悪夢の始まり
「パパ」
「ん?」
「桜、ずっとパパと一緒にいてもいいの?」
ゲホッゴホッ・・
珈琲を口に含んでいた赤井はもう少しで拭きだす所を堪えて噎せた。
「パパ!? 秀パパ!? 大丈夫?」
ケーキを食べるのを止めて近寄って来るとトントンと背中を叩く桜
「ゲホ…ッ だ、大丈夫だ。 ―…一寸、嗽をしてくるから、ケーキを食べてしまいなさい。―…… 話はその後だ」
「うん……」
赤井は嗽をしてそして桜がケーキを食べ終わるのを待って、テーブルの上を片付けるとおいで、と手招きをしてリビングに移ると桜を膝を上に座らせる
「さて、と」
赤井は小さな溜息を付く
「俺と一緒にいていいのかって言ってたな? 一体どこからそんな事を?」
聞いてきたんだ、と言いかけて至極真面目な顔の養女をみて溜息を付く。
「だって、パパ、アメリカにいた時はお仕事優先で、稀に公休があっても、いつも桜をミュージカルとかに連れってくれて、女の人とデートとかする余裕なんて無かったでしょう? 今は、金曜の夜から日曜の昼までは一緒に居られるけど、事件が片付いたらアメリカに戻るでしょう?」
「アメリカで自分と同等の話ができない学校なんて退屈だって、体験入学で挫折したろ?戻ったら飛び級で大学にでも行きたいのか?」
「大学は行きたい。でも桜の見かけで大学に行けば、いくら飛び級のあるアメリカでも目立っちゃう。 なら小学校の授業の後、ピアノのレッスン教室と声楽のお教室に通って時間を潰せばパパ、女の人作れるかなー……って」
「気にしてるのか?」
「―……」
赤井が白銀桜と名付け、アメリカ生まれの国籍と戸籍を与えた少女には4歳迄の記憶がない。
と、言ってもあの時代の―…組織の記憶があっても困り者だが。
なので本当の名前も分からない。
だが、法律上は正式に養子縁組を組んでいる為、旅行先では白銀・A・桜としての名で通しているので年齢的に赤井が若い頃の子とみられる。
何も知らない人からは「若くて格好良いパパね」と言われ
赤井は「こんな大きくて可愛いお嬢さんが居た何て!!」と驚かれる
母親に関して聞かれたら不幸な病で早世した事にしているがシングルファーザーやシングルマザーは珍しくないので問題はない。
「なぁ…… 桜… サラ?」
赤井は少女を横抱きにして抱き締める。
「俺は、父親として失格か?」
「!!」
「俺は…… 世間からみたらシングルファーザーで、しかもお前の知能が高いから学校もスルーしてるから、傍からみたら奇妙にみえるだろうが……」
「違うの」
「違う?」
「だって、桜が記憶を取り戻した時……パパはどうなるの? もし、本当のパパとママがとても良い人だったらー…… もし、桜が長生きできなかったら」
「サラ!」
赤井は声を荒げる
「長生きできないなんて云うんじゃない」
「でもっ」
「大丈夫だ」
赤ん坊の時に受けた心臓移植と、染色体異常で性分化疾患(両性具有)で女性として手術を受けさせられたのはカルテに残っている。
組織が女性を選んで高額治療を受けさせていたから、桜は今、生きている。
アレルギーもあるからレッドカードは常時携帯。
「大丈夫。 大丈夫だから。」
赤井は桜を抱き締める。
「何回も言っただろ? 心臓移植の手術は成功している。 確かに、走ったりすることは出来ないし、アレルギーにも気を付けなくてはならないが、歌は唄える」
( だから変な事を考えるな。 組織の事を思い出すな。俺だけの娘でいて欲しい。ジンの事を、組織の事を忘れて―… 友達を作り―…)
「パパ?」
「俺にはお前が居ればいい。」
「でも」
「頼む。―… パパにはお前が必要なんだ」
赤井は膝に置いた少女をしっかりと抱きかかえる。
「お前がいるから、俺は強くなれる。 お前と会えたから俺は救われた」
「パパ」
「お前が大きくなって、世界一幸せな日を迎えさせるのが俺の役目。」
「でも。 もし、桜の記憶が戻ってパパを忘れたら―…(ジン兄の所に帰りたくなってしまったら)」
「楽しい想い出は心の何処かに残る。お前が忘れている昔の事も、楽しかった事は心の何処かに残っている筈だ。」
「うん…」
「お前の唄は仕事で疲れた俺を癒してくれるんだ」
「唄―…」
「お前は歌の女神に愛された娘。俺の大切な娘。」
「パパ」
(でもパパ。 パパは私に隠している。)
パパに会いたくて、病院に忍んで行ったあの時。
屋上で聞いてしまったあの計画。
「パパ、桜に隠し事なんてしないよね? パパは桜だけのパパだよね?」
「―…! そう、だな。 赤井秀一にとって娘は桜だけだ」
「パパが護ってくれるんだよね?」
「あぁ… そう、約束をしたな」
(すまないサラ 俺は、明美への罪悪感から坊やの計画に乗ってしまった)
「辛い、悲しい思いをさせても、俺は何時もお前を愛している」
(あのボウヤは、お前が俺の愛する、娘である事を知らない)
(パパは私に優しい嘘をついた。)
(お前はアメリカに帰ってしまうのだろうか。 それとも日本に残るのか)
アメリカにはお前を妹分として可愛がってくれる仲間たちがいる。
事を起こすのは13日の金曜日
それは
長い悪夢の始まりの日
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