02 今日は朝から学外実習と言われていた日だ。 ただつい先日決まったばかりで、詳細は伏せられていた。 まぁまた学園長先生の突然の思いつきもあるのだろうと、四年生たちは当然のように納得し深くは詮索しなかった。 「あれ?タカ丸さん」 「ヒロインの名前ちゃん、おはよ〜」 ヒロインの名前が集合場所に着くと、そこには腰にエプロンを巻き髪結をする時の装いをしたタカ丸がいた。ひらひらと手を振られ、ヒロインの名前もつられて手を振って挨拶する。 実習の場合、そのほとんどはタカ丸以外の四年生で行っている。タカ丸は知識的には一年生と変わらない為、授業はほとんど別なのだ。 そのタカ丸が髪結の姿でいるということは、今日の実習に必要なのだろう。 「ふふ、今日もヒロインの名前ちゃんの髪はきれいだね〜」 「ありがとうタカ丸さん」 挨拶のために近づいたヒロインの名前の毛先を掌の上で滑らせる。自然光でも艶を放つ髪に、タカ丸はうっとりしていた。 少し恥ずかしいような気もするが、職業柄髪には触れたくなるのだろう。高鳴りそうな心臓をヒロインの名前はおさまれと念じ抑えるのだった。 「おはよう!!」「あ、タカ丸さんもいる〜」 続いて滝夜叉丸と三木ヱ門がやってくる。 その後にヒロイン兄の名前と綾部がやってくる。綾部はヒロインの名前の横になってきて、足元から徐々に視線をあげヒロインの名前の全身をジロジロと見てきた。 ヒロインの名前はそれが少しくすぐったくて、一歩後退りをする。 「な、なによ」 「いや?思ったより元気で良かったなと」 怪我させちゃったからね と綾部。一応少しは反省と心配をしているらしい。ヒロインの名前は嫌味や意地悪がこなかった事に少し驚いたものの、安堵の息をついた。 「元気には元気だけど、怪我する前とまでは行かないわよ!なんか…足首捻りやすくなった気がする」 「ふうん…」 「…誰のせいだと思ってんのよ〜!」 今度は自分には関係ないなというように振る舞う綾部に、ヒロインの名前が詰め寄ろうとした時だった。 ヘムヘムと学園長先生が煙幕を投げ込んで派手に登場したのだった。 「四年生諸君、おはよう!今日の実習は、斉藤タカ丸の力とお主らの容姿を生かしたものじゃ!」 「容姿?」 一同が声を揃えた後、お互いの顔を見合う。 「四年生はアイドル学年。顔面偏差値が強い学年じゃからの、それを活かして全員今日は女装をしてもらう!!」 「ヘムヘム!!」 「あ、もちろんヒロインの名前は元々女の子じゃからな、女装というか町娘に扮するという体でな」 どうやら今後、町娘に扮した忍務を四年生に任せようという機会があるらしく、今日はその予行練習なのだという。 タカ丸の髪結技術と、普段から化粧に慣れているヒロインの名前で全員完璧なまでに女装をし、町娘に溶け込む練習をするのが今日の実習というわけだ。 ヒロインの名前はちらりと自分以外のメンバーの顔を見る。 双子の兄のヒロイン兄の名前に至っては、自分と同じ顔をしているので容易に想像がつく。というか、自分たちで入れ替わりしているため、兄を女である自分のように変身させるのは簡単な事だ。 そして残りの三人…滝夜叉丸、三木ヱ門、喜八郎。 アイドル学年、と学園長は言ったものの、実際四年生は変わり者だらけだ。 ただ今学園長の話を大人しく聞いているように、黙っていれば美形なんだよなぁ、と思うヒロインの名前だった。 「さぁ、早速準備にとりかかってくれ!」 「はぁ〜い」「はーい」 「最後はヒロインの名前ちゃんだねえ、座って座って〜」 「うん、ありがとうタカ丸さん」 順番に他4人の化粧とヘアセットをこなした2人。今回の実習にタカ丸は不参加だが化粧担当のヒロインの名前は参加するため、1番最後に身支度をしていた。 「元が可愛い女の子だし、もうめちゃくちゃ可愛くしちゃうね」 「あはは、ありがとう〜よろしくね!」 タカ丸は素直に褒めてくれるので、ヒロインの名前はむず痒くてたまらない。 化粧道具をあさり、タカ丸に髪型をセットしてもらいながら自分の顔に粉をはたき、紅を引いていった。 「ヒロインの名前〜?できたか〜??」 仕上げをしていると、扉の向こうで兄のヒロイン兄の名前の声がした。 化粧とヘアセットを終えた者から女物の着物へ着替えをしていたが、最後のヒロインの名前が終わるのが待ちきれなくなったのだろう。 ヒロインの名前は髪結と化粧の前に先に持参した煮物に着替えていたので、ほとんど化粧は終わっていた。快く入室を許可した。 「お、おー!!」 「さすが我が妹、最っ高に可愛い!!!」 扉を開けるなり、三木ヱ門とヒロイン兄の名前が声を上げた。兄ヒロイン兄の名前に似せる為むしろ眉を太めにしていたりと女らしい化粧はしていない。プライベートや実習の時こそしっかり本来の女の子らしい化粧を施すので、ギャップというか貴重というか。いつも一緒に過ごしていてもやはり息を呑むものがあった。 「まぁ流石の私もホンモノには勝てんな!」 「ありがと〜!ミキも滝夜叉丸も綺麗で可愛いよ!ヒロイン兄の名前はなんかもう、ほとんど自分見てる感じがするけど…」 「まぁ双子だしな。でもやっぱりヒロインの名前の方がヒロイン兄の名前より可愛いさ」 まだみんな声こそ普段通りなものの、お互いを褒め合う姿は女子のやりとりそのもの。(本人たちが意図的にそうしてるのかは別として) 真っ先に入ってきたヒロイン兄の名前は、普段ナルシストな三木ヱ門と滝夜叉丸の2人に妹が褒められていることが嬉しくて、指で鼻の下を少し擦る。 少し振り返り、自分の後ろにいた綾部の背中を押してヒロインの名前の前に連れ出してみせた。 「な、綾部もそう思うよな?」 そういえば綾部からの感想を聞けてない、とハッとするヒロインの名前。 朝ちょっと足のこと心配してくれたし、普段ナルシストな三木ヱ門と滝夜叉丸も褒めてくれたし、さすがに… と、期待と緊張で小さく息をのむ。 ヒロイン兄の名前もそれに気づいたのか、急かすように綾部の背中を叩いた後、肩に腕を回した。 「まぁ、いつもよりマシなんじゃない」 ぷちん 何かが切れる音がした。 「…んだと綾部ェ〜!!!!」 切れたのはヒロインの名前の堪忍袋の緒だった。懐から手裏剣やら苦無を出し、綾部めがけて打ち出していく。綾部は「やべ」という顔をした後、走ってその場を逃げ出した。 「こんのっ…!!意地悪綾部〜!!!!」 綾部を見失ったヒロインの名前は、悔し紛れにどこかに隠れている綾部へ向けてそう叫ぶ。その声は学園中に響き、その後「風間ヒロインの名前と綾部には何があったんだ」と学園内で噂されることとなった。 _ [mokuji] [しおりを挟む] |