LOST CANVAS - クリスマスの残像-
「宮野〜〜っ!! いるんだろ〜〜〜!!」

新一は阿笠邸のドアを開けようとして鍵がかかっているのに気が付いて声を張り上げた。

「いるんだろ! 宮野っ!!」

ドンドン、とドアを叩けばパタパタと足音がする。
ガチャリ、とドアが開き、新一は出てきた相手を思い切り引き寄せる。

「なんだ・・ お前か」

ふっと顔面に煙草の煙を吹きかえられて盛大に咳き込んだ。

「ゲホっ! ゲホ・・ゴホッ! って、なんでテメーがここにいるんだよ!」
「昨年の21日からずっといるが?」

けろりとしていうのは黒いスーツに銀の長髪の・・
つい、数か月前まで敵対していた組織の幹部。

「てめっ・・!!」
「ジン? 年始早々大声はご近所に迷惑ですよ? お客様なら上がって頂いたら如何です?」

奥のキッチンから聞きなれた声に、ジンに殴りかかろうとした新一は我に返ってバタバタとキッチンに向かう。

「宮野!! 何なんだよ! あのメール・・!  って沖矢さん!? 何してるんです?」

新一は沖矢の姿に立ち止まる。

「何・・って・・ 御節料理の追加を、お重に詰めているんですが?」

タッパーに入っている蒲鉾、数の子、昆布巻き、伊勢海老、黒豆、煮物、栗きんとん、チキン、赤飯。
そして一回り小さなお重には色とりどりの和菓子、そしてクリスマス用に作ったと思われるシュトーレンのラスク・・・。

「沖矢さん、テーブルの上は一端綺麗に拭き直しましたよ。 新しいお重・・・ あ、いらっしゃい、工藤君。どうしたんです?」
「いっ・・ あ、安室・・さ? え? なんで安室さんまで・・」
「え?ああ・・ 僕は、飛び入りなんですが、23日から遊びにきているんですよ? 明日には帰らないといけないんですけどね」
「・・・はぁ・・!?」

新一は居間のソファに悠然と座って、煙草を吹かすジンの後ろ姿。

「沖矢さん! どーゆー事です! コレ! ここ、阿笠博士の・・ 宮野の家ですよね?」
「そうですよ? 阿笠さんはフサエさんと結婚したでしょう? それで、お披露目もかねて12月〜1月は各支店めぐり、クリスマス〜お正月はフサエさんの御実家で・・。」
「それは知ってるます!」
「で、志保さんがここを預かる事になったんですが、女性の一人暮らしは剣呑ですからねぇ・・ 僕と赤井さんが交替で・・という所でしょうか・・・」

沖矢が云う。

「それならわかります。 俺が知りたいのは! ・・・な ん で !! アイツがいるのかって事ですよ!?」
「あー・・まぁ・・・それは志保さんが帰ってきてから・・という事で。 新一君も食べていきますか? 
飛び入りが一人二人入ってもお皿も箸も十分ありますし。 煮物と金団、黒豆、雑煮の出汁は志保さんが沢山作ったんですよ。」
「宮野の! 勿論食べます! じゃなくて!! 肝心の宮野はっ!!」
「志保さんは、赤井さんと煙草とお酒とお摘みの買出し中です。 空いてる席にご自由に座ってて下さい。 今、ビールを・・ って、切れて、志保さんと赤井さんが買い出し中でしたね。 ー・・安室君。新一君がとても邪魔です。リビングまで連行して下さい。今度は京都風のお雑煮にしますから。」
「アイアイサー! お任せ下さいシェフ!」

新一はずるずると服の背を引っ張られて見慣れたリビングに連行される。

「赤井さんと一緒に買い物!? ちょっ・・ 苦しっ!!」
「つったく 五月蠅い餓鬼だな。」

ぷは、と新一の顔にまた煙を掛けるジン。

「ジン! 立歩きで煙草を喫うな、と志保さんが言ってた筈ですが。」
「あ? ・・ああ。悪ィ。 子犬がキャンキャンと吠えて五月蠅いから、煙でも掛けたら大人しくなるんじゃねぇかと思ってな・・」
「子犬だぁ!? 俺が子犬ならそっちは老犬だろーが!!」
「あ? 今 何て 言った? ボ ウ ヤ?」
「俺はボウヤじゃねぇ!! 高校生探偵の工藤新一だっ!」
「あー・・。 探偵の癖に俺に背後を取られて“幼児化”したガキだったな・・」
「ぐっっ・・! てめぇ・・!」
「阿笠って言ったか? 今だに、あのじーさんの作った靴とか眼鏡とかベルトとかなきゃ事件が解決できねぇ素人探偵(トーシロ)だろ?」
「・・・!!」
「図星か」

ジンの言葉に新一は黙り込む。

「てめー!! 大体、何でお前が宮野ン家にいるんだよっ!」
「自分の女ン家にいて何が悪・・/ 「・・STOP! そこまでよ、ジン」」

ジンの言葉を止めたのは志保である。

「あ、お帰りなさい、志保さん、赤井さん。荷物は?」
「とりあえずビール1ケースと、バーボンにウィスキーにテキーラだろ? あと、ウォッカに・・。それから煙草も3種類程カートンで買ってきた。」
「只今帰りました。 はぁ・・ 赤井さんの車で行って正解だったわ。 氷を3袋、みかんを1箱、炭酸水を5本と日本酒とワインもあるわ。 烏龍茶にアイスにフランスパンの焼きたてとケンタッキー。 あとは鮭とばに裂き烏賊と柿ピーに・・ワインに合いそうなチーズの盛り合わせ・・。 それから部屋の消臭剤も1ダース。赤井さんのカードで買ったから後で男連中で割り勘よ。 車に積んであるから運んでくれるかしら?」
「勿論ですとも。」
「ジン。貴方も手伝ってくれる?」
「ああ・・ 何をすれば?」
「とりあえず・・」

志保はチラリ、と床を見る。

「床に落とした煙草の灰・・ 掃 除 し て く れ る か し ら っ ? 」
「んな・・/「ジ〜〜〜ン〜〜〜? 居間で煙草をすってもいいけど、立って吸うなって言ったわよね!!!?」」
「・・・わ〜〜った・・ 掃除機で吸いとりゃいいだな?」
「ええ・・ どうせ全部片づける時いもう一度掃除機と雑巾がけしなきゃだめでしょうしね・・」

志保は溜息を付く。

「ったく! ヘビースモーカーが3人いるんだから気を付けてよ!! 壁が汚れる!カーテンも汚れる! ソファにも料理にも匂いが付く!」
「まぁまぁ・・志保さん・・・煙草く・・/ 「何か言った!?」」

お重をテーブルに置きながらなだめようとした沖矢は志保に言葉を遮られる。

「ありません・・」
「ならいいわ。 全く! 年末の大掃除に綺麗にしたとはいえ、ヘビーが3人もいたら普段の掃除が3倍大変なんだから! 月に一度、大掃除する時は全員集合ですからねっ!! カーテンのクリーニング代と壁のクリーニング代は順番って事もわすれないでね」
「俺は仕事の公休日にしか来てないのに? 払うなら沖矢かジンだろう?」
「赤井さん? ・・・ 今後1際、この家の中・・庭も含めてと、私の前で煙草を1本も吸わないって約束できる?」
「え・・ それは・・ 無理、だな」
「はい、この件はこれでおしまい。 払いたくないならこの家の中と私の前で禁煙する事。」
「「「・・・・・」」」
「あの・・ もしもし、宮野サン?」
「あら、工藤君、何時NYから帰ってきたの? お帰りなさい。開けましておめでとう。ニュー・イヤーカードはちゃんと、元日に届いたわよ?」

やっと新一に気づいた志保が云う。

「只今〜 宮野っ 元気だった?」

志保の背後からむぎゅ、と抱き着く新一。

「元気よ。NYの有希子さんと優作さんはお元気だった?」
「相変わらずの馬鹿ップルだよ。 でも退屈でさ〜〜 宮野に会いたくて会いてく・・っ!!! げっ!!」

抱き着きながら志保の首に顔を埋めた新一はおもい切り首を絞められて悲鳴を上げた。
がしっ、と背後から引きはがすのは、こともあろうに沖矢と赤井、首を絞めたのはジンである。

「うげっ・・!! 赤井さん、沖矢さん!! ギブギブ・・っ」

志保から引き離されてげほげほと咳き込む新一。

「「「俺の / 俺だけの/ 僕の / 志保 / シェリー / 志保さん / に」」」
「「「近寄るな / 近寄るんじゃねぇ!/ 近寄らないでくれますか?」」」

にっこり笑顔で言われてぎょっとなる新一。

「み・・ 宮野? え・・えーーーと、 何があった?ってかコレ! これの説明しろ!! なんで俺をクリスパーティに呼ばねぇんだよ! プレゼント持って行ったのに!!」


新一がぺらり、と見せたのはパソコンでプリントアウトしたサンタ服・・しかも襟のないパーティ服のようなデザインで首には赤のリボン。
志保が中心になって左右に赤井とジン、後ろに沖矢と安室が映っている写真。
酔っているのか志保の頬はほんのりと赤い。
しかも普段は黒い服しか着ないジンが、赤い・・ 若干黒みがかっている赤・・のサンタ服にサンタ帽・・



「俺はっ! 俺の場所はっ!?この写真でいうと、ジンがいる場所が俺のっ!!」
「餓鬼の居場所があるわけねーだろ。」

声を張り上げた新一の言葉を、ジンがあっさりと切り捨てた

「えー・・とですね。 新一君には申し訳ないのですが、実はこれ・・ この写真の服なんですけど、実は僕が預かったんですよ。 ポアロの常連さんにaskさんってと〜〜〜っても綺麗な女性の方が居て、良く珈琲を飲みに来てくれるんですけど、阿笠さんの家にいる志保さんとジンさんに渡してくれって・・」

ポリポリと頭をかく安室。

「自分で届けたらって聞いたんですけど、二人が子作りのラブラブ最中だったら邪魔はしたくないから・・っておっしゃるんです。」
「・・・・askさん? って誰だ? 事件の関係者?」
「さあ? ジンの知り合い?」
「知らねぇな、そんな奴。 だが、ま、シェリーのサイズピッタリで送って来た事は褒めてやろう。 よくやった!」
「ともあれ、まさか本当にジンがいるとは思って無かったんですけど、若くて綺麗な女性の頼みを断るわけにもいかず・・ 荷物を届けに着たら、まさかの赤井さんと沖矢さんも居て・・? もぉ驚いちゃって」
「酷いのよ〜 ジンってば、私に着ろって強制するくせに、自分は着ないってゆーし!」
「シェリーがクリスマスプレゼントはねぇというから。 服位って言っただけじゃねーか」
「・・で、すったもんだの挙句、志保さんが対抗手段で“無理やり着せるならAPTX4869を飲ませるわよっ!”って言い出しまして。 流石に僕たちには解毒剤を作れませんから、赤井さんも沖矢さんも皆で着るって事で落着して。」
「しかも、何故かサンタ服・・4セット入ってたんですよ・・。」
「って事は1セットは俺ンじゃねーか!」
「工藤君、居なかったじゃない。 日本に」
「・・・・言ってくれたらNY行きを伸ばしたっつーの!!」
「有希子さんが怒るわよ?」
「母さんなら、オメーとクリスマス後に行くって言えば怒らねぇよ!」
「馬鹿云いなさい! 元の姿に戻って初のクリスマスでしょ? どれだけ心配なさったと思ってるの?」
「けどさ〜・・」
「我儘は子は嫌いよ」
「宮野ぉ〜〜〜」
「何よ、18にもなって。」
「・・・・宮野・・ 冷たい・・」

志保の言葉に新一はつぶやく。

「でね。工藤君は日本にいなくて1セット余ったから・・服を届けてくれた安室さんをご招待したの。 勿論コレを着るのを条件に。 ・・・で・・」

「「「「 この写真ができた 」」」

「というか、赤井さんがセルフタイマーで撮っちゃったのよっ・・!! もう!! 恥ずかしいから消去してって頼んだのに!! 工藤君が参加できないからせめて画像の1枚でも・・っって」

「志保のこんな姿滅多に見れないからな。 FBIの俺のPCにも転送しておいた。」
「僕もPCに送って・・」
「僕も・・」
「俺は部屋にパネルにして、PCと携帯にも保存したぞ」
「あ!パネルもいいですねー」
「・・貴方たち・・ それ以上バラまいたら、料理にAPTX混ぜ込むわよ・・」

こほん、と黙り込む4名。

「・・・酷いよな・・ 俺も・・宮野のクリスマスパーティ参加したかった・・」
「だって、工藤君、元の躰に戻ったら行き成り忙しくなったでしょ? 阿笠博士はフサエさんと結婚したから、この家の留守をできるのは私位だし。」
「そこまでなら、納得できる! 赤井さんと沖矢さんも100足譲って納得できる! なんで、ジンがいて、安室さんがいるんだよっ!」
「それがね・・」

「ジンには脱走癖があってな・・・」

赤井が溜息を付く。

「日本警察が監視している施設から、何故か軽々と脱走(フケ)るんだよ!」
「フン。 あんなチャチな監視システム程度で俺を止めて置けるかよ」
「・・・で、毎回毎回、志保が協力してくれて、捕まえるんだが、また脱走するんだよ!」

赤井が噛みつきそうな勢いで云う。

「なら、テメェが俺を監視すればいいじゃねぇか? そうだろ? RAY?」
「それができれば苦労しない・・・。」
「・・と、いうわけでね・・。 ジンってば、最後の最後はここに戻ってくるの。で、日本警察とFBIに捕まるの」

志保は溜息を付く。

「でも、私に危害を加える訳じゃないし? 武器を携帯する訳でもないから、阿笠博士に頼んで、空いてる部屋を一つ、ジンの部屋にして、預かっているのよ・・・」
「・・・はぁ・・!?」

絶句する新一。

「で、くしくもここに来たのは12月の21日のクリスマス前。」
「俺がNYに行った翌日・・・」
「で、askさんという方からの荷物が届いたのが22日」
「まぁ・・ 組織の残党がまだ一掃できてないから、志保のガードをどうするかっていう問題もあってな・・。ジンならその眼力で雑魚を追い払う事は簡単だからな。 GPS機能付きの発信器を躰に埋め込む手術を受ける事と、俺と沖矢が時々監視・・というか、ちゃんとここにいるか確認するって事で・・・」
「何なんですか・・その処分」
「日本警察が24時間監視して、指紋照合が必要なフロアに監禁しても3日位で脱走されてみろ! 日本警察の面子が立たない、何とかしてくれ、ジンの処分をどうすればいいのかと泣き付かれてみろ! ボウヤならどうする?」

「え・・とえ・・と、薬で眠らせる?」
「無理ね。ジンたち、組織で育った生粋の幹部は大抵の薬の抗体を持ってるの」

「手錠でつなぐ」
「関節外せるのよ・・この人。 軟体動物のクラゲみたいに柔らかくできるの・・・」

「禁煙」
「無理ね。禁煙させると猶更頭が冴えわたるの・・」

「禁酒」
「上記と一緒」

「・・・断食」
「法律違反で施設が訴えられるわ・・・」

「・・・だれか24時間傍にいる。」
「誰を?」
「あー・・ 赤井さんか沖矢さん?」
「FBIが日本警察の依頼なく施設にいる訳にもいかないでしょ」

「だああああ!!!」
「で、俺をどうしたいって?」
ジンはシェリーを抱き寄せると首筋に唇を落とす。

「一寸ジン! 私はまだ、料理の支度があるの! 今すぐ放さないと“おやすみ”のキスは無しよ!」
「つまらねぇな・・・」
「み・・宮野?」
「と、いうわけでね。別に悪意があるわけじゃないし。週2回、クレー射撃に行く以外どこも行かないし。」
「だからこの画像は!」
「だって、工藤君は冬休みになるが早いがNYに行ったでしょ?」
「オメーの事も誘っただろーが!!」
「冗談でしょう? 事件吸引体質の工藤君と一緒ならせっかくのクリスマスも新年も楽しめないわ。 ねぇ赤井さん?」
「認めたくはないが、当たってるな」
「そうですねぇ・・ 志保さんも巻き込まれた事が何回あるか・・」
「エレーナ先生のお嬢さんをこれ以上危険な目には合わせたくありませんし・・・」
「・・・・ねぇ・・」
「だから、この際、顔合わせてクリスマスをやっちゃったのよ。」
「どーしてそーなる!?」
「退屈、だったんだもの。偶々合わせたように服を頂いちゃったしねぇ・・」
「だったらNYにくればよかったじゃねーか! 父さんも母さんもオメーが来るとばかり思ってたから、俺が怒られたんだぞ!」
「有希子さんと優作さんにはお詫びのメールをちゃんと送ったわ。 それに工藤君には蘭さんがいるでしょうに。  なんで蘭さんをつれて行ってあげなかったの?」
「俺がつれて行きたかったのは宮野だよ! 蘭は幼馴染! 何度言わせンだよ!」
「ともかく、私、ジンの面倒をみるのだけで精一杯なの」
「最もシェリーのそばにいる条件の一つとして、夜毎の楽しみは控えろって赤井と沖矢に言われたから一応、我慢してるぞ。 沖矢と赤井が相手でもまぁ・・仕方ないと妥協もしてる。」
「まぁ、子どもができても、僕らの子って事で即日認知しちゃいますから問題なしってことで」
「あー・・そこらはFBIがうまく誤魔化せると思うぞ」
「ま、順番に3人産んで貰えば・・」
「あ〜 でも志保さんの体に負担が掛からないようにしないとダメですよ。 女性の躰は男よりもデリケートなんですから」
「・・・志保との餓鬼なら何人でもほしいができたら安定期まで抱けねぇ・・ってのはなぁ・・」


なんかもの凄い会話が飛び交っている・・
新一は頭痛を感じた


「って! そーゆー問題じゃねーだろー!! 宮野!!!」
「そーねぇ・・ 困った問題だわ・・。戸籍の父親の欄って3つあったかしら・・・?」


(違う 何かが違う。 こんなん宮野じゃねぇ・・!!)

「旦那は一人に決めろ!ってか今からでもいいから俺と籍入れよう!!」
「無理ね」

「「「却下します/ 餓鬼の戯言だな/ 無理だな」」」

「ジンは離れないだろうし、赤井さんもお姉ちゃんの事があるから離れないし、沖矢さんも離れてくれないわねぇ・・」
「僕はまぁ・・ 志保さんはエレーナ先生がのこされた娘さんって事で、手は出してませんからっ」
「宮野?・・・なんか、おかしくねぇか?」
「そう? いいんじゃない? とりあえず、私の研究の邪魔をしたら幼児化させても文句いわないって契約書を書かせてあるんだけど・・・」



にっこり笑った志保の背後がもの凄く怖い
背中に黒い羽が生えて黒いしっぽが見えてくる


「・・・宮野 怖い・・」
「今更? よねぇ・・? 工藤君?」


志保がにっこり笑って錠剤をチラつかせて新一に向かって、にじりよって来る。

「ジン? 工藤君を抑えててくれる?」
「あ? 抑える?」
「新しい薬・・ 試してみようかと・・?」
「面白そうですね?どんな薬です?」
「うふっ。 APTX4826と真逆の効果のある・・ 老人化する薬の試薬なの・・」
「ほー・・ そんなのが作れるようになったのか。 流石は志保だな」
「流石シェリーだ。 “あの方”も喜ばれるだろう」



前門の虎後門の狼
新一は逃げようとしても逃げられない




「み・・ み や の・・ さん?」


「ねぇ・・ し ん い ち ・・?」


志保がにっこりと天使の笑みを見せる


「まった! 待った・・!! 宮野 まったーーーー!!」


錠剤が口の中に押し込まれる





「ぎゃああああああああーーーーーーーー!!!!」


新一は悲鳴を上げ、自分の悲鳴で目が覚めた。





*****




「・・・ぇ?」

パチパチ、と目を開くとNYにある家の自分の部屋。
ドンドン、とドアが叩かれる

「新ちゃん! 新ちゃん!! どうしたの!」
「新一! どうした!? 入るぞ!」

ガチャガチャ、とドアが開かれる。

「新ちゃんっ! 大声あげてどうしたの!?」
「かーさん・・ とーさん? ここ・・?」
「ここって・・NYでしょ?どうしたのよ、新ちゃん!?」

新一は思いっきり溜息を付いた。

「悪ぃ・・・ すっげー嫌な夢をみた」
「夢? あらぁ・・かわいそうに」
「へ?」
「だって1月2日は初夢でしょ? 来週日本に帰ったら、どこかにお祓いに行ってらっっしゃい」
「あー・・そうか・・ 初夢か・・」
「ともかく、凄い汗をかいてるからシャワーでも浴びてもう一寝入りするんだな。 今日は宮野君や蘭君たちへのNY土産を買いに行くんだろ?」
「あー・・そうだった。」
「ホント、志保ちゃんがこれたらよかったのに。 もっと新ちゃんがゴリ押ししないからよっ! 早く孫の顔みたいんだからぁ〜!! あ、女の子限定でね」
「かーさん・・」
「既成事実でもいいかぁ〜 そしたら、ママが、阿笠博士にちゃんと志保ちゃんをお嫁さんにって頼んであげるからっ」
「・・・俺・ 赤井さんに勝てる気がしねぇんだけど・・」
「駄目よぉ! 若いおばあちゃんで、孫には有希ママって呼んで貰うんだからぁ〜〜」
「かーさん、落ち着いて!」
「まぁまぁ、有希子。 新一が志保君を好きなのはいいとしても、志保君が新一を選ぶかどうかはコイツの努力次第だろうし」
「そうよねぇ・・ 志保ちゃん可愛いし、赤井さんともお似合いだし・・」
「母さん・・ 応援してるのかしてないのかどっちだよ?」
「やぁねぇ してるわよ! なんたって新ちゃんは優作と私の子ですもの!」
「はいはい・・。 とりあえずシャワーあびてくるわ・・」
「そうね。お休み、新ちゃん」

有希子はちゅっと新一の頬にキスをする

「かっ・・」

脱力をする新一。

「こーゆー親だ。うん。 とりあえずシャワー浴びて 寝なおす! で、良い夢を見りゃあいい! ・・・あ」

机の上のPCにメール着信のランプが点灯している。

「宮野かな? そーいや新年の挨拶・・葉書出したけど届いてっかな?」

ピピッとメールを起動させる。


「画像添付? ・・・しかも 赤井・・さ・・?」


嫌な予感がする。

新一は画像を開いて固まった。





「嘘 だ ろ・・・・」





画面には




夢で終わったはずのクリスマスパーティの画像が


これでもかという特大サイズで表示されていた





<Dear SHINICHI


A Happy New Year。 
いい初夢が見れたかな? 志保の許可がでたから、クリスマスの写真を送る・・
近況報告になるが、ジンが諸般の事情で阿笠邸に居候する事になった。
詳しくは君が日本に帰って来てから話すが、それに伴い 沖矢も工藤邸に再下宿する事になったので報告をしておく。
有希子さんと優作さんの許可は得ているのであしからず。


From AKAI &OKIYA &GIN &SHIHO >






その後 新一がどうなったのかは・・






誰も知らない
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