02
「ハイ。静かになるまで8秒かかりました」
小汚い感じの人が登場し、その人が自分を担任の相澤だと名乗れば教室中がざわざわし始めた。
それから体育着に着替えてグラウンドに出ろとか言われて今に至るわけだけど…。
「「「個性把握テストォ!?」」」
あちこちから驚きの声が上がる。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
可愛らしい女の子の質問に対して先生はそんな時間ない、ってバッサリ切った。
流石最高峰ってやつだろうか、自由すぎる。
とういうか急展開に漫画かよっと突っ込みたくなった。
個性把握テストか。
その名の通りなら個性を使う事になるんだろう。
今日はただの入学式だけだと思ってたから、ちょっと嫌だなあ。
そうして着々と説明されていくテスト内容。
見本という事で指名された怖そうな男の子が個性を使ってボールを投げる様を私はぼーっと眺めていた。
感想はすごい攻撃的な個性で、喰らったら痛そうだけど流石ヒーロー科だなと思った。
でも見た目が怖い。ヤンキーってやつだろうか。
とりあえず、最下位は除籍処分らしいから中間あたりの成績を狙っていこう。
..
第1種目50m走
「次、」という先生の合図で、私は尻尾を3本にする。
そのままクラウチングの体制を取り、合図と共に両手両足で地面を思いっきり蹴った。
びゅんっと横に見える景色が後ろに去っていき、計測機を通過すれば結果は4秒ジャストだ。
よし。
とりあえず得意なスピード種目でいい記録を出せたので残りはゆったりやれば丁度いいかな。
手についた砂をパンパンと払いつつ尻尾を元に戻すと、目を輝かせた女の子が駆け寄ってきた。
「今のなに!?すごい早くてびっくりしたんやけど!!」
あ、この子確かさっきの先生に質問してた子だ。
「私、麗日お茶子!それどういう個性なん?」
「あ、ありがとう。私は狐森なまえ。個性は妖狐なの。」
「妖狐?きつね?初めて聞いた!」
お茶子ちゃんはよろしく!っと私の手を取って満面の笑みを浮かべた。
急に手を掴まれて一瞬たじろいだが、私もその笑顔に釣られるように笑い返す。
「こちらこそ宜しくね、お茶子ちゃん!」
よかった。
無事に女の子のお友達できそうだ。
やっぱり油揚げパワーかな?和美さんに感謝しなくちゃ。
お茶子ちゃんと他愛もない話をしながら心の中でガッツポーズを決め和美さんにお礼を言う。
第2種目握力、第3種目立ち幅跳び、第4種目反復横跳び。
着々とテストをこなし、次はボール投げだ。
クラスメイトの色んな個性を観れるのは楽しいけど、1人だけ気になる人物がいた。
皆をよく見ていルカらこそ気付いたけど、あの緑の少年…
さっきから個性を使ってない気がする。
あまり汎用的な個性じゃないのだろうか?
「次、狐森。」
「あ、はい」
「…お前、さっきから手を抜いてるだろう。」
ボールを受け取ろうとすると、先生はボールを持った手を態とらしく引いた。
「スピード系の種目は悪くない成績だ。だがそれに対して他の種目があからさま過ぎる。」
ぴくりと伸ばしかけた手の指先が反応する。
「…嫌だなぁ、先生。嫌味ですか?これでも全力ですよ。」
咄嗟に笑顔を貼り付ける。
「...尻尾を九本出せ。やらないならお前は今ここで除籍処分にする」
私たちの会話を聞こえていたのか、後ろで皆が騒ぎ始める。
何でも知ってます、って事?
冷たく見下ろしてくるその目をキッと睨みつける。
「早くしろ」っと催促され、皆からの視線も痛くなってきたので私は諦めて目を伏せた。
”今日は良い日になりそうだね“
そう今朝他人事の様に思ったのは正解だったみたい。
どう考えたって、個性の使用を強要されるのは私にとって良い日ではないんだから。
むしろ最悪な日に分類したって良いくらいだ。
心の中で少々の悪態を吐き、すぐさま思考をクリアにする。
意識を両耳に集中させ、じわじわと暖かくなっていくその耳がピクピクと動く。
――嗚呼、きた。
フワッと足元から生暖かい風がゆっくりと吹き上げ、それは私の髪を撫でるとすぐに離散した。
そっと目を開ければ一本しかなかった尻尾が九本となり、それは文字通り円を描く様に広がる。
「ふー…」
久しぶりに感じる高揚感。
力が漲ってくる感じに思わず息が漏れる。
「な、なんだ今の!!」
「すっげぇ、九尾になった!」
「ケモ娘最高にエロい!」
「可愛い〜!後で触りたーい!!」
後ろから様々な驚嘆な声があがる。
それでいいと言う様な顔をした先生の手からボールを奪う様に取り、足早に投げ場に向かう。
九尾状態は時間制限があるから、いざとなった時の為に温存しておきたいものだ。
それに、これは心身共に酷く疲れるから、出来ればやりたくなかったというのに…。
もう一回だけ先生を睨んでおこうと思い、そっちを向く。
だが先生を視界に入れる前に、目を輝かせたお茶子ちゃんと、興味津々なクラスメイト達の顔が見えそれどころではなくなった。
もう、ほんと嫌だなぁ。
人前に立つのは嫌いじゃないけど、ここまで注目されると流石に恥ずかしい。
こうなったら、さっさと終わらせよう。
あぁ。
そういえば、みんな何か一言いいながら投げてたっけ。
ふと、「死ね」って言いながらボールを投げていた怖い少年を思い出す。
あれはいい見本だったなぁ。
ストレス発散にもってこいだ。
でも死ねって、あんまりいい言葉じゃないからね。
流石に別の言葉にしよう。
私は丁度良さそうな言葉をグルっと頭を一回転させて探す。
「…これでいこう。」
ここまできたら本気で投げてやろう。
片足を高く上げ、綺麗なピッチングフォームをとる。
「先生の、バカアァァア!!」
「「「 ええええぇぇぇぇぇ!? 」」」
キラーンなんて効果音がつきそうな勢いで、青い炎を纏ったボールはあっという間に見えなくなった。
「……909.5m」
「「「 すげえぇぇぇ!!? 」」」
「わぁ〜、結構すっきりしたかも!」
「なまえちゃん凄い!一番やん!?」
私の番が終わり、皆の元へ戻れば相変わらずキラキラと目を輝かせていたお茶子ちゃんが小走りで寄ってきた。
「え、いや、お茶子ちゃん無限だったんだから私は一番じゃないよ?」
「え!あ、そうやった!!」
あはは!っと楽しそうに笑う彼女に釣られ、自然と笑みが溢れたのは2回目となった。
「お前すげえな!俺、切島鋭児郎!」
「あの爆豪より威力抜群だったな!あ、俺は上鳴電気な!」
「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで。とってもカッコよかったわ。」
「え、あ。狐森なまえです、よ、よろしく!」
お茶子ちゃんと話していたら、あっという間にクラスメイト達が集まってきた。
さっきの私のボール投げはかなり好評だったようだ。
無理やり個性発動させられた感があって、まだ少しムカついているけどコレは悪くない……かもしれない。
皆との会話もそこそこに次の種目へと進み、太陽がすっかり真上に昇った頃やっと全種目が終了した。
結果から言うと、5位だった。
狙っていた順位より高くなってしまって、少しだけ苦笑いを浮かべる。
「これにて終わりだ。教室にカリキュラムとか書類があるから目ぇ通しとけ。」
終わった個性把握テストにどこか解放された気分になり、私は一本に戻した尻尾をゆるゆると揺らす。
結局ボール投げの後は九尾状態で測定していたから、結構疲れた。
というか、今どっと疲れがきた。
時間ギリギリまで使ってたし、本気で体力がやばいかも。
早く帰って、すぐ寝たいな。
あ、でも朝残した煮物食べたいなぁ。
「あぁ、そうだ、緑谷はコレ持ってリカバリーガールのとこに行け。それから狐森、お前は帰る前に職員室に来い。」
「……へっ」
今なんて…。
「ん?なまえちゃん着替えに行かんの?って、固まっとる!!」
「あら、先生に呼ばれたのがそんなにショックだったのね。可哀想だけどあんな暴言吐いたんですもの、仕方ないわ」
どうやら先生のバカ。と叫んだ冒頭の「先生」は私的には小声で言ったつもりだったけど、バッチリ皆に聞こえていた様だった。
声量を間違えた。
初日からお叱りって、やっぱり今日は私にとって良い日にはならないみたい。
..
更衣室でダラダラと着替えを済ませ、女の子達の楽しそうなお喋り声を聞きながら教室へ戻った。
先生の言った通り、それぞれの机の上には冊子と書類が並べられていた。
ざっと教室を見渡せば、その場で読んでいる人と、鞄に入れて帰宅する人がまちまちだった。
もちろん私は後者の人間になりたいので、鞄に冊子とかを突っ込んでさっさと教室を出ようとする。
「あ、なまえちゃん、また明日!(わあ、耳と尻尾が凄い垂れてる)」
「うん。お茶子ちゃん、また明日ね」
うまく笑顔だっただろうか、そんな事を気にする余裕もなく私は若干ふらつきながら職員室へ足を向ける。
「周正」
「っ…」
階段の踊り場に足が着くと同時に、上から今日聞くのが二回目となった呼び名に顔をあげる。
そこにはやっぱり、朝と同じで赤と白の男の子がいた。
あの時は“周正”の名前を呼ばれて咄嗟に逃げる様に教室に入ってしまったから、彼とちゃんと話ができていない。
というか個性把握テストですっかり忘れていたけど、どうやら彼は“周正なまえ”を知っているらしい。
「職員室行くのか?少しだけ話てえんだが」
「……」
もう今日は先生とお話しするだけで帰りたい。
それに、初対面でいきなり話があるって…流石に警戒するんだけど...。
階段を降り、私の前まで来た彼は朝も思ったけど背が高い。
そりゃぁ元々小さめな私からしたら男の子なんて皆大きいんだけどさ、こんな近くに立たれると余計それを感じてしまう。
「今日が無理なら、明日でもいい」
本当は断りたい。
異性と2人っていうのは、少しだけ…怖い。
けど、なんでか彼のその目を見て直ぐに断れないでいる。
「えっと、その…。明日の放課後、人の目がある場所なら、いい...よ。」
こんな事を言う自分に若干驚きつつ、相手の反応を伺う。
あまり表情は変わらないが、少しだけ微笑んでいるように見えた。
「有難う。じゃあ、明日な」
そう言うと踵を翻して教室の方へ戻っていった。
帰るついでかと思ったけど、どうやらそうではなかったみたいだ。
確かに、鞄持ってなかったけどわざわざ来るなんて、よっぽど何か大事な話なのだろうか。
そういえば彼、私を知ってるって事は…。
もしかして、もう1人の推薦者って彼の事か。
「………あ!やばい先生!!」
設定に追記致しましたが、主人公は推薦入学です。
5/12 修正