06

「…以上にございます。」
「御苦労。時に、あの娘はどうだ」
「…、袮音のことでしょうか」
「そうだ」


任務の報告に来た雑渡が、殿の問いに意外そうに目を見開く。


「あの娘はおとなしくよい娘よ。飯よそいとしてなら申し分ない」
「私もそのように思います」
「だが、約束は忘れまい」
「勿論にございます、殿」


初め、雑渡が袮音を城に置く為に提案した事、それは「優秀なくの一にし、タソガレドキ忍軍として城に置く」事だった。尊奈門と彼女自身の為に咄嗟に思い付いた事とはいえ、いつかそれを達しなければならない事はわかっていた。


「彼女は物分かりがいい。そのため、正式に忍軍に所属するのも早いでしょう。」


私にお任せください、雑渡はそういい部屋を後にした。
























昼休み、飯よそいの袮音にとっては夕刻まで暇を持て余す時間に入った時、雑渡は彼女に会いに行った。


「失礼するよ」


後片付けを終えた袮音は自室で読書をしていた。尊奈門から借りたもののようだ。

人の気配を察する事に慣れてきたのか雑渡が突然現れても驚く事が少なくなった袮音はゆっくりと書物から目を離し雑渡を見る。何用ですか、とその目は訴えていた。



「そろそろ言わなきゃいけないと思ってね」
「"大方予想はつきます。私自身の事でしょう?"」
「うん、そう。忍者やらないかなって思って」


"大方予想はつきます。私自身の事でしょう?"
と書かれた紙がぱさりと落ちる。これから真剣な話が始まるのだろうど覚悟を決めたのに、雑渡に軽く言われたために驚いたのだ。


「"その言い方だと強制力を感じられませんが"」
「私はどうしてもとはいわない。忍者は心を殺すからね、無理にはやらせたくない」
「……」
「殿は袮音ちゃんが忍の道に進む事を望んではいるが、袮音の飯よそいの腕は確かとも言っておられた」


さあどうする?

袮音が悩む事を考えて、そう言ってから座り手を膝の上に置く。

袮音はしばらく雑渡を見つめると、筆先を硯の上で丹念に整えてから、紙に筆を下ろした。


「!」


ゆっくり持ち上げ、雑渡に見せる袮音。その目には、決意が宿っていた。


"私はもうタソガレドキの人間、殿が望むのならば、私は従うだけです"


「……フッ」


迷いがない彼女の目を見て覆面越しに笑う雑渡。

袮音はすっと目を細めると微笑した。


「いい決意だよ。さっそくだが明日から私が指導に入る。忍を目指すからには、私も甘くできないからね」
「……」
袮音がこくりと頷く。
「今さら止めますは無しだよ?」


それじゃ、と言って雑渡は袮音の部屋を後にした。



記録:雑渡昆奈門

断られたらどうしようかと思ったけどすんなり首を縦に振ったから驚いた。しかしあの娘があんな事をいうとはねえ…殿にご報告したらお喜びになりそうだ。

以上。


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