01 わたしは風間ヒロインの名前。女の子だけど、親の意向で特別に忍たまとして扱ってもらい日々勉強に励む四年ろ組の生徒だ。 忍術学園には委員会というのが存在していて、わたしは保険委員会に所属している。 今もこうして、顧問の先生から預かった薬の調剤資料を持っていくところだった。 自分を鍛える為にもあえて裏庭を通って保健室へ向かっている。 裏庭には、午前中下級生が実習でやったであろう罠が張ってあった。 多分一年生だろうな、罠といっても落とし穴がそこらじゅうにしかけられてるだけ。土の被せ方が綾部に比べて分かりやすいから、わたしでも避けられる程度だ。 (まあ、下級生のつくった分かりやすい罠なんかに四年生の忍たまが引っかかっていたら面目が立たないが) 「あっもうすぐだ」 保健室が見えはじめて、地面に降りたってわたしは翔ていく。それに気づいた伊作先輩が、薬を煎じている手を止めてにこやかにわたしの名前を呼んでくれた。 「ヒロインの名前〜」 今日も人に癒しを与えるステキな笑顔。こちらまでつられて笑顔になれる。 そんな浮かれた事を考えていたからなのか、はたまた不運からなのか分からないが、突然わたしは足首を捻ってしまった。 「ん?!」 そして一歩左に足がずれた時、わたしはやらかしてしまった。 ぐにゃりと地面に食い込む感覚、視界が土いっぱいになって穴に落ちている事を理解した。 本当なら苦無でも使えば一番下まで落ちなくてすんだのかもしれないけど、生憎両手でしっかりと資料を抱え込んでいたし足首を捻ったことによって呆気なくわたしは落とし穴の最奥へと落ちていった。 「ヒロインの名前ー!大丈夫かいー?」 「い、伊作せんぱい〜」 情けなさと足首の痛みで、無性に涙が出る。 遠くから伊作せんぱいの声が聞こえてきたと思ったら、もう一つ穴を覗く人影が。 「おやまぁ、ヒロインの名前がひっかかったのか」 「あ、綾部!!!」 「おーなんだなんだ、やっぱりヒロインの名前が落ちたか〜」 「まさか、ヒロイン兄の名前もいるの?!」 同級生の穴掘り名人 綾部の声が聞こえてきた。この穴を掘ったのはあの口ぶりからして綾部なんだろう。 そしてさらにもう一つ。わたしの双子の兄、風間ヒロイン兄の名前の声がした。兄は綾部と仲良しでよく一緒に穴を掘ったりいたずらをしている。二人の共同制作の可能性も出てきた。 「今度こそヒロイン兄の名前を引っ掛けようとしたのに、またヒロインの名前か〜」 「いやいや、友が作った穴は大抵見破れるぜ! まぁ…今回は先にヒロインの名前が引っかかってくれたというか…」 どうやらお互いを落とそうと、穴を掘りまくっていたらしい。綾部はヒロイン兄の名前を落とそうと作ったつもりのこの穴に、不運なことにわたしが落ちてしまったというわけだ。 「うう…資料は守れたものの、足首めちゃくちゃ痛い…」 「ヒロインの名前〜今手を貸すからまってろ〜」 流石に妹のわたしのことが心配になったのか、兄のヒロイン兄の名前が自ら穴に入る。大人3人分くらいの深さの穴だ。怪我をしたままでは上がれそうになかった。 先に書類を受け取ったヒロイン兄の名前が、先に上に上がって書類を伊作せんぱいに預ける。 また戻ってきて、私に手を貸しながら穴を登っていく。 頂上で私を引き上げたのは、綾部だった。 「ん」 「もう…あんたらのお遊びにわたしを巻き込まないでよね!」 「落ちるヒロインの名前が悪いでしょ」 「違うもん!」 手は貸してくれるものの、不運体質の委員会メンバーが通る保健室付近に罠をはったことに詫びる様子のない綾部に、わたしは強めに答える。 「私だったからまだ良かったものの…乱太郎や伏木蔵や一年生たちが引っ掛かったらどうするの!」 「その時はその時…」 「ばか〜!」 怪我人を増やすなー! と叫ぶ私に、兄ヒロイン兄の名前が「まあまあ」と宥める。 「回避するのも忍者の務めだろ!」と最もらしい事を言ってくるが、保健委員だけでなく病人までこれに引っかかってしまったらどうするのか。 ムカムカしていると、書類を確認していた伊作せんぱいに名前を呼ばれた。 「手当をしよう。足首は危ないからね。 それから喜八郎とヒロイン兄の名前、頼むから保健室付近の穴は塞いでくれ…」 「はあい」 「了解です!ただちに!」 敬礼ポーズをして答えるヒロイン兄の名前は、だるそうに返事をした綾部を引っ張って早速落とし穴を塞ぐ作業にとりかかる。 伊作せんぱいに手を貸してもらいながら、わたしは保健室の中へ入った。 「うーん、ちょっと腫れてるかもね」 「靭帯に影響がないといいんですが…」 「とにかく冷やそう。あとこの後新野先生がいらっしゃるから、その時に念のため見てもらおうね。氷嚢持ってくるよ」 「はい!ありがとうございます」 にっこりと笑い、安心感を与えてくれる伊作せんぱい。仏様のように優しく、不運に見舞われながらも男らしくて頼り甲斐のある先輩だ。あまりの不運と、敵味方関係なく怪我人を手当てする姿に、忍者に向いていないと言われることもしばしばあるが、わたしはそんな事ないと思っている。先輩は、みんなが思うよりずっと強い人なんだ。 わたしの為に準備してくれている伊作せんぱいを見つめていると、外から何やら鋭い視線を感じる。ゆっくり外を見てみると、テキパキ動くヒロイン兄の名前と、こちらを見つめる綾部の姿があった。 (何よもう…ざまぁみろみたいな?) なんだか悔しくて、つい頬が膨らむ。 仕返しにはならないが、どうにも悔しいので、舌を出して、数年ぶりの「あっかんべー」をしてみせた。 (それに比べて、伊作せんぱいは今日も神様…) これは、意地悪な綾部喜八郎と、不運なわたしと、優しくて尊敬できる善法寺伊作せんぱいの話である。 _ [mokuji] [しおりを挟む] |