-2年生
「うわぁぁぁアカンアカンアカンってぇ!!!」
2セット目に入る前の休憩時間。
侑がドリンクボトルを強く握りすぎて、中身がこぼれて床が濡れてしもた。
「侑、もったいないやろ。拭いとけ。」
「きっ…北さん!!女神様や!降臨してんでぇ!!」
ああ、そんなんか。
彼女が試合前から来とることは、もう確認済みや。
ただな、制服やと思てたらまさかの私服で、正直じっと見られへん。
眩しすぎるわ。
真っ白なワンピースに、淡い桃色のシャツを羽織っとる姿はマジで女神様や。
この試合の合間の時間、みんなの視線は間違いなく彼女に集まっとる。
正直な話、誰も見んといてほしい。
「ん?なんやあいつら。他校のやつらちゃうん?女神様に声かけとるやんけ…」
は?
なんちゅう罰当たりな真似を。
距離的に、俺のサーブでも当てられるかもしれんな……
「おっ女神様親衛隊長登場。」
「角名、そない言うんはやめとけ。女神様の友達や。」
「……すみません。」
「お、立ち去ったな。さすが、圧に勝てんかったか。」
「でも、女神様、ちょっと戸惑ってるな。..お、信介、どうしたん……?」
あんな奴ら相手に、そんな顔せんでもええのに。
ほんま、どこにいても変わらんな。
誰にでも、ちゃんと“女神様”や。
それにしても――
女神様の幼なじみであり、我が校女子剣道部のエース、剣城さん。通称「女神親衛隊長」。
身長もあって、顔立ちも綺麗に整ってて……
いわゆる“イケメン女子”、ってやつやな。
最初に二人を見かけた時なんか、そらもう、美男美女のカップルやと思っても無理ないやろ。
その剣城さんやけど、私服姿があまりにも“彼氏感”強すぎてな…。
もしあれで女性やって知らんかったら……正直、ちょっと動揺してたと思う。
「おーい、北?」
「うるさいわ、尾白。」
「えぇ、今の俺が悪いんか?」
あぁ…
女神様、こっち見てくれへんかな…
「なぁ、女神様、こっち見てへん?」
そう誰かが言うたんが先やったんか。
それとも、女神様が白くて細い手を大きく上げて、こっちに手を振り始めたんが先やったんか――。
「し、ん、す、けー!来たでー!」
ブンブン、横に大きく振られる手。
少し離れてるとはいえ、女神様の声はガヤガヤした会場にもよう通ってた。
会場のあちこちから飛んでくる強烈な視線に、俺は色んな意味で固まってもうた。
「なぁ、北さん…今、呼ばれてたんちゃうか?」
明らかに低い、侑の声。
背中向けてるから顔は見えへんけど、キレてる時の声色や。
「しんすけー!こっちやでー!」
あぁ、あかんな。
女神様が俺を呼んでる。
けど、そっちは眩しすぎて見えへん。
「信介、手振り返さんかったら、ずっと呼ばれ続けるで?」
それはあかん。
女神様の視線も声も全部俺のもんなんは悪ないけど、俺を呼んでることで会場の注目を集めてる女神様。
これ以上変な虫が寄ってこんように、ここで手を打っとかなな。
『わっ!凌ちゃん!信介気づいてくれたぁ!!』
ぴょんぴょん嬉しそうに笑う女神様が跳ねてる。
俺に気づいてもろて、そんなに嬉しいんか。
喜ぶ声まで、周りの声援と同じくらいの大きさやった。
俺は小さく上げてた手をそっと下ろして、にやけそうな顔を手で覆った。
「なんでやねん!!なんで北さんなんやあああ!!!」
「ツム、うるさいわ。しゃあないやろ、北さんと女神様は仲良いんやから。」
「サム、お前それでええんか!?女神様が応援来てんのに、北さんだけの応援でええんか!?」
侑は、ああいう声援とか好きやないやろ。
それに、治の言うとおり…今日は、仲ええ俺の応援に来てくれてる。
誰にも譲りたないって、素直に思う。
「…あ、2セット目始まる!しんすけー!がんばれー!!」
……ありがとうな。
いつも通りのことをやるだけやのに、なんや、今日は体がよう動く気がする。
絶対、勝てる。
そう思えた。
北さん、この日の練習試合は出てる事にしてください笑
ちなみに次から3年生に戻ります。