>影山Side
「マネージャー!やらせてくれませんか!!」
だらっと汗が頬を伝う時、その声は突然体育館に響いた。
ボールの音。
シューズが擦れる音。
皆の掛け声。
全てが一瞬にして消えた。
「は...凪...?」
皆の視線を集めた先いたのは間違いなく凪だった。
ほぼ90度に折られた腰から、表情は読み取れない。
だがその姿に皆がどよめいた。
「凪ちゃん。」
皆が固まって動けない中、清水先輩がスッと凪の前へ移動した。
そのまま肩を掴んで凪の上体を起こせば、やっと見れた凪の顔に心臓が跳ねた。
あんな真剣な眼差しを見たのはいつぶりだろうか。
「決めてくれたんだね、嬉しい!」
「潔子さん...はい!私、烏野で...皆と本気でバレーがしたいです!」
ニカっと子供のような無邪気な笑顔に、高めに括られた髪がふわっと揺れた。
それだけで絵になるその姿。
多分、皆が見惚れたと思う。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
「美少女マネが増えたあぁぁ!!」
ネットの向かい側にいた西谷さんと田中さんが抱き合って喜んでいた。
「凪ー!!!待ってたぞー!!!」
後ろで日向は両手を上げて跳ねていた。
3年生達も皆笑っており、大歓迎の様子に俺は少しホッとした。
皆がゾロゾロ凪の周りに集まり、ベンチに座っていた監督も凪の元へ来た。
「お前があの及川の妹か?」
「え、あ...はい。えっと....誰ですか?」
「この人は烏養監督だ。」
澤村さんの紹介に、凪は驚いた顔をした。
まぁ、流石に凪も烏養という名前は知っているのだろう。
「う、烏養監督って...もっとお爺ちゃんかと思いました。」
「あ?...ははは!多分俺はお前が知ってる烏養監督の孫だよ」
「あ、え!?あ〜なるほど!」
宜しくお願いします!と、差し出された手に烏養監督は驚きながらもそっと手を取った。
「あぁ、宜しくな。」
「はい!皆さん、及川呼びだと兄と被って嫌なので気軽に名前で呼んでください!」
ニコニコと笑顔を撒き散らす凪に、正直少しだけムッとした。
「じゃぁ凪。基本的には清水と一緒にマネージャー業をして欲しいんだが...お前のあの超絶殺人サーブ、是非練習をさせて欲しい。」
「ぇ...超絶?殺人サーブ...?」
グッと眉間に皺を寄せた凪はクルッと俺に視線を送ってきた。
俺じゃないぞと思い、顎で日向を指した。
「いや!あれはどう見ても殺人級で...」
「ふふ、日向...私のサーブ受けたいって言ってたもんね。存分に練習させてあげるよ、超絶殺人サーブ。」
「うっ...目が笑ってない...」
そんな凪と日向のやり取りにどっと場が沸いた。
それからはそれぞれ自己紹介タイムが始まり、落ち着いたタイミングで練習は再開となった。
練習中、凪は皆の名前をぶつぶつ呟いており、いっぺんに何人も名前を覚えるのは大変の様だった。
凪がマネージャーになってくれたのは素直に嬉しい。
けど、どういう心境の変化があったのか疑問は残った。
.
「「お疲れ様でしたー!!」」
短い朝練が終了し、俺は乾いた喉を潤しながらタオルで汗を拭う。
凪はどうしただろうか。
その姿を探せば、清水先輩と何やら話していた。
取り込み中か。
そう思い、俺はとりあえず着替えるかと荷物を持って更衣室へ向かった。
「なぁなぁ!凪、入ってくれて良かったなー!!」
静かな廊下で日向の声が響く。
お前は凪のサーブが楽しみなんだろと思いながら適当に返事をする。
「影山!!」
「っ...凪?」
もうすぐ更衣室という所で、突然後ろから呼び止められた。
振り向けば息を切らしている凪がいた。
全力で走ってきたという事が伺える。
「影山...はぁ...はぁ...一緒...教室、いこ。」
「っっ...わざわざ言いにきたのかよ。」
「はぁ..はぁぁ....だって、置いてっちゃうんだもん」
ぷくっと膨れた頬に、思わず面食らった。
好きなやつにそんな嬉しい事言われたら、誰だって嬉しいだろう。
俺は片手で口元を覆う。
「...すぐ着替えるから、待ってろ。」
「ふふ。影山って、照れると口元隠す癖あるよね。」
「っ!?う、うるせぇ!」
ダッと更衣室へ駆け込む。
全く、ずるい女だと思った。
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「あ!凪!待ってたのか!俺1組だから途中まで一緒に行こうぜ!」
「あ、そういえばそうだったね!じゃあ3人で行こ!」
「.........。」