを振り向いた。
日も暮れ、相手の装束の色まではわからないが、苦無がギラリと反射してそこにいる事が分かる。
「お前たちがどこの忍者かは知らんが、ここから先行かせるわけにはいかない」
「…なるほど…」
相手はプロの忍者、そして向こうはこちらが忍者のたまごである事を知らないらしい。忍たまだと分かったところでどうにもなるわけではないが、手を抜いたら本気でころされる。
(夜のお使い、みたいなものだって思えばいいんだ…)
六年生ともなると、下級生には秘密の「夜のお使い」をする事がある。くのたまの伊織とて例外ではない。六年生は限りなくプロの忍者に近いため、実戦経験を積むためにもやる事。それだと思えばいいのだ。
「っ!!」
心をころさねば、静かに心を落ち着かせようとした伊織に手裏剣が投げられる。それに気をとられていると背後に気配が回り込む。ギリギリ体を捩って苦無を避けたつもりだが、二の腕に痛みが走り血が吹き出す。
そのまま地面に着地し腕を押さえる。思っていたより深い傷を負ったようだ。
「はあっ!!」
苦無を持った敵忍者が今度は正面から来た。キン、キン、と金属音が鳴り火花が飛び散る。敵忍者の力強い攻撃に伊織が押され、どんどん後ろに足が進むばかりだ。
「っえ!」
ずるり、と湿った葉っぱを踏み体が後ろに傾く。後ろを見ると葉っぱだらけの崖になっており、そのまま伊織は転げ落ちてしまった。
「…しんだな」
叫び声が止んだのをみて、敵忍者が伊織の死を確信した。背後に気づかず、そのまま振り返った敵忍者は鳩尾を殴られ、意識を失い倒れこむようにある男の腕に体を預けた。
「…さて、彼女は無事かな」
伊織を追い込んだ忍者をその場に置き、男は崖の下へ向かった。
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