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14 貼り付けの笑顔




バタバタバタバタッ

廊下に激しい足音が鳴り響き、それが止まると同時にガラッと勢いよく開く保健室の扉。
最近週1回のペースで朝一に訪れる騒がしい彼に、私はゆっくり椅子を回転させる。


『おはよう、我妻くん。』


ニッコリ笑顔を向ければ、ドアに手を着いたまま息を整えている彼は顔を上げ泣き出しそうな顔をしていた。
いつものことだ。


「うわああああ!!なまえせんせええええぇぇぇっ!!」

律儀に扉を閉め、私の前にサッと移動し床に正座をする彼。


我妻善逸。
高等部1年筍組で、金髪ヘアが特徴的な男の子だ。
こんな見た目だが、とても真面目で風紀委員をしている。


『あらら、今日は派手にやられたのね』


ぐすんぐすん泣く彼の真っ赤な左頬にそっと手を当てる。
毎朝校門で風紀チェックをしているという冨岡先生に、時折殴られるらしい。
理由は、この地毛の金髪が理由だとか…。

タイミングがあれば私の方から注意はするんだけど、効いていないみたいだ。


『とりあえず、冷やそうか…。ちょっと待ってね!』

優しく頭を撫でてあげれば、元気な返事が返ってくる。
とっても良い子なのに、理不尽な目にあって本当に可哀想。
放課後、冨岡先生にまた注意しておこう。


.


『どー?』

「うぅ、大分痛みは引いた、かも…」

どれどれ、っと冷却パックを退かしてもらい左頬を見る。
先ほどよりは赤みもなくなり、だいぶ良さそうだ、

『多分、今日は少し晴れたままかもしれないけど明日には治ると思うわ。』

「ありがとう先生…。俺、やっぱり黒く染めようかな…」

『え?でも地毛なんでしょう?冨岡先生が悪いんだから、貴方はそんな事気にしなくて良いのよ。』

「そうだけど…。こう痛いのばっかり嫌だし…でもなまえ先生に癒してもらえて幸せだからちょっと良いって思ったりもするんだよな…」

最後の方がボソボソと言っていて聞こえなかったが、顔を俯かせている限りどうやらかなり悩んでいるみたいだ。
悩み事の相談などは良く生徒から受けるが、今回の解決策は冨岡先生をどうにかすれば良い話。
彼からしたら、解決するのが難しい。

というか本当に、何で我妻くんにこんな事するのだろうか。
前に注意した時は金髪だからだって一点張りだったし、全く話にならない。

表情の変わらない男の顔を思い出し、ふぅっと息を吐く。


『今日、私がガツンと言っておくから、もう授業に戻りなさい。あとこれ、持って行きなさい』

新しく開けた冷却パックを我妻くんに渡す。


「先生、ありがとうございます!!!やっぱり俺このままでもいいかもしれない!!!」

ガバっっと抱きついてくる我妻くんに、私は大きな子供をあやすように頭を撫でてあげた。
チラッと壁の時計に目をやれば、授業が始まって15分ほど経っていた。

『我妻くん、保健室カード書くから一瞬待っててね。』


そう彼を離そうとした時、ガラッと保健室のドアが開いた。

「で、でたあぁぁ!!??!」

丁度ドアの方を向いていた我妻くんが、突然飛び跳ね部屋の角へ行ってしまった。
私は何事かと振り返る。


『え、あれ、冨岡先生?』

「…………。」

ホイッスルを首にかけ、片手に竹刀を持った冨岡先生が立っていた。
私と部屋の隅にいる我妻くんを交互に見比べ、閉じていた口を開いた。

「何をしているんだ」

ずかずかと我妻くんの元へ真っ直ぐ進んでいく。
が、私はその道を塞ぐように冨岡先生の前に立った。

『冨岡先生、我妻くんはサボっていたわけではありませんよ。貴方が朝、彼の事をぶん殴ったから頬が腫れてしまったんです。』


貴方のせいだよ。っと遠回しに言う。
ジッと私の目を見てくる冨岡先生に、私も負けじと彼の目を見た。

『この際なんで再度言いますが、彼は地毛なんです。校則は破っていませんので、殴るのは可笑しいです。そもそも、貴方そうやってすぐ手を出すからいつも保護者からお怒りの電話が来るのではないですか?』

「……それは、」

『いいですか、週4回のペースで保護者から電話きてますよね?事実なので言い訳はできませんし、ついでなのでその竹刀は私が暫く没収します。』

冨岡先生の無表情だった顔が少し歪む。
私の言った事が気に食わないのだろう。


「……他のやつも保護者から苦情を受けている」


この人の言う、”他”は多分実弥さんの事を指しているのだと思う。
確かにあの人も以前よりも、お怒り電話結構受けてるな、少しとばっちりだけど後で注意しよう。

『他の先生は関係ないです。今私は冨岡先生の事を言っているんですよ。』

「......どうしても、か?」

『はい、どうしてもです。』

「………」

『………』


少しの間、無表情の彼と笑顔を貼り付けた私の睨み合いが続き、折れたのは冨岡先生だった。

「3日でどうだ。」

『いいえ、1ヶ月です。』


「..........わかった。」


その返事を待ってましたと言わんばかりに、私は早速彼の手から竹刀を受け取り保健室の鍵付きロッカーに入れた。
振り返れば、どこか不満げな冨岡先生と目をパチクリさせている我妻くんがいた。

そういえば何で冨岡先生がここにいるのか。
我妻くんの1限目って体育だったのかな。

『ところで、冨岡先生は何でここに?』

「……いや。」

「うっ...」

冨岡先生は私に向いていた体を90度ずらし、我妻くんに向ける。
我妻君は本当に彼が嫌いなのだろう、怯えた様子である。

「反省文だ。...今日の放課後までに提出しろ。」

「はあ!?こ、こんなに!!!??!?」

バサっと何処から出したのか、冨岡先生の手から我妻君の前に出された紙はそれなりの厚さだった。
原稿用紙20枚だろうか...それとも、それ以上だろうか...。

『あ、あの冨岡先生、何の反省文ですか?髪色の事だったら、彼は地毛で...』

「ダメだ。」


何がダメだこの野郎。
私は我慢していた何かがプツッとキレそうになるのを必死に抑えた。


『.........我妻君、1限って何?先生誰?』

「え、あ...数学の、不死川先生...です。」

私はその名前にぴくりと反応するも、てきぱきと引き出しから保健室カードを取り出して、サラサラっと我妻君が保健室に来た理由などを書きそれ我妻君に渡した。

『じゃあ、これ不死川先生に出してね。それから、反省文は書かなくていいから。じゃあ、お大事に』

半強引に我妻君を保健室から出した。
何か言いかけていたが、私は笑顔を貼り付けたまま扉をピシャリと閉めた。


『それで、...... 冨岡先生、どうせ1限の授業ないんですよね?少し私とお話ししませんか?』


多分貼り付けた笑顔は引きつって大変な事になっている気がする。
冨岡先生は手に握られた原稿用紙を1度見下ろすと、少し考えた後に私の用意した椅子に腰を掛けた。






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