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>岩泉Side

「凪、入るぞ?」

及川家につけば、及川母の言う通り家の鍵が空いていた。
昔から何度も入ったことある家が故に、特に躊躇するでもなく俺は平然と上がり込む。

真っ直ぐ2階へ上がれば「凪の部屋」と書かれたプレートのドア前で立ち止まる。
ノブを回して、扉をゆっくり開ければ、ふわっと中から良い匂いが香った。

俺が好きでたまらない優しい匂いだ。


「凪?」


部屋に入りながら名前を呼べば、ベッドの上でモソモソと何かが動いていた。

「はじめ、くん....?」

ひょこっと毛布の中から顔を出した凪は、真っ赤な顔で、その額には冷えピタが張られていた。

冷えピタが張られてるだけで、こんなに弱々しく見えるもんなんだな。
そう思いながら近くに寄り、赤い頬に手を当てる。

確かに結構熱いな。
頬でこれじゃ、デコなんてもっと熱いんだろうな。

「はじめくん、なんで...?」

熱のせいでトロンとしている瞳で俺を見た。


「お前が倒れたって聞いて、心配してきたんだよ。」

「っ...ごめ、なさぃ...」

「何で謝るんだよ。こういう時はありがとうだろ。」

「だって...ぅ...れんしゅ...ヒック...練習が..ヒック..」


突然大粒の涙がポロポロ溢れ始めてギョッとする。


「お、おい、どこか痛いのか?大丈夫か?」

「ちがっ..ヒック...私、みんなに...ヒック...迷惑かけ、て...」


あぁ、なんだ。
そんなことか。

俺はフゥと息を吐いて、凪の涙をグリグリ指で拭った。


「ボゲ。迷惑なんて思ってねぇよ。...俺だけじゃない。お前の母ちゃんだって、烏野の奴らだって、皆お前が心配なんだよ」

凪の柔らかい髪を撫でる。
ポロポロと止まらない涙に、俺はどうしたもんかと考える。

病気の時は心も弱ってしまうって聞くが、凪は多分人一倍それが強く現れるタイプだ。
皆に迷惑かけてどうしようって。ただそれでけがきっと気掛かりなんだろうな。

「凪、手出せ。」

「うっ..ヒック...て?」

そう布団の中からゆっくり出される小さな手。
俺はその手を両手で優しく包む。


「大丈夫だ。今は寝ろ。寝るまで、俺がこうやっててやるから。」

昔と違って反対側にクソ及川はいない。
凪は何だかんだ兄貴であるアイツ求めていたが、今はどうだろうか。

凪は、俺だけでも安心して寝てくれるだろうか。


「はじめ、くん...」

いつの間にか止まっていた涙。
少し泣いて疲れたのか、ゆっくり瞼を閉じた。

「あり、がとぉ...」

「っ...」

恐らく凪完全に落ちる瞬間だろう。
確かに一瞬上がった口角に、思わず胸が高鳴ってしまった。

けど、その笑みの奥にある安心の色は血の繋がらない兄へ向けられたものなのだと知っている。


「......まだまだ先か?」


優しくはにかんで小声でそう話しかける。
次第に規則正しい寝息が聞こえてきて、俺は先ほどの心配は要らなかったようだと安堵する。

チラッと時計を見れば、今から向かって宣言通り1時間で部活へ戻れそうだった。
名残惜しいが、そっと凪から手を離し、もう一度その頭を撫でた。


「風邪、移ったらまずいからな...」

そう言って冷えピタ越しの熱い額に唇を落とす。

まだ少し苦しそうだが、眠っている凪の顔を少し見て、俺は及川家を出た。

本当は鍵を閉めて行きたいが、持っていないので仕方ないと思っていると丁度及川母が帰ってきた。


「はじめくん、ごめんね〜、わざわざ有難う!もう部活戻る?」

「あぁ、このまま戻るつもりだ」

「そっかそっか!じゃあコレ皆で食べて!頑張ってね!」

そう手渡された塩飴の袋。
俺は一言お礼を言って、学校へランニングしつつ戻ることにした。


後で凪にメッセージ入れてやるか...。









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