+△0117:Tue つやめくヴァニラ 「ソーダは割れるのが怖くないの?」 薄荷色の末っ子がたずねたことばはおもっていたよりもこれっぽっちもわたしのからだに響かなかった。机のうえにちらばった試作品の数々をまとめながら、わたしは彼に目をやる。 「なにが?」 「僕らは割れてもいなくなったりしないでしょう? 割れてもつなぎさえすればまたうごけるようになる 記憶だって破片がなくならないかぎりもとのままだ でもソーダはちがうだろ 割れたら割れた回数だけ、記憶も失ってしまうんでしょう?」 「うーん」 壁にはめこまれた窓枠からはあたたかい春の日差しが注ぎ込んできている。体内のインクルージョンが活発化する錯覚を覚えた。白粉を塗った腕はきちんと正常にうごいている。ここ何十年ものあいだ、わたしは己の身体を割ってはいない。 「怖くはないかな」 「どうして?」 「あんまり実感がないから」 いうと、フォスはぱちりと目を瞬いた。羽根ペンをケースに仕舞う際にかつんと小さな音が鳴った。 「じぶんがなにをわすれたのかってじぶんじゃあわからないし それにわたしの場合、やさしいまわりがたすけてくれるから だからもう長いこと割ってないしね」 「…よくわからない」 「わたしもよくわからない」 たとえばここでわたしが彼の腕をほんのすこし力をこめて握ったなら、彼の指先は第二関節あたりから割れてぽろぽろと床に落下することになるだろう。わたしの記憶はまだ損なうことなくたもたれている。わたしはわたしが前線に立つ未来がこないことを祈っている。この戦争に終わりが来ることを祈っている。ずるいと罵られる覚悟は、正直あまりできていない。 (ソーダライト 高度は五半 割れるたびにからだのあおいろがうしなわれる それと比例して記憶もうしなわれる かつて1度だけ前線に赴いたが身体の損傷をくりかえし、自分がイエローらと同時期に生まれた最古参だということをすっかりわすれてしまった 現在は日用品づくりにいそしんでいる) |