Round 3 ???編 Round 3 ???編 「……行ったな」 私は顔だけを鏡から出し、鏡舎内の様子を覗っていた。ジェイド先輩とフロイド先輩が「どこ行ったあの小エビ!」「オンボロ寮か学園長室でしょうか……手分けして探しましょう」と走って鏡舎を出て行く後ろ姿を見て独り言ちた。 鏡から顔を抜き、後ろを振り返る。 「いやぁ、急だったのに匿ってくれてありがと〜」 「構わないけどさぁ……」 庭のハート型の植木の手入れ中だったエースはどこか引いた顔で答えた。 オクタヴィネル寮から鏡舎に抜け出した私は、すぐさまハーツラビュル寮に繋がる鏡へと飛び込んだ。すると出入り口付近で庭仕事をサボっていたエースと会ったので「お願いだから少し匿って!!」と頼んだのだ。状況を理解しきれずにいたエースだったが、私の必死すぎる様子を見て「お、おう」と頷いてくれたため、私は鏡の近くで鏡舎の様子を伺いつつ、ハーツラビュル内で潜伏していたのだった。 「あの二人に追いかけられるとか、お前何したわけ……いや、やっぱ答えなくて良い。オレは巻き込まれたくない」 「うん、聞かない方が良いよ」 「そうするわ。でもさ、ほんとお前ここ最近どこ行ってたわけ? スマホに連絡しても出ねーし、オンボロ寮に行っても居ねーし」 いやぁ、ちょっとリーチ先輩達に監禁されてて。 ……なんて言えるはずもなく。私は「あはは……ちょっとね」と曖昧に笑ってお茶を濁した。しかし何かに気付いたのか、彼は「ふーん……」と訝しげな視線をこちらに寄越した。リーチ先輩達から逃げている事は告げたので、彼等との間に何らかのトラブルがあったのだと気付いたのだろう。しかし面倒事に巻き込まれるのはごめんだと思ったのか、肩をすくめて「まー気をつけろよ」とだけ言った。友人に対して薄情じゃない?と感じたが、事が事なので、今回ばかりはエースの淡泊さに救われた。 「あのさ、あと一、二時間くらいここで匿って欲しいんだけど……」 「ええ? あと二時間? んー、じゃ庭仕事手伝ってくれんならいーよ。終わったらオレ達の部屋行こ」 「うん、ありがと」 そう言うと、エースは木の枝を伐採するハサミを寄越してきた。他寮の人間を使う気満々の彼に苦笑する。エースは相変わらずだ。 ……ずっと非日常の中に居たからか、エースのこのいつも通りさがなんだか心地よかった。 二時間後。庭仕事を終え、エースの部屋に移動して皆でトランプをして過ごしていれば、二時間なんてすぐに経過した。そろそろ戻ってもいいか、と私はトランプを一緒にしていた皆に断り、部屋を出た。途中まで送ると珍しく気遣いを見せてくれたエースに甘え、ハーツラビュルの門の前まで一緒に歩いた。 「……なんかよく分かんねーけどさ、もう戻っていいの? 必要ならもうちょいココ居てもいーよ?」 「うん、ありがとう。でも大丈夫」 「……監督生がそう言うならいーけどさ」 ……ま、頑張れよ。 そんな言葉をぶっきらぼうに告げたエースに向かって手を振り、私は鏡を抜けた。 鏡舎に出る。そのままオンボロ寮がある見慣れた道筋をてくてくと一人で歩いて行った。 きっともう先輩達はオンボロ寮に居ないだろう。でも、きっとしばらくしたらまたやってくるはず。オンボロ寮にて彼等を迎え撃ち、今度こそきちんと話し合いをしなければ。 しばらく歩くと、やがて愛しい我が城が見えてきた。最初はとても人が住める場所ではなかったこの寮も、もうすっかり私の第二の家だ。玄関の戸を開けると、オンボロ寮の匂いが鼻孔をくすぐった。たった数日ぶりだというのに、酷く懐かしい。 「ただいまー」 そう言いながら中に入ると、すぐにゴースト達が「おかえり〜」「しばらく帰ってこなかったけど、どうしたんだい?」と、壁をすり抜けて現われた。私は苦笑しながら「ちょっとね」とだけ答える。 「ふな〜〜〜〜っ! 子分!」 「グリム!」 玄関の廊下を進んで行くと、彼の部屋からぴょんと飛び出たグリムが私にぴょんと飛びついてきた。勢いよくジャンプしてきた彼を両手で抱きとめる。 「数日ぶりだな! オマエ、何してたんだゾ?」 「いやぁ、ちょっとトラブルに巻き込まれてて」 「そうかぁ。ま、探検に夢中になって迷うのもほどほどにしとけ、なんだゾ!」 と言い、彼の自室へと戻っていった。 「ん……?」 あまりにアッサリとした反応にびっくりした。君私の相棒じゃん? もっと心配してくれてもよくない? ていうかこの数日の内に、他の先生か生徒に私の不在を言ってくれてもよくない? と、思ったが、探検という言葉が妙に頭に引っかかった。飼い猫であってもフラッと外へ勝手に出て行き、ご飯を食べるためだけに家に帰る猫も居るらしい。 ……もしかして私、それだと思われている……? 猫がフラ〜っと家を出てそこら辺で遊んでいるのと同じものだと思われていたのだと考えると、なんとなく癪だ。グリムは私のことをなんだと思ってるんだ! まあ、私の不在を不審に思って大事にしないで居てくれたことは助かったけれど。……あまり大事にして、あの二人に被害が出るのは少し嫌だったからだ。どうしても脱出が不可能そうなら大事にしてやるつもりだったけどね!! まあ、何はともあれ無事に脱出に成功し、我が家に帰還することができた。数日ぶりのオンボロ寮の空気を吸った後……私は明日の小テストの勉強を始めた。いやぁ、テスト前にその部屋から抜け出せてほんと良かった〜〜〜!! 錬金術の教科書を開き、章末問題を上から順に解く。今回の脱出の際に使った鏡面通信化薬などの問題が出て、思わずフフッとした。この問題は絶対に間違える気がしない。 一通り解き終わり、解答を確認した。……うん、ほとんど合ってる! きちんと勉強してて良かった。これなら明日のテストも良い点数が取れそうだ。あとは間違えた数問の復習と、暗記事項の再確認をすれば、きっと明日はバッチリに違いない。こんなに勉強して挑むテストは今回が初めてでドキドキする。良い結果に繋がると良いなぁ…… ドガァァッ!! 間違えた問題の解説を読んでいると、突然玄関の方から爆発音にも似た物騒な破壊音が聞こえた。え、これ玄関破壊されてない……? 修繕費と修繕の面倒臭さがサッと頭を過ぎり、気分が下がった。が、今は修繕のことを考えている場合ではない。恐らくここへ現われるであろう、玄関破壊犯と今から対峙しなければならないのだ。 ドスドスとオンボロ寮のガタついた廊下を駆ける重い足音がこちらへ近付いてきた。バンッと壊れそうなほど乱暴に私の部屋の扉が開く音がした。私は勉強机の前の椅子から立ち上がり、ゆっくり振り返った。 「小〜エ〜ビ〜……」 案の定、そこに居たのはフロイド先輩とジェイド先輩だった。額に青筋を浮かべ、完全にブチ切れている顔である。 「ハァ。先ほどオンボロ寮に来た時には居なかったのに……どこかに隠れて時間差で戻ってきたんですか?」 「はい。すぐこっちに戻ったら見つかると思って」 「なるほど。ずっとこちらで張っていれば良かったんですね。無駄に学園中を探し回ってしまいましたよ。全く、手間を掛けさせる子ですねぇ」 とジェイド先輩は口元を笑みの形に歪めたが、額の青筋が常にピキピキ動いていたので怖かった。 「小エビちゃん、あそこに戻ろ?」 「え、やです」 「どうしてですか? 僕たちの手元で良い子にしていれば、一生不自由などさせませんよ」 「どうしてって、だって明日小テストあるし……」 「いやだからなんで小テストに拘ってんの!?」 フロイド先輩が鋭くツッコミを入れたが、私は冷静に答えた。 「良い成績取りたいので……」 「そんなに!?!?」 「はい……」 「そ、そっかぁ……」 小テストと成績に拘る姿勢をひたすら見せ続ければ、私の勢いに飲まれたのか、フロイド先輩の威勢は徐々に萎れていった。よーし! 流れがこっちに向いてきたぞ! この調子だ! しかし刺客その二が黙っちゃいない。ジェイド先輩は胸に手を当て、ニコニコとこちらを甘く誘惑してくる。 「ですが、監督生さんは以前、あまり勉強がお好きではないと仰っていましたよね」 「……そうですね。そもそも勉強が好きな人って少ないでしょう」 「それについては同意見です。だからこそイソギンチャクがあんなにも増殖したのですが……この話は置いておきましょうか。監督生さんはどうして好きでもないお勉強を頑張ろうとしているのですか? 僕たちの元に居れば、勉強なんかせず好きに過ごして良いんですよ?」 なんか……このウツボ、甘言で誘惑してきたぞ! 卑怯だ! その隣ではフロイド先輩が「いけいけジェイド〜!」と応援していた。 甘い言葉をかけられて、怠惰な私の心は一瞬だけぐらついたが、しかしキッパリとそれをはね除けた。 「いいえ! 結構です! 私、ちゃんとこっちで頑張るって決めたので!」 「……こっちで?」 プイとそっぽを向き、NOと全身で主張する。すると私の今の発言を拾ったフロイド先輩がそうポツリと呟いた。 「……こっちってどゆこと? 小エビちゃん、元の世界に帰れなくなったの?」 「……」 一瞬しまった、と思ったが、特別隠している事でもないので正直に薄情する。 「……そうですよ。帰れないんだって、先月学園長に言われました」 「あっそうなの? じゃあ一生オレ達とこっちで暮らせるね!」 「なんでそうなるんです?」 めちゃくちゃ喜ばれて即座に突っ込んだ。もう少し同情してくれてもバチは当たらないんじゃないだろうか。 ジト目で二人を睨んでいると、ジェイド先輩は同情するような悲しげな顔をして、白いハンカチで目元を押えた。 「お可哀想に……元の世界に戻る事が出来なくなったのですね…………フ、フフッ」 「いやめっちゃ笑ってるじゃないですか」 非常に精巧な表情を作り上げていたが、最後に漏らした愉快そうな笑い声で全てが台無しだった。このウツボ達、人の気も知らずにめちゃくちゃ喜ぶじゃん。 「えー、じゃあこっちの世界で生きないといけなくなったから、急に勉強頑張る気になったの?」 「まあ……そういうことですね」 フロイド先輩の問いかけに私は頷いた。学園長からのご褒美を勝ち取るためという目的もあるが、まあそれは今言わなくても良いだろう。 しかし、フロイド先輩はチラ、と私が立っている隣辺りの空間に目をやると、目敏くソレを見つけた。 「ねぇ小エビちゃーん。ソレ、なぁに?」 「……なんで見つけるんですか……」 勉強机から見える位置に張ってある白いコピー用紙を指差し、フロイド先輩は悪戯っ子のようにニヤニヤした。彼はポケットに手を突っ込み、ゆらゆら体を左右に揺らしながら壁に貼ってあった紙を引っ剥がした。 「なになに〜? 養子縁組届けぇ? ディア・クロウリーって学園長じゃん。学園長の子供になんの?」 「……私が良い成績を取れたら、養子にしてくれるって約束をしてるんです」 「なぁるほどぉ……」 フロイド先輩は全てが腑に落ちたようにゆっくり頷いた。ジェイド先輩も顎に手を当て、深く納得していた。 「学園長の後ろ盾があれば、こちらの世界でもかなり有利ですからね。貴方が最近頑張り始めた理由にようやく納得がいきました」 「理解していただけたようで何よりです。就職とか、けっ……け、決闘とかでアドバンテージを取れますから」 「オイ待て小エビ、今なんつった?」 「就職に有利だって」 「とぼけんなその後だよ」 「決闘」 「なに急に戦いだしてんの。今絶対なんか誤魔化したっしょ。隠した事、言ってみ?」 「決闘ですよ決闘。家柄マウントで誰にも負けなくなります。女性のマウント社会舐めないでください!」 「ハイハイ。では学園長の養子になることで監督生さんが得られる利点を一つずつ挙げてみて下さい」 「口を滑らせるものですか! 就職とか決闘に有利になります!」 「はい。他には?」 「……ふ、不動産借りたり? ローン組んだりする時?」 「それ今思いついたでしょ? 絶妙に否定辛いモン挙げるのやめてくれる?」 三人でギャーギャーと問答を繰り返した。今ここで私の本心をバラす訳には行かないと、この養子縁組を希望した本当の理由をのらりくらりと躱し続けた。 しかし、いつだってフロイド先輩は幸運の女神に愛されているのだ。彼はなんとなく、手に持っていた紙をぺらりと捲った。 「……なんか裏に書いてあんだけど」 「え?」 裏に何か書いてある? そんなの私知らなかった。 何が書いてあるんだと彼の手元を覗いてみると、デリカシー皆無の信じられない文言がそこに記載されてあった。 『お父さんはリーチ君達との結婚を応援していますよ♡』 「……あんのカラスがーーーーーーーっっっ!!!!」 学園長はデリカシー皆無なカラスだと今度学園内外で言いふらしてやろう。そう心に決めた。 遠慮が国民性というのがイマイチ理解出来ない、とは以前から学園長によく言われたものだ。しかし、この世界に来てからの付き合いから、私の人間性を理解してくれている学園長は、素直にイエスと言い切れない私に向かってこう告げた。 「……リーチ家はそれなりに良い家柄の大きなお家ですよ?」 「……どういう意味ですか」 「そのままの意味ですが」 ニヤァと仮面の奥で光る目が三日月型に歪んだ。 「ま、詰まるところはですよ、後ろ盾のない今の状態より、私の養子であるという立派な身分があった方が、どこの誰と結婚するに当たっても、相手のご親族を簡単に説得できると思いますねぇ。ま、そんなもの無くても、リーチ君達なら力づくでなんとかしてくれるとは思いますが」 「…………」 「で、監督生さんはリーチ兄弟のどちらが好きなんです? 私、前から気になってたんですよねぇ〜」 「………………」 「ジェイドくんです? それともフロイドくん?」 「……………………」 「エッ。まさかどっちも!?」 「…………………………」 「うわぁ……貴方、割と堅実な人だと思っていたんですが、禁断に足を踏み入れちゃいましたねぇ」 「……やめてください。JKの恋を茶化すなんて、何言われても文句言えませんよ。この変態カラス!! 若い子全員に後ろ指差されて泣け!!!」 「ハイハイすみませんねぇ」 ギャーギャー騒ぐ私に、微塵も悪いと思ってなさそうな様子の学園長は雑に謝った。いかにも軽薄な様子に怒りのボルテージが高まるが、なんとか抑える。彼は軽く肩をすくめて言葉を続けた。 「まぁでも、二人とも好きという事で、良いんじゃないですか? むしろ下手に一人を選ぶより平和かもしれません」 「……なんか、結構寛容なんですね、学園長」 「私が、というよりこの世界が、ですね。この世界じゃ他人の愛の形をとやかくいう文化はありませんから」 「前から思ってたんですけど、この世界って愛に対して柔軟ですよね」 「ええ、もちろん。愛の形は人それぞれですから」 学園長が微笑む。愛こそが一番強い想いの力であるとされるこの世界は、私にとってまるで童話かファンタジーのように見えたが、この世界特有の考えに救われる思いだった。 「……で、どうします?」 「……お願いしても、良いですか。私、なりたいです、学園長の養子に。将来、この世界でちゃんと生きていくために」 二人の顔を見るのが怖いので、私は目線を思いっきり逸らし、明後日の方向を見ていた。あー部屋に埃舞ってるな〜。 「小エビちゃん♡ コレなぁに?♡」 「養子縁組届けです」 「そうですね♡ で、この裏に書かれているこれは一体なんでしょう?」 「文字です」 「すっとぼけんなオイ」 「ヒエ……」 高めの声から急に声のトーンが急降下したので、思わず情けない悲鳴を上げた。顔を掴まれ、無理矢理二人の方に向けられる。首が痛い。 「いや……私も、こんな事書いてあるなんて……ほんとに知らなくて……」 「みたいですねぇ。どうして学園長はこんなことお書きになったんでしょうか?」 「さ、さぁ……?」 ジェイド先輩とフロイド先輩は勝利を確信したようにご機嫌な様子だった。まさかこんな訳の分からんギャグみたいな経緯で気持ちがバレるなんて思ってもみなくて、背中に冷や汗がダラダラ流れる。 フロイド先輩がプルプル震えている私の左手を取った。流れる様な動作でかさぶたになっている手首の切り傷を魔法で直すと、掴んだ手首をぐっと引き寄せた。フロイド先輩の胸の中に飛び込むような形となる。 「小エビちゃん、オレ達のこと大好きなの?」 「……」 「監督生さん、教えて下さい。どうなんですか?」 「……好きですよ! もう、前から好きです! どっちかなんて選べないくらいに!」 真っ赤になって、ほとんど怒るみたいに気持ちを打ち明ける。目の前の人魚達はニヤニヤと愉快そうに私を見下ろしていた。 「そうだったんですね。とっても嬉しいです」 「え〜! オレ達リョウオモイじゃん! じゃあ正式に番になろ?」 少し屈んだ二人に片方ずつ手を取られて、手の甲にキスをされる。申し込まれたのは交際……よりも大分重い関係性。二人から同時に与えられる重たい愛情に確かな幸せを感じつつ……普通に断った。 「や、それはちょっと……」 「オイどういうことだよ」 「薬を使って孕ませようとしてくる人は遠慮したいですね……」 白けた目で告げると、ジェイド先輩は涼しい顔でこんなことをのたまった。 「排卵促進剤如きで妊娠するようであれば、世の異種族カップルは苦労しませんよ」 「……どういうことです? じゃあなんで昨日はあんな物使ったんですか」 「気分を盛り上げる為に決まっているじゃありませんか。お互いとても盛り上がったでしょう?」 「……」 ヤ、ヤバい人魚に捕まってしまった…… 自分の運命を嘆いたけれど、満更でもないと感じている自分も居た。好きな人、それも二人に挟まれて、欲望を向けられればゾクゾクする。 「……本気で、一生愛してくれる覚悟がありますか?」 期待に震える手が、彼等のシャツを掴んだ。 「私は、もうこっちの世界で生きいくしかないんです。捨てられちゃったら、きっと他の人の倍苦労します。私の事を捨てないって、約束してくれるなら……」 最後まで言葉を紡ぎきる前に、二人は即答した。 「誓って」 「誓うよ」 左右対称に見えて意外と差がある二人が、全く同じ目をして私を見つめた。愛おしいという気持ちが伝わってくるような眼差しに、心がグラリと揺れた。多幸感に目眩がして、ドクンと心臓が大きく鳴った。この二人が欲しい、という浅ましい衝動が私の体を突き動かす。無意識に伸びた指先が、彼等の唇をそっとなぞった。指先を優しく食まれる。鋭利な歯が甘えるように指を噛むが、痛みはない。むしろ気持ち良い。 ちゅ、と音を立てて指を離したフロイド先輩が唇を尖らせて文句を言った。 「てゆーかぁ、オレ達のこと最初から好きなんだったら、なんであんなにえっちするの拒否ってたの」 その仕草が可愛くて、ついきゅんとしてしまう。私は口をモゴモゴさせて小声で答えた。 「だって、体を許しちゃったせいで、良いように体だけ使われて、あとでポイって捨てられたら嫌じゃないですか……」 「はぁ? んな男だと思ってたわけぇ?」 「……なんか……遊んでそうな雰囲気ですし……」 「マジで言ってる? こぉんなに一途なのにぃ?」 ええ〜!と目と口を見開き、わざとらしく驚くフロイド先輩。隣のジェイド先輩は再びシクシクと泣き真似をして見せた。この人、泣き真似するのほんと好きだな。涙を拭う振りをするジェイド先輩は、ハンカチの隙間からチラ、と怪しく光る瞳を覗かせた。 「では、僕たちがそのような輩ではないと、きちんと行動で証明しなければなりませんね。今夜はたっぷりご奉仕させていただきます♡」 「け……結構です!」 私は自分の体を抱き締めて叫んだ。拘束後ろ歩きで二人から距離を取るが、即座にジリジリ追いかけられる。部屋の中で不毛すぎる追いかけっこが始まった。 「どうしてです? 僕たち、決して貴方を捨てたりしませんよ?」 「だってまた朝まで滅茶苦茶にするんでしょう!? 明日の朝起きて学校行けなくなる!」 「だぁいじょうぶだってぇ♡ ちゃんと明日の朝までには放したげるから」 「絶対うそだ! うそだー!!」 オンボロ寮に私の悲鳴が響く。隣の部屋でグリムの「子分! ウルサイいんだぞ!」という怒りの声が飛んできた。どうやら助ける気はないらしい。 「――それではこの契約は成立ですね。年度末の総合成績で、良い評価を取ることができれば、貴方が望む権利を差し上げましょう」 学園長の仮面の奥の瞳が細められた。目の前に差し出された魅力ある契約にごくりと喉が鳴った。 「……良い成績って、具体的には? 私の主観と学園長の主観が違ったら嫌なので」 「ほうほう。具体的な指標で双方の認識の摺り合わせを行う。良いですねぇ。それでは、学年末の総合成績がA……いや、それでは異世界出身の貴方には厳しいですね。総合成績B+でいかがでしょう?」 「B+でもかなーり厳しいですが……うーん、頑張ってみます。ちなみに、B以下だった場合は?」 「その場合は…………バルガス先生の養子にします」 「なんで?????」 好きな人に押されればつい流されてしまうのが私の性らしいというのが、この三日間で自覚した自分の性質である。結局、二人の部屋に連れ込まれ、再びめちゃくちゃにされていた。二人の匂いが感じられるこの空間で愛されるのはとても心地よかった。 「はぁ……フロイドのベッドで監督生さんを犯すのは興奮しますね……♡」 「ジェイドお前ほっんとヘンタイ」 「ひぁ、ぁっ♡ ん、きもひぃっ……♡ あ、なかぐちゅぐちゅ、もっとして……ん、は、ぁっ♡」 彼等に触られれば、たちまち体は熱くなり、快楽への期待感で高まってしまう。この短期間に、そうなってしまった。ぐっしょり濡れたナカをジェイド先輩の骨張った指がぐちゃぐちゃ弄る。 私は堪らなくなってジェイド先輩の厚い胸板にへな、と甘えるようにしなだれかかった。 「しゅきぃ……♡ ぁ、しゅきっ♡ じぇいどせんぱ、ふろいどしぇんぱい、だいしゅき……っ♡」 呂律の回らない口調で、はち切れんばかりに胸の中で荒れ狂う気持ちを告げる。 「は、ん、ぁ……っ♡ きす、したいです……♡」 「ん、いーよぉ♡」 キスを強請れば、すぐさま求めている物が与えられる心地よさに酔いしれた。心のままに好きな人の舌に自分のものを絡めて、啜り合う。 「僕にもください」 「はぁ、じぇいどしぇんぱい……っ♡ ちゅーする……♡ は、んぅ……っ♡」 大好きな人二人からこれでもかと求められ、愛を注がれ、多幸感でどうにかなってしまいそうだった。好きな人と好きな人に挟まれて、愛に押しつぶされる幸せに目眩がした。以前ジェイド先輩は、私が何も出来なくなることで二人に依存させたいと言っていたが、その考えは甘い。二人の溢れんばかりの重い愛情に挟まれて溺れさせられては、逃げられない。一人なんかじゃ足りない。もう二人からの愛がないと満たされない。他では満たされることがないならば、この二人に依存する他無いからだ。生活能力を奪って依存させるよりもよっぽど効果的だろう。 「すき……だいすきです……」 私は汗ばんだ二人の背中に腕を回し、厚い胸板に擦り寄った。ここが、世界で一番居心地の良い場所だった。 「ずっとわたしのこと、愛してくれますか……?」 興奮で潤んだ瞳で二人を見上げる。降ってくるのはキスの雨。甘ったるい言葉が与えられ、それに溺れた。ここじゃないと、息も出来ない。 「ええ、一生愛してますよ」 「ずっと愛してるよ」 ゾクリとするほどの、歓喜が湧き上がった。 ーー監禁脱出大作戦! 大、成功……? 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