Act-08 葬儀 後編
「いいか? 家の近くには新聞記者もTV局の連中もいる。」
「……!」
「車は玄関まで横付けさせるから何も見るな。わかったな?」
「墓地周辺は流石に立ち入り禁止にはできなかったが、軍の警備を配置させた。葬儀の撮影許可はどこにも出してない。ただ―…… 葬儀会場前までは車を乗り付けができないから、何か聞かれるかもしれない。我々が出来るだけガードをする」

こくん、と頷く姫湖。
あの事件から約1ケ月。
解剖や関係者への調書等でのびのびになっていた葬儀。
姫湖は殆ど喋らない。

ただ、女性医師が、乱暴された訳でもなく、女性特有の月のめぐりに重なっただけという優しく丁寧な説明には納得して、子供ながらも安心したようだった。

「いくぞ、姫湖」
「大丈夫だ。 車の後部シートの窓にはスモークシートを貼って、遮光カーテンも着けたから画像が撮れたとしても影だけだ。前席との境にもカーテンの仕切りをつけさせた。」
「……ぁ…… ぁ り が ……」
「姫湖。無理に喋るな。 大丈夫だ」
「気にしなくていい。 君は、躰を治す事を考えていればいい」

大佐が答える。

「大佐。 墓地の方も、関係者以外の立ち入り制限を設けました。 墓地のゲートから式場迄は背の高いSPが撮影避けに付きます。  姫湖ちゃんは体調不良を押しての葬儀出席の為、顔や姿形の撮影放映は禁止。インタビューも禁止。聞きたい事は全て文書似て後見人の赤井さんを通す事ー……。」

護衛車の兵士が敬礼をして報告にくる。

「車を回せ。前後に護衛車を。」
「はっ!」

TV局のパパラッチはもの凄かった。
国防総省の幹部一家の惨殺事件。
一家の主はイギリス王家の近衛兵士達に護身術の一環として截拳道を教え、海外視察の時は警備を任される事も多かった。
息子はFBI切っての切れ者でやはり截拳道の使い手。
夫人は元ICPOの刑事だったが、結婚を機会に危ない仕事は一切縁を切り、今では得意の料理でケータリングを趣味とする主婦。
そして、娘は小学校を飛び級し、将来を嘱望される程ピアノで才能を見せている。
……となれば唯一生き残った娘の姿やコメントが欲しいのは無理もない。

ピアノが弾ける状態ではないので音楽教室には暫く通えない旨を連絡してあるが、姫湖の担当教師のコメントやら中等部校長のコメントやら大騒ぎだった。

勿論、俺の家族たちも……
姫湖と仲を取り戻したい真純は連日のように見舞いに行かせろと喚いていたが、面会制限中だと言って切りすてた。

だが、葬儀となれば別だ。
#姫子#に抱き付いたり、記者に喧嘩を吹っ掛けたりせず、おとなしくしているのを条件に弟と一緒に参列を許した。

神父が聖書を読む間も讃美歌の時も、大きな目に涙を溢れさせて。

そっと涙を抑えてしっかりと肩を抱きしめる赤井。

(見届ける。姫湖ちゃんの替わり。 お父様とお母様、聖お兄様。 ―…… ご免なさい、アーチ。もとの世界に戻れる可能性は無いかもしれない。  私の躰に、姫湖ちゃんの精神が行ったのかしら? もし、行ったなら、眼を醒ましたらパニックをおこすわ。 そうなる前に還してあげたい。 それなのに―……)
喪服は家だというので家に行った。
がくがくと震えが止まらなくなるけど、赤井さんが居てくれた所為で震えが止まる。
雪乃としての記憶は家の中を覚えてないのに、姫湖としての躰が部屋を覚えていた。

棚の上にあるのが喪服―……
取れないので赤井さん……しーちゃんに取って貰った。
髪を纏めるのは慣れたもの。
医学の勉強で研究の邪魔にならないように纏める事を覚えていた。
赤井さんはびっくりしてたけど、姫湖ちゃんは御洒落さんだったらしく褒めてくれただけだった……。



「姫湖…… 姫湖?」
「ー……?」

何度か呼ばれて葬儀の場だった事を思い出す。

「大丈夫か? 真青だぞ? 葬儀は俺達でお前の分も見送ってやるから、教会の中で、休みなさい。」
「(ー……嫌。)」
「姫湖」
「(パパとママとにぃにぃー……あーちゃんを見送るのは、姫湖の役目よ。)」
「そんな顔色で外に居たら倒れる」
「(姫湖は、パパもママも、にぃにぃも大好きだもの。 忘れちゃ、ダメだもの。 忘れたら…… いけない。見送るの)」
「……だったら、俺に寄っ掛かっていろ。」
「ー……」
「大丈夫だ。泣くだけ泣いて…… 此処でなら、どれ程泣いても咎める人は居ないから」
「ー……」

姫湖は黙って堪える。

軍の主だった将校達が参列し、母親の、今では友人として付き合ってる仲間や、FBIの幹部も臨席。

遺体の安置された 棺には国旗が被されている。
深く掘られた土の中に納められる3つの棺。
軍の上層部の参列に弔砲。
棺に掛けられた国旗が兵士達の手で折りたたまれ、国防総省総監自らの手で遺児である姫湖に手渡される

「パパ…… ママ…… にぃにぃ……」

絞り出すような言葉。

「(どうか、迷ってる姫湖ちゃんを見つけてー…… 赤井さんが護ってくれるから心配無いと)」

パアン……

葬儀に参列し、正面に整列した兵士達が、連続して、弔砲を撃ちならす。
戦死したわけでは無いが、それだけの要職に居た証拠。

「(どうかー…… どうか、安らかに。 姫湖ちゃんの魂が戻って来るために……)」

大々的にNEWSになった為、そして、王室の護衛をした経験も有る父親の為に、王家直属の近衛兵士の礼服を見事に着こなした男が、代理の勅使として見事な弔華を届けに来た。

「陛下からのお志です。」

勅使は独り遺された少女に丁寧に頭を下げて、小さな箱を手渡す。

「毎年の海外視察の時の護衛の指揮は見事な物だったと。今年の視察地時は出きればご子息共々、護衛をまかせたかったと、仰っておいででした」
「あ…… あり、がとう 御座います。 陛下からの御言葉,パパー… 父も母も、にぃ ー…… 兄も、喜んでると、お…… 思い ます」

思っても見なかった弔問客に、掠れ声だが、確りとした返事を返す姫湖に赤井は驚く。

「私は准将の事を存じてます。 お会いするのは年2回程でしたがー…… いつも御家族を大切にて、自慢しておられた。」
「ー…… 父が?」
「准将愛用のプライベート・タブレットには、ご子息の試合の録画と、貴女のピアノコンクールの録画と、奥方とダンスをしてる動画が、沢山入ってました。」
「ー……動画」
「私の宝物。そう言っておられました。」
「パパー……」

気丈に応対しているものの、顔色は悪く赤井が支えて居る状態。

「赤井捜査官」
「はい?」
「貴方が、後見人と聞きましたが」
「その通りです」
「では、此れを」

男は姿勢を正して1枚の封書を渡す。

「有る連絡先が入ってます。 ー……なお、准将の功績により、 陛下の名に於て、瑞樹姫湖は成人するまでの生活の保証がされます。と、言っても援助等は必用無いかも知れませんが。 万一の憂慮が有った場合、王家が力を貸すと御記憶下さい。 連絡はその電話番号かメール迄」
「ー……!!」
「陛下は、准将の事を其れだけ高く評価しておられました」
「陛下に、お礼をお伝え下さい。姫湖はまだ ー……体調不良で」
「構いません。 お嬢さんの顔色をみればわかります。 ー…… それでも、御家族を見送ろうとする強さは、准将譲りなのでしょう。 無理せず、ゆっくり静養して治す方がいい。 」
「そうさせます」
「では。 ー……帰るぞ」
「「はい」」

男に従って来た近衛兵士部下が踵を会わせ、姫湖と赤井に深く一礼する。

「(ー……)」

姫湖は丁寧に頭を下げた。

「姫湖。ー……もう、充分だ。 此れ以上は身が持たない。 教会の控え室を借りて休むんだ。」

赤井が言うが、姫湖はフルフルと顔を横に振る。

「ったく、妙に頑固な所は聖さんそっくりだな。」
「ー……(にぃにぃ)」
「あぁ。 聖さんも決めた事は貫き通そうとする人だった。」

「(何処に居るの……)」
「さぁ…… な」

赤井は優しく頬を撫でる。
思わぬ弔問客に葬儀の時間は伸びたが、幸い雨が振る事も無く、粛々として終わった
真新しい墓碑の前に佇む姫湖

「秀兄、姫湖」

葬儀が終わってそっと寄ってくる妹。

「どうした、真純。お前は先に帰れ。 明日は学校だろう。」
「うん。 でも、姫湖気になって。 秀兄、何時、家に帰ってくる?」
「俺が付いてる。心配するな。 ー…… まだ当分、家には帰れないから、お母さん達と帰りなさい。」
「ー……はい。」
「学校で葬儀の事とか話すなよ。 NEWSで放映されてるだろうが、好奇心で探ったら、どうなるか、わかってるな?」
「わ、わかってる」

姫湖に声を掛けて三々五々と帰っていく参列客。
将軍達と、姫湖の親族は、故人を偲ぶ為に、瑞樹の家に行き、FBIで手配したケータリング業者の心尽しとワインや、ビールを飲むのだろう。
酒は、おじさんと聖さんが好きだった銘柄。
料理はお任せだが、姫湖 の好きなコーンポタージュはいれて、残しておくよう依頼済みだ。

「姫湖は凄いね」
「ん?」
「僕だったら、きっとあんな風に出来ない。役立たずでワーワー泣いてる」
「ー…… 泣くだけの体力がまだ戻ってないからな。 一度ベッドに入れたら、暫く寝付くだろう……」
「そっか…… じゃあ、帰るね」
「姫湖が落ち着いたら、一度戻ると伝えてくれ」
「分かった」

掛けだす真純は姫湖の方は振り返る。

姫湖は黙って墓石の前に佇んだままだ。

「家に帰ろう。 お客様方が、おじさん達を偲んで先に行ってる筈だ」
「(家の鍵は)」
「ジョディたちが先行で帰って、ケータリングを手伝ってる筈だ。」
「(分かった。 来てくれた将軍方に、ちゃんとご挨拶しなきゃね)」
「―…… ああ…… そうだな。」

赤井は頷くと軽い躰を抱き上げると車まで運び後部シートに座らせる

「だけどな。 お前に必要なのは躰を休める事だ。 家まで30分程だが…… それまで少し休みなさい。」
「(しーちゃん?)」
「少しでも躰を休めておかないと、家に帰った途端に倒れるぞ」
「(ん…… 分かった……。 起こしてくれる?)」
「約束する。家に付く10分前に起こしてやる」
「―…」

赤井の言葉が終わる前に少女はコテン、と眠りの世界に入っていった。
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