Act-09 護り人 前編
「姫湖 ……姫 ……? 大丈夫か?」
「……っ?」
暖かい手で優しく頬を撫でられて目を醒ました。
車に乗って、直ぐ、姫湖としての意識は飛んだ。
赤井さんの肩に凭れて赤井さんの服を掴んでー……
赤井さんが、ずっと、私の背中や肩を温めるようにさすってくれた感覚が残っている
葬儀の時の疲れも、赤井さん―…… しーちゃんの手の温もりで取れたように感じた
「そろそろ家に着く。ー……歩けるか?? 躰が重いなら抱いてやるぞ」
「…… 平気。でも…… 少しだけ…… 車を止めてほしいの」
姫湖の言葉に運転席の男が助手席の大佐を見て、大佐はイヤホンで短く指示をだすと、頷いた。
「ありがとう…… 家につく前に落ち着きたくて……」
「車に酔ったか? 熱はないようだが……」
墓地から家に着く迄、ずっと赤井さん ー…… しーちゃんの手の温もりを感じてた。
背中を擦って頬にキスをくれて。
ヒーリングや、ふれあいというのは、こんなに気持ちいいものなのかと、アーチとお祖父様以外で初めて感じた。
赤井さんが、どれ程姫湖ちゃんを大切にしていたのか。
姫湖ちゃんにとっては、両親の親族よりも信頼できる存在。
でも、この世界で、小さな躰で生きるなら、親族に引き取られるしかない。
赤井さんと別れて?
嫌だ。
あの、親戚の人達は姫湖の躰が、嫌がって居る。
「お前はまだ子供だ。将軍達の対応は俺がするから、無理せず寝ていて構わないんだが ー……」
「いいの。 将軍方はパパと公私でお付き合いの有った方々だから。 叔父様方に任せて居たら失礼だもの。」
「ー……」
「瑞樹の娘として、ちゃんと御挨拶位出来なかったら 、パパやママが天国で哀しむわ。」
(姫湖は日本の葬儀でいう喪主なのだから、その代理位務めて見せる……)
「そうか……」
赤井は子供の成長の速さに瞠目する。
確かに普通の子供より頭もよくて、飛び級迄した。
妹と比べてもそれはわかる。
けれど、事故から僅か1ヶ月程で、一気に大人びた雰囲気をだしはじめた。
家族を喪うというのは、こんなにも変えてしまうのか。
赤井はそっと抱き締める。
「(大丈夫。 ー…… まだ、持つから。)」
(まだ、倒れるわけには行かない。)
「将軍方に挨拶をしたら直ぐに部屋に引き取って休むんだぞ? 親戚の人達は、俺が適当にあしらってやる。」
「ー…… (姫湖は伯父さま達に引き取られるの?)」
「姫湖が望むならな。だが、1年近く前、俺は、おじさんやおばさん、聖さんから、万一の時はと、後見人を任された。 俺を選ぶか、親戚を選ぶかはお前が決める事だ。 お前にはそれだけの判断力があるだろう?」
「(そうー……)」
「直ぐに決める必用は無い。だが、今のお前に必用なのは休養ー…… 躰を休める事だ。誰と暮らすかは、躰が回復するまで…… 回復してからでもいいが…… それから決めればいい事だ。 それに声が掠れてきてるぞ」
「ー……」
(赤井さんの云う通りだ。姫湖の躰は限界に近い。でも、ベッドに入ったら1日以上寝てしまうだろう……)
雪乃は思った。
(せめて、姫湖ちゃんが、この躰に還って来た時、誉めて貰えるように。 記憶が共有出来なくても、葬儀の時、お前はとても立派だったと言われる様にしてあげたい……)
手に持っていたバッグから鏡台から持ってきたコンパクトを取り出して顔色を確認すれば、真っ青。
纏めておいた髪も崩れて居る。
小さな溜め息を吐いて、帽子を取るとパサリとをほどいて小さなヘアブラシで整えだした。
(家の中なら帽子は必用無い筈ー……)
長い髪を背中に流す様にサイドだけ纏め直し、顔色を隠す様にファンデーションを叩く。
雪乃として、実験や研修で時間に追われる日を送った為に、鏡がなくてもある程度の髪の直しは出来る。
(でも、姫湖ちゃんはまだ子供。髪をアップにしなくてもサイドだけ邪魔にならないように纏めればいい…)
実験の邪魔にならない様に、薬品に髪が落ちないように纏めていた。
短いお昼休みに手早く整えて実験に戻る事もあった。
でもアーチとのデートの時だけは後ろに長く伸ばしていた。
普段髪をアップにしている所為か癖っ毛ぽく巻かれて。
私はパーマーをかけなくてもいいと内心喜んでいた。
(懐かしい想い出になるのだろうか)
姫湖は思った
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