Act-12 RYE
3ケ月近くの海外勤務の後、暫くは平穏な日が続いた。
仕事といっても日本国内で長くても3日〜4日の地方。
海外とは緊張感が全く違う。
リサイタル会場はアイドルが開催する様な場所は使わない。 
美術館が併設で有る音響設備の整った会館。
合間を縫って幾重にも張ったルートで、歌媛ディーヴァの<リサイタル>に使われる果物の配達ルートに配送業者を調べて、仲間達が配達員として潜り込む。
歌媛専用の医療スタッフが使う黒い大型のキャンピングカーを用意して、<リサイタル>に向かう時にすり替える手配……
歌い手達を乗せて来る、組織のマイクロバスの運転手と、同行する護衛のランクと技術確認。
経由するルート。
時間はあればあるほどいい。

おそらく、歌い手の子供たちを保護する機会は1度だけで失敗すれば後がない。
保護手段はかなり狭い。
しかもディーヴァにはあのジンが護衛に付くという。

そして、俺に幹部としてのコードネームが正式に発令されたのは、明美からコードネームの話を聞いて2ヶ月位した後。
ディーヴァ<リサイタル>の警備のスタッフとして2度目の依頼を受け、決まった後だった。

「どうする、諸星? ……いや、ライ? 警備の仕事をキャンセルして新幹部のRAYとしてディーヴァの<リサイタル>の招待客になるか? 新人を招待ってのは滅多に無いぞ? 大概、幹部になって2年目位だ」
打合わせに行ったら辞令と<リサイタル>の招待状のコピーをぴらぴら見せられ、警備主任が面白そうにからかってくる。

「勘弁して下さい………。 朝からブラックタイのタキシード着て、シャンペン片手に招待客の金儲けの話に付き合うのは俺の性に合いません。 かといって歌媛の声を聴く機会なんてそうそう有りませんから、タキシードは着替で持って行って、タイミングをみて、リサイタルが始まる前に着替えをさせて頂ければありがたいんですが……」

要人のSPとしてフォーマルな場を警備する一人にというのなら任せろ、といいたい所だが、(仮にも)名を馳せた財閥の有名人やら社長連中と一緒になって、株やら政界の話やらの儲け話を一緒に楽しむ気にはなれない……
諸星は溜息を付きながら答える。

「ははっ! お前ならそういうと思った。リサイタルは6時からだ。 5時で上がって、会場のシャワー・ルームを借りれるようにスケジュールを組んでやる。」
「ありがとうございます。リサイタルが終わったら、警備スタッフに戻りますよ」
「前々回、お前の警備には手ぬかりがなかったからな。 撤収まで気を抜くなよ」
「はい」

主任の言葉が耳に残る。

「それから、ライが居ない時間は、透をフォローに入れる」
「安室君、を?」
「残念ながら透が幹部になるにはあと1年はかかるだろうなぁ…… 前回、いつも呼んでるスタッフもお前も任務中で呼び出しが出来なかったから透を警備に入れたんだが、招待客にナンパされて仕事量がこなせなかった為、マイナス評価を付けざるを得なかった」
「……もしかして衝立の向こうに隠れている、金髪の可愛い坊や…… 噛み癖のある仔狼君ですか?」
「……だと思われてるぞ、透」
「……酷いなぁ……噛み癖のある仔狼 なんて」

くすくすと笑ってお盆に珈琲カップを3つ置いて姿を見せる子狼。

「確かに僕は童顔ですが…… 新人はないでしょう? 主任の下に配属になって2年になるんですよ? 坊や呼びは止めて下さい」
「透がライのような立派な狼になるにはまだ暫くかかるだろう。 諦めろ」

くしゃくしゃと安室の頭を撫ぜる。

「…… 此だもんなァ。 ライさんを知ってから、何かと比べられるんですよ! 責任、取ってくれませんか?」
「くっくっく……。 主任の云う通り、可愛い坊やだな? 会うのは2度めか」
「ライさんまで”坊や”呼びは止めて下さ……。あ、その前に、 幹部に昇進おめでとうございます。 改めまして、安室透です」
「RAYだ。 宜しくな、金髪の狼君。俺のフォロー中に招待客に逆ナンされないようにな?」
「逆ナン……って。ライさんまで…… はいはい。何とでも云って下さい。 その内立派な狼になって見せますよ」

少し鹹かったら頬を膨らませる金髪の小さな狼。

彼はどちらサイドの人間なのか
次のリサイタルで邪魔になるようなら
諸星は当日のタイムラインスケジュールをみて警備主任と安室との打ち合わせに入る。

「ライさん?」
「何だ?」
「妙な事…… しないでくださいね?」
「妙な事?」
「ここは僕の国ですから できるだけ他人を入れたくないんですよ」
「ああ…… そうだな。 ここは”日本”で、俺達の国。 よそ者は排除して当然……」

くすっと笑って答える。
”僕の国”か。

「……では、当日。 4時45分に引き継ぎを兼ねて、ライさんの持ち場に伺います。」
「了解した。安室君になら任せられるだろう。悪戯はほどほどにな?」

狼少年は少し目を細めて丁寧に一礼すると背を向ける。

「可愛い噛みつき方をするボウヤですね。 どこかの警察関係者であるの人間がいうような事をいう。 そう思いませんか、主任?」
「……そうだな。 言葉使いを気を付けるように躾をしよう……」
「ここは俺達、黒い狼の巣穴ですから優秀な人材を失いたくは有りません」

諸星は不敵な笑みを見せる

「お前は…… 目先の事に囚われるなよ?」
「はい。急いては事を仕損じる、とも言いますし」

二人で顔を見合わせる。

「ディーヴァのリサイタル…… お互い、生き残りたいですね……」
「ああ そうだな」 



失いたく無い。

この男を
ライこと、諸星はそう思った。
じっと爪を研いで居る強い男を


生き延びて



いつか



美味い酒を酌み交わしたい
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