第13話「お帰りなさいませ。」

朝日が昇り出した頃、藤襲山の出口には四人の合格者たちが集まっていた。

「お帰りなさいませ。」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです。」

その四人の合格者の中には炭治郎と善逸。
そして顔に傷のある少年と、一人の大人しそうな少女がいた。
その合格者たちの中に、小羽の姿はなかった。

「――あれ?小羽はいないのか?まさか……」
「え、何お前。小羽ちゃんの知り合いなの?」
「小羽を知ってるのか!?」

炭治郎は合格者の中に小羽の姿がないことから、最悪の事態を想像してしまったのだが、合格者の中で一人、先程からずっとぶつぶつと念仏のように「死ぬ死ぬ」と呟いていた金髪の少年、善逸が炭治郎の口から出た「小羽」の名に反応した。
炭治郎は僅かな希望にすがるような想いで、善逸に尋ねた。

「小羽は合格したのか!?ちゃんと生きてるのか!?」
「ええー!ちょっと何お前!小羽ちゃんは俺より先にここに向かってた筈だけど!?てかいきなり何なんだよ!?」

善逸の肩を掴んで物凄い勢いで捲し立てるように質問してきた炭治郎に、善逸は少しだけ引き気味になっていた。

「信濃小羽様は、別件の用で先に説明を済まされました。ですので、ここにいる必要はないのです。」
「――別件?」
「んなことより、俺はこれからどうすりゃいい。刀は?」

炭治郎が詳しい話を聞こうとしたのだが、顔に傷のある少年が急かすようにして話を遮ってきた。

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます。」
「……刀は?」
「本日中に玉鋼を選んでいただき、刀が出来上がるまで十日から十五日となります。」
「――ちっ、なんだよ。」
「さらに今からは鎹鴉をつけさせていただきます。」

ご息女が手を叩くと、何処からともなく数羽の鴉が飛んできた。
集まってきた鴉たちは、それぞれ担当する剣士たちの元へと降り立つ。
その鴉たちの中に、小羽と清隆の姿もあった。
清隆は炭治郎の肩に、小羽は善逸の肩へととまる。

「え?鴉?これ……雀じゃね?」
「チュン!(細かいことは気にしない!)」

一人だけ鴉ではなく雀を与えられた善逸は、青ざめた顔のままでもしっかりとそこだけはツッコんでいた。
まさかその雀が小羽だと知らない善逸は、「何で俺だけ雀?」と少しだけ不満そうであった。
鎹一族の皆が変身する鳥の姿は鴉であるのだが、何故か小羽だけは上手く変化できずに雀になってしまうのである。
小羽自身も最初はそれを気にしていたのだが、何度訓練しても雀にしかなれなかったので、もう割り切ってしまっている。
とりあえず、鳥にはなれるんだからいいだろ?といった考えである。

「チュンチュン!(これからよろしく善逸くん。)」

小羽は彼には分からないだろう鳥の言葉で、改めて自分の相棒となった彼に挨拶をしたのであった。

「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます。」
バシッ!
「ギャアッ!!」
「!!」

その時、顔に傷のある少年が、自分の鎹鴉がとまっていた腕を乱暴に振り下ろして、鴉を地面に叩きつけたのである。

「どうでもいいんだよ!鴉なんて!」
ガッ!
「チュン!(なっ!?)」

そしてあろうことか、ご息女様に近づき、乱暴にもその髪を掴んで引っ張り上げたのである。
あまりにも無礼な態度に、その場にいた小羽と清隆の額に青筋が浮かぶ。

(あのやろ〜、ぶっ殺されたいのか!)
(鴉を苛めた上にご息女様に手をあげるなんて!)

変化を解いて少年に掴み掛かろうかと二人が本気で考え出していたその時、もう一人ぶちきれていた男。炭治郎が動いた。
炭治郎はご息女様の髪を掴んでいる少年の腕を掴むと、物凄い形相で少年を睨み付けた。

「この子から手を放せ!!放さないなら折る!!」
「ああ?なんだテメェは!やってみろよ!!」

売り言葉に買い言葉。少年の挑発に炭治郎は迷うことなく腕に力を込めた。
少年の腕がミシリと嫌な音を立て、痛みで少年は「ぐうっ!」と苦痛に顔を歪めながら呻き声を上げた。
少年の手がご息女様から離れた瞬間、炭治郎は彼女を庇うように背に隠した。
そうして暫しの間、二人は睨み合っていたのだが、話が進まないと思ったのか、ご子息が何事も無かったかのように説明を再開したのである。
――四人はその後、日輪刀の材料となる玉鋼をそれぞれ選び、説明は終了となった。

「多分すぐに死にますよ。俺は。」
「チュン…(まだ言ってるよ。この人は……)」

最後まで情けなくなるほど、善逸は死ぬ死ぬと呟いていた。
そんな彼の相棒となってしまった小羽は、呆れたように一声鳴いたのである。
因みに、顔に傷のある少年に怪我を負わされた鴉はすぐに善逸によって助けられ、後で小羽たちによって治療された。

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