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02


-2年生

「女神さん、黒板お願いしてもええ?」

『ちょっと北くん、その呼び方やめてってば』

そう言いながらも、全然イヤな顔せえへん女神様。

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
笑ったら…あったかくて優しい雰囲気は桜の花、やろか。
いや、品があって華やかな感じもあるし、椿のほうが合うかもしれへんな。

なんにせよ、初めて話したときの彼女の印象は、まさにそんな感じやった。


1年の時は、ほとんど関わりもなかった。
けど2年になって、初めての席が隣になって。その次の席替えでもまた隣やった。

…正直、奇跡だと思ってん。

クラスの男子からは文句も出たけど、くじ引きで決まったもんや。
しゃあない。
筋の通ったことをしてるだけや。
そう言うたら、誰も何も言わんようになった。

月に一回まわってくる日直の当番。
放課後、2人で教室に残って作業するんは、これで6回目になる。
別に数えてたわけやないけど、自然と覚えてもうてる。


『あっ、そや..北くん、週末バレー部試合やろ?応援行くからな。』

「……は?」


日誌を書いてた手が、不意に止まった。
顔には出てへんと思う。けど、ペンが手から滑り落ちたんは、自分でも驚いた証拠やろ。

黒板を端から丁寧に消してる彼女の顔は、見えへん。
けど、腰まで伸びた黒髪が夕日に照らされて、柔らかく光ってた。


『でな、北くん。その……応援の時って、みんな“北くん”って呼ぶやろ?私も“北くん”って呼んでるから、紛れて聞こえへんのちゃうかなって思って……でも、そんなことないかな?』


そう言うて、ふわりと髪をなびかせて、こっちを振り返った。

その一瞬が、まるで一枚の絵みたいで――
思わず、心の中でその景色を焼き付けた。



「……まぁ、紛れるやろな。」



――嘘や。
紛れるわけないやろ。
女神様の声が、誰かの中に埋もれるなんて、あるはずがない。

自分をただの声援のひとつやと思うんは自分のこと軽う見すぎやし...。
そもそも、女神様はそこに居るだけで、もう十分すぎるくらいや。


「……“信介”って呼ばれたら、すぐ分かる。ほかに、そう呼ぶ女子はおらんしな。」

『え、ほんま?じゃあ……“信介頑張ってー!”って感じで、応援したらええかな?』



……なんやこれ。
今日、俺は帰り道でトラックにでも跳ねられるんか。
それとも、工事現場の鉄骨が落ちてくるんか。
いや、優しめに食あたりかなんかで病院送りか……。


どれやねん、神さん。




『なぁ、応援のとき以外も……“信介”って呼んでええ?』


……やっぱりそういうことか。
今のうちにええ夢でも見とけって話なんか。



「……呼びたいなら、ええよ。」

言うたあとで、すぐに後悔した。
なにが「ええよ」や。
どの立場からモノ言うとんねん俺は。
ほんまはこっちが頼み込む側やろ。



『じゃあさ……信介も、そろそろ“女神さん”って呼ぶんやめてくれへん?普通に、下の名前で呼んでほしい。』


「……は?」



女神様の名前――


……“御名前”?


……オナマエ。




『えっ、私の名前、ちゃんと覚えてるよね?』


この学校におって、女神様の名前を知らん奴なんかおらへん。
おったとしたら、そいつは相当イカれてるか、もしくは人間やめてるレベルや。
一回ちゃんと人として生まれ直してこい、って話やな。


「天音……さん……。」


顔が、ぐわっと熱くなった。
考えてみれば、実際に口に出して呼ぶのは、これが初めてやったかもしれん。
心の中では、何回も呼んできたのに。
いざ声に出すと、なんでこんなに恥ずかしいんやろな。


『"さん"付け、あかん。』


いつの間にか目の前に来とった彼女が、可愛らしい人差し指を立てて――
それを、そっと俺の唇に当ててきた。


『私が"信介"って呼び捨てしてるんやから、信介も、私のこと呼び捨てして。』


あかん。
そない何回も、俺の名前を呼ばんといてくれ。
心臓に悪すぎるわ。



「……天音。」



その名前は、女神様にふさわしい名前や。
もったいなくて、口にするのすらためらうのに――
声に出して呼んだとき、なんでやろ。
心が、ふっと満たされた気がした。


……これが、女神様の力なんやろか。


『ふふっ。ほな、週末の試合、めっちゃ楽しみやねん。』


そう言って、足元に落ちてたペンを拾って俺に渡してきた。
そっからまた何もなかったかのように、鼻歌まじりで黒板を消し始める女神様。


……近々、俺は死ぬかもしれん。

けどせめて――

今週末までは、命だけはどうか取らんといてください。

神さん、頼むでほんま。






すみません、言い忘れてましたが。
描きたいもの書きすぎてるので時系列ごちゃるかもしれません。
ご了承ください。







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