幸運少女と初恋の思い出




「伊作ー、伊作ー?」


それは遡ること五年前、まだ忍術学園に入学したばかりの一年生の梅雨のことだった。放課後、伊作と二人でかくれんぼをしていたのだが、伊作が見つからず伊織は今にも雨が降りそうな中伊作を捜しまわっていた。
何かと不運な片割れだ、もしかしたら迷っていたり、はたまた落とし穴なんかにひっかかって泣いてるかもしれない。
そんなことを考えているとかえってこちらが不安になってしまったのか、伊織は目を潤わせてから林の中をかけていった。

ぽつり


「?」


ぽつり ぽつり


手に何か水がかかり、ふと空を見上げる伊織。空はさきほどよりもどんよりとしていて、静かに雨を落としてきた。

一気に強まってきたので近くの大きな木の下にかけこむ。枝が広がり、葉が傘代わりとなって伊織は雨をしのぐことができた。しかし、伊作を探すのはどうしよう、濡れて泣いてるかもしれない。どうしよう。そんなことばかりが頭の中をぐるぐるとまわっていて、一度は引っ込んだ涙が雨のせいかまた溢れてきた。忍者になるって決めたのに、こんなことですぐ泣いちゃダメだと思っても、甘えん坊だった伊織は一粒涙をこぼす。




「伊織ー?」
「えっ…伊作…?」
「伊織ー、どこー?」
「おーい」


遠くから、伊作ともうひとつ知らない声がこちらに近づいてくる。伊作が誰といるかはわからないが、きっと忍術学園の誰かだろうと思い声のする方へ駆けていく。


「伊作!」
「え、伊織?」
「よかったー!」


泣きながら伊作の胸に飛び込む伊織。所々土で服が汚れてるところを見るとやはり穴に落ちたり転んだりなんやらあったのだろう。普段は何かと伊織が上にみられる事が多いが、今この光景は伊作が立派な兄の顔をして妹の伊織を慰めている。


「伊作、やっぱり怪我したんだね?」
「うん、落とし穴に落ちちゃって」
「やっぱり」
「でも留三郎が助けてくれたんだ!」
「留三郎?」


知らない名前が出てきたところで伊織は思い出す。そういえば、先程伊作ともう一人の声が聞こえてきたのだ。伊作が横を見るよう促してきたので見てみれば目尻が吊りたがった忍たまがそこにいた。


「君が留三郎?」
「あぁ。伊作とはクラスは違うんだけど、一応面識はあったんだ。」
「留三郎は優しいんだよ、僕を助けた後伊織を探すの手伝ってくれるって言ってくれたんだから!」


まあ、ただ単に伊作を一人にしたら危険というのもあるだろうが…

伊織は伊作から離れると留三郎ににこりと笑って礼をいった。


「ありがとう留三郎!」
「っいや、俺ほっとけないからさ…伊作の妹が迷子だって聞いて、伊作みたいに不運な目にあってるんじゃないかって心配になったんだ」


照れ臭そうに言う留三郎だが、思いやりは本物だと感じる事ができた。
何故なら、留三郎の服も伊作と同じくらい汚れている。きっと彼は伊作の不運に巻き込まれながらも伊織を探してくれたんだろう。


「いや、伊織は僕とは逆なんだよ」
「逆?」
「わたし幸運少女なの!」
「へえ」
「わたしと一緒にいると伊作は不運な目には合わないですむんだよ」
「それはおもしろいな!」


にっと歯を出して笑う留三郎。伊織は一瞬心臓が大きく脈を打ったのがわかった。そして頬が少し熱くなるのも。


「は、はやく戻ろう!二人はお風呂入って着替えた方がいいよ!」
「そうだね!」
「帰るか」

























突然頭の中を流れた昔の記憶。あれは留三郎と私が初めて会ったときの記憶だ。あの時は、心臓が大きく脈をうったのも頬が熱を帯びたのも、それは私が留三郎を好きになったからだと分かる。

あれから何かと三人で一緒にいた。留三郎は優しくてかっこよくて、伊作の面倒もみてくれて。三人が家族になれたらなあなんて下級生の時思ったものだ。


「留…三郎…」


この間機嫌がよくなかったのは、私が何か怒らせてしまったからだろうか。なら謝りたい。無意識に留三郎の名前を呼ぶと、小さな声でだれかに名前を呼ばれた気がした。


「伊織、伊織!」


意識がその声に吸い込まれていく感覚。

この声は、


「…留三郎…?」
「よかった、伊織…!!」


目をうるわせ、私を抱きしめた留三郎だった。




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