第12話「最終選別終了」

何度目かの朝と夜を繰り返し、幾度となく鬼を倒し、小羽たちは山の中をひたすら進んでいった。
そして漸く迎えた七日目の朝、小羽たちは藤の花が咲く場所へと辿り着くことができた。

「藤の花……私たち生き残れたみたいだね。」
「う、うう……やっと……やっと終わった……長い七日間だったよぉ!ありがとう小羽ちゃん!ありがとぉぉう!」
「う、うん。お疲れ様善逸くん。」
「あああーー!でもこれで鬼殺隊になっちゃうよ!本当の地獄がこれから待ってるよ!死ねば良かったのか!?でも死ぬの怖いんだよぉー!」
「……善逸くん……」

小羽はもう、彼にツッコミを入れる気力すらなかった。
この七日間、本当に大変だったのだ。
善逸は眠らないと戦力にならないから、ここに辿り着くまでに出会った鬼は殆んど小羽が倒していた。
そんなこんなで、小羽の疲労は半端なかった。

(……まあ、それでも善逸くんが眠っている時には戦ってくれたから、足手まといではなかったんだよね。)

小羽は無事に最終選別を乗りきれた喜びと、善逸を守りきった安堵から、ホッと胸を撫で下ろす。
すると何処からかバサバサと羽音が聞こえてきた。
空から一羽の鴉が飛んでくると、その鴉は小羽の肩に止まり、一声鳴いた。

「!(お兄ちゃん!?)」
「……何?その鴉、小羽ちゃんに髄分懐いてるね。」
「カー!」
「えっ!?」

その鴉は小羽の兄の清隆であった。
清隆は小羽にだけ分かるように敢えて鳥の言葉で話し掛ける。

『最終選別終了。小羽は先に戻れ。』

そう兄は言ったのだ。
小羽は小さく頷くと、鴉はまた一声鳴いて何処かへと飛び去っていった。

「ごめん善逸くん。私先に行くね!善逸くんは後からゆっくり来て!」
「――えっ!小羽ちゃん!?」

小羽は一方的にそう言うと、駆け出した。
状況が飲み込めない善逸は、慌てて小羽を追い掛ける。……が。

「――え?」

小羽を追い掛けて藤の花の森を駆けていた筈が、小羽が木の間に隠れた瞬間に、つい先程まで目の前にいた小羽の姿が忽然と消えたのである。

「――小羽ちゃん、何処に行ったんだろう……」

まだそんなに遠くには行っていない筈なのに、辺りをキョロキョロ見回しても、小羽の姿は何処にもない。
自慢の耳を澄ませてみても、小羽の音はしなかった。
ただ一つ、小さな雀が羽ばたいていく羽音だけが、善逸の耳に聴こえるだけであった。

******

小羽が合格者の集まることになっている藤襲山の出口にやってくると、そこには既に清隆と数羽の鴉たち、そして二人の子供が待っていた。
最終選別の説明を行ったこの二人の子供たちは、小羽たちが仕えている産屋敷耀哉様のご子息とご息女なのである。
小羽は地上に降り立つと、素早く人の姿に戻り、彼等に跪いた。

「――揃いましたね。今年の合格者は全部で六人に決まりました。よって、鎹一族の皆様には、それぞれの剣士様についてもらいます。」
「勿論、今回合格した信濃小羽様も例外なく、鎹鴉として動いて頂きます。」
「……はい。」
「つきましては、信濃清隆様には、竈門炭治郎様の鎹鴉を担当して頂きます。」
「――えっ」

その言葉に、清隆は勿論、小羽も目を大きく見開いて驚いた。

「竈門様は鬼になった妹君をお連れになっています。ですので、彼女たちの監視の意味を含めての配慮となります。」
「……ああ。」

ご子息にそう説明され、清隆たちは納得した。
鎹一族の中で鬼と戦えるのは異例である清隆と小羽のみである。
そして清隆の階級は「丁」とそこそこ高い。
よって、炭治郎たちの監視役として適任と判断されたのだろう。
彼の鎹鴉という名目のもと、側にいて監視をしつつ、万が一禰󠄀豆子が人を襲うような事態となれば斬れということなのだ。

(……お兄ちゃんはきっと、必要なら禰󠄀豆子ちゃんを斬るだろうな。例え好意を抱いた女の子だとしても、それをやらなければ誰かが犠牲になるのだとしたら、お兄ちゃんは迷いながらもやる人だから……)

小羽は兄の心を想うと、とても心配ではあったが、兄以上の適任者もいないと思うのが事実であった。

「そして信濃小羽様に担当して頂く剣士様は、我妻善逸様となっています。」
「――なっ!?」
(まさかの善逸くん!?)

なんとも奇妙な縁があったものである。
まさか最終選別で行動を共にした彼の鎹雀をやることになるとは……

(……先が思いやられそう。)

小羽は先の未来を想像して、早くも胃がキリキリと痛む思いだった。

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