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13 例のアレ




「みょうじ先生。」

気怠い月曜の出勤。
今日も寝坊する事なく朝の職員会議を終えて、机に置かれていた書類達に目を通していると通路を挟んで斜め前に居る冨岡先生から声が掛かった。

書類から顔を上げ彼に視線を向ければ、パチっと目が合うのは冨岡先生の一つ横の席の男。
一瞬合った視線は、どちらとも無く逸らされ、私は本来むけるべき相手へ目を向けた。

『何でしょう?』

「…例のやつ、届いたそうだ。」

例のやつ…。
私は一瞬何のことか考え、冨岡先生と共通の授業をすぐ思い出す。

『あー、はい、アレですね。...そうですね、一度どんな感じなのか確認したいのですが、どちらにあります?』

「あぁ、俺もまだ確認はしていない。体育準備室に置いてある。」

『わかりました。放課後、こちらの手が空き次第伺いますね』

「わかった。」

表情が一切変わらない冨岡先生が小さく頷くのをみて、私は再び机の書類へ目を移した。

そういえば先週の金曜日、やたらと怪我をした生徒が多くて消毒液とガーゼが残り少ないから追加しないとな。
あとは包帯留めか。
あと何か足りなかったな。

…まぁ、在庫チェックは後で棚見てからやればいいか。
一通り読むだけの書類たちに目を通し、パソコンを開こうとすればトントンっと左から肩を叩かれた。


「なまえ先生、冨岡先生がおっしゃってた”例のやつ”って、例のやつ?」

『ふふっ…例のやつですよ、珠世先生。』

小声で話しかけてきたのは中等部の保健医である珠世先生。
学校唯一の医療仲間だ。

以前”例のやつ”で相談をしたから、気になっているみたいだが聞き方が面白くて思わず笑ってしまう。

コレは、この前の職員会議の議題にもあがったので”例のやつ”は他の先生たちもきっと何の事か察しているはずだが…。
今思えば冨岡先生、あんなに堂々と言わないで欲しかったな。


「私は配布に断固反対なんですけどね…」

赤い紅の生える綺麗なお顔が少しだけ歪む。
珠世先生が会議で一番アレの配布を反対していた事を思い出す。
だが意見どうこうではなく、ほぼほぼ男2人の意見が貫かれた形で終わったのだ。

思い出すだけでもため息が軽く漏れる。

「む?みょうじ先生がため息とは珍しいですな!」

「お?悩み事かぁ?この俺が相談にでも乗ってやろう!ド派手な解決方法を教えてやる!」

『いえ、結構です』

通路を挟んだ横の煉獄先生と、その隣の宇髄先生に、私は営業スマイルを向ける。
そもそも会議で貴方たち2人が一方的に必要だ何だ騒いだから配布する事になったんだろうが。
なんてことは決して口には出さない。

私はまた出そうになったため息をギリギリ飲み込む。

左にいる珠世先生に目配せをし、心の中で会話する。

(早くここを離れた方が良さそうですね)
(急いで保健室に行きましょう)

珠世先生は先に席を立ち、職員室を出て行った。
私も開けかけのノートパソコンを閉じ、それを片手に珠世先生の後に続いた。




..



「本当に、良くないと思うんですけどね」

『まぁ、もう物も届いちゃったみたいですし配布するしかないですね』

「そうですけど...。最近の子達って、好奇心旺盛だから変な悪戯とかに使わないといいけど...。」

隣を歩く珠世先生はよっぽど心配のようだ。
でもその気持ち、わかります。
もしコンドーム貰った男子生徒が「折角だから使おう」とか言って学校で彼女と致されても困るし、その証拠品が学校のゴミ箱に残され、後日口の軽い生徒にでも発見されたら保護者会案件になるだろう。

そして何故配布したのかとモンペ達に怒られるのは、冨岡先生と私だろうな。


あぁ、間違いない。


こちらとしても配布した理由をツラツラと並べ謝ることしかできないんだろうな。
そんな対応したことないけど、大体予想はつく。

まぁ冨岡先生は、こういうの慣れているんだろうな。


まだそうなると決まったわけでは無いが、私は今からソワソワしてしまった。



「ではなまえ先生、今週も頑張りましょう」

『あ、はい。またお昼に!』

建物の分かれ道で珠世先生は小さく手を振りながら中等部の建物へ向かっていった。
彼女の背を見送りながら、私は今週も頑張ろうっと1人心の中で意気込んだ。


「何してんだァ?」

『え?』

突然の声に振り向けば、教材を片手にした、さね...不死川先生が立っていた。
いつの間に...、全然気付かなかった。

『えっと、ちょっとぼーっとしちゃってました。』

「?...転けんなよォ」

『こけっ!?そこまではボーッとしてません!』

意地悪に笑う彼に少し強めに反論する。
その笑みがプライベートで見るものと違うもので、その事に少し笑ってしまう。

付き合ってまだ1ヶ月程。
大体週末に彼は泊まりに来る。
金曜日の夜にウチに来て、土曜日は買い物に行ったり家でゴロゴロしたりして、彼は日曜の夜に家に帰っていく。
まだ4回しか経験していないが、日曜に帰ってしまう彼に寂しいって気持ちを抱いてしまっている。



控えめに言って、同棲したい。




同棲どうこうの話は以前話したのが最初で最後だ。
なんとなく、その話を私から振るのは少し勇気が必要だった。

世のカップルがどのくらいの期間を経て、同棲になるのか知らない。
でも付き合って1ヶ月で同棲は、絶対に早い。

でも同棲したい。


最近私の中で葛藤している事だ。



「あァ、そういえば……、今日行くからなァ」

『……へ?』


周りに誰もいないが、小声でそう言った実弥さん。
私も同じく小さな声で変な声を漏らす。

『ぇ…え?』

今日うちに来るって話だよね、
平日に来るなんて珍しいというか、初めてで驚く。

動かない私を他所に、実弥さんは片手を上げ授業のあるクラスへ向かっていった。
その後ろ姿がとてつもなくカッコよく見え、顔がじわりと熱くなった。


朝からそんな事言われたら、仕事めちゃめちゃ頑張れるじゃんか。

持っていたノートパソコンを抱き抱えながら、1人悶えていると後ろから宇髄先生が来た。
「何やってんだ?」っと言われ、絡まれるのが面倒なので「何でもないです」っとやはり営業スマイルを向けてさっさと保健室へ向かった。


今日は放課後にアレのチェックしに行くから、先に家に行っててもらおうかな。
鍵は後でひっそり渡そう。
夕飯、リクエストしたら作っててくれるのかな。

私はにやける顔を特に隠す事なく、今日の業務に向かうのであった。




宇髄先生と煉獄先生への対応がすこぶる雑になってしまい申し訳ない。
愛のある雑な扱いなので、ご了承くださいませ。

【夢主の机周りの座席】

胡蝶 魚の水槽 | |冨岡 不死川
珠世  みょうじ |   |煉獄 宇髄(未定)











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