絆〜 守るべき者〜
「くしゅん」

小さなくしゃみを聞き咎めた赤井はフレンチトーストを焼こうとしていた手を止めて、養女にしたばかりの桜の部屋に向かった。

「くしゅん、くしゅん……!」
「桜? 入るぞ?」

赤井は眉をしかめてドアを開ける。

起きたばかりらしい子は窓の外に振る季節外れの粉雪に見とれて、冷たい空気に当たっていたらしい。

「そんなに窓を開けてたら、風邪をひくだろう」
「秀パパ。 おはよう」
「おはよう、お姫様。 窓を閉めなさい。この時期の雪は珍しいが、開けっぱなしはお前の躰には毒だ。」
「ごめんなさい」
「全く……」

しょぼん、となった桜に赤井は笑いかける。

「景色に興味をもつ事はいい事だが、春先とはいえ朝夕は冷え込むから、窓を閉めて見ろと言った筈だったんだがな?」
「でも! 雪を見るのは初めてだもん」
「ー… そう、だったな」

組織の中で育ち、躰が弱く抵抗力も無い為に、温度管理された部屋で育ってきた。
どのような部屋だったのかは想像だが、窓のない病室みたいな部屋で、リサイタルの時だけ外の世界に触れていたらしい。

(この降り方なら少し積もるか……?)

赤井は窓の外を見て考える。

「ご飯が済んだら、雪見ドライブに行くか?」
「ドライブ?」
「今日は公休だから、お前の好きなレストランにランチを食べに行こうかと思っていただんだが、デパートの展望台に行けばもっと見晴らしがいいだろう」
「ホント?」
「雪が振り続けていれば、だがな」
「行きたい! もっと雪が見たい」
「じゃあ、朝食にしよう。フレンチトーストを作ってやるから、ちゃんと食えよ」
「うん」
「いい子だ」

赤井は抱き上げて頬にキス一つ。

「さ、着替えておいで。窓はしめておくんだぞ」
「うん」

見た目はまだエレメンタリースクールの1年位だが、桜は殆ど自分事をしてのける。
FBIで然り気無く知能テストをした結果は驚くべき数値で、属にいう天才児。
軽く高校生レベル。
下手したら即日大学生というのが結果だったが精神年齢は見た目相応の子供。
心臓移植を受けた後の検査は良好で、組織の医療技術のレベルの高さと教育レベルの高さを赤井は達は知った。

問題は体力で、貧血から血圧の低さから食生活改善策が山とある。

が、赤井にとってはそんなことは些細な事だ。

腕の中に抱き込めば構ってとばかりにすり寄ってくる。
食べれない物も沢山あるが、自分が作ったものを食べて、笑顔を見せてくれる時
転寝してる時
小難しい理論を教えてもらって居る時のキラキラした瞳。
とにかく可愛くてならない。

我儘が過ぎて怒れば持ち前の知識で反論してくる。
小さな守るべき存在。

愛すべき少女が、少しずつ世間を知っていくが、奴等との決着はまだ付いていない。

けれど、桜を守るため
裏切ってしまった人の為にも逃げ出せない後始末。


Rururururu……

古い、未だに解約出来ない携帯が鳴る。

「パパ、古い子が鳴ってる」

桜が携帯を持ってくる

「あぁ ありがとう」

赤井は、メールを見て目を見開く


"大くんー…"

忘れたくても忘れられない呼ばれ方。

"もしこれで組織から
抜ける事ができたら
今度は本当に彼氏として、
付き合ってくれますか?"

(ー……!)

赤井はパチンと携帯を折りたたむ。

「パパ? 何かあったの?」
「いや、なんでもない。」
「ホント?」
「ああ…… 古い―… 桜が生まれる前から知り合いからのメールだ」
「ホント?」

じっ……と みつめてくる翡翠の瞳。

「本当だ。 今のパパにとって一番の宝は桜だからな?」
「でも、」
「さ、食べてしまおう? 雪が積もると車を出せなくなってしまうからな」
「ドライブ、行けるの? お仕事のメールじゃないの?」
「あぁ…… 仕事とは全く関係ない。」

(気に成らないと云えば嘘になるが)

このメールが届いても、返信する事は出来ない。
メルアドそのものは変更し、組織絡みの電話は、別途保存した後クリアして全て削除した。
ショートメールで届いている為、無視していても大丈夫だろうと、赤井は思った。

番号は一定期間を置いて使い回しをされる。

見知らぬ人が受け取ったなら削除しても分からない。

(すまない。 明美。)
それと同時にまた日本に行くことになるだろうという確かな確信を覚える

赤井はもぐもぐと、好物の苺のソースをたっぷりかけてフレンチトーストを頬張る少女をみて思う。

お前が危険な事をしようとしているとわかっているのに、何もしてやれない。

「パパ、食べないの?」
「桜が珍しく食欲があるなと思ってな」
「フレンチトースト、甘くて美味しい」
「そうか? さて、早く食べて出かけようか。でないと雪が溶けてしまう」
「え…… やだ! 雪見るの、雪!」
「そうだな。 風邪ひかないように厚めのコートを出そうか。」
「うん」

桜の返事に赤井は苦笑すると、自分用に焼いたフレンチトーストにフォークを入れた。


俺はもう、この子を手放せないから。
せめて
お前の変わりに、俺はこの子を守ろう。


PSの後に続いた言葉


それは――――――


まだ言えない。
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