第17話「それから一ヶ月後」

小羽が善逸の鎹雀となって、彼と行動を共にするようになってから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
そして現在、小羽はとても困っていた。

「うう、行きたくない。任務になんて行きたくないよぉーー!!うわぁぁー!!怖い怖い怖い怖い!!ぅ……ぅぅ……」
「チュン……(善逸くん……)」

とある鬼を退治せよとの依頼を受けた善逸は、道端にうずくまりながらブルブルと体を震わせて怯えていた。
先程からずっとこんな調子でまったく動こうとせず、小羽はほとほと困り果てていた。

「チュン!チュンチュン!(善逸くん!こんな所でうずくまっててもしょうがないよ!がんばろう?)」
「うるさいよチュン太郎!俺は今お前に構ってる余裕はないの!!」
「チュン……(ダメだこりゃ……)」

小羽が半ば諦めかけていると、一人の少女が善逸に近付いてきた。
黒髪がとても綺麗な、おさげ髪の可愛らしい女の子だった。
うずくまってぶつぶつと呟いている善逸を心配そうに覗き込み、声を掛ける。

「あの……大丈夫ですか?」
「……へ?」
「具合、悪いんですか?」
「……」

少女が心配そうに善逸の顔を覗き込むと、彼は不意に顔を上げて少女を見上げた。
自分を労ってくれる心優しい少女をぼんやりと見つめる善逸に、小羽は何かを察して焦る。

(あっ、これはまずい。)

善逸は暫しの間その少女の顔を見つめると、ゆっくりと口を開いた。

「……お……」
「お?」
「俺と結婚してくれーーー!!!」
「はぁぁーー!?」
「…………(また始まった……)」

小羽は片翼で顔を覆うと、天を仰ぐようにして空を見上げた。
その目はどこか遠い目をしており、何もかも諦めたような悟りを開いたような目だった。
――善逸くんと行動を共にするようになってはや一ヶ月。
任務の度に怯え、泣き叫んで、嫌がって中々仕事に行きたがらない善逸くんではあるが、なんだかんだと今日までしっかりと任務をこなして生き延びていた。(本人は眠っていた為自覚がないので運が良かっただけとか思ってる)
けれど善逸くんにはちょっと……いやかなり困った癖があった。あれは最早病気と言ってもいい。
彼は任務先で女の子にちょっとばかし優しくされると、すぐにその子に惚れて求婚してしまうのだ。
その度に女の子にこっ酷くフラれているのに、彼はめげずに何度も何度も同じことを繰り返していた。
この女の子で確か六人目である。
最終選別で小羽も求婚されたことがあったが、彼はどうやら自分に優しくしてくれた女性にとても惚れやすいらしい。呆れて何も言えなくなる。

(というより、自分に優しくしてくれる女の子なら誰でもいいのか善逸くんよ。)

いくら女好きでも見境無さすぎるぞ。
女の子の膝に抱きついて、ひたすらみっともないくらいに「結婚してくれ」と道の真ん中で女の子に泣き喚きながら縋り付くのは果てしなくカッコ悪かった。

(こうなると長いんだよねぇ〜、さて、どうしたものか……)

小羽が困り果てていると、こちらに向かってくる人の気配を感じて、そちらを見た。
すると、それは小羽のよく知る人物たちであった。

「カー!(小羽!?)」
「チュン!?(お兄ちゃん!?炭治郎くん!?)」

なんとそこに居たのは久しぶりに会う兄(鴉姿)と炭治郎であった。
炭治郎と清隆は呆然とした様子でこちら(主に善逸)を見ており、清隆に至っては心底あきれたような眼差しで善逸を見据えている。
何故ここに彼等がいるのかは分からないが、小羽は天の助けとばかりに炭治郎たちの元へと飛んでいった。

「チュンチュン!チュン!(お兄ちゃん、炭治郎くん!いいところに!)」
「おっと!」
「チュンチュン(お願い炭治郎くん!善逸くんを何とかして!ずっとああやって女の子を口説いてるの!)」
「そうかわかった。何とかするから!」
「チュン!(ほんと!?)」

炭治郎に助けを求めたら、なんとも力強い返事が返ってきた。
思わず嬉しさのあまり目をきらきらと輝かせて期待の眼差しを向ける小羽。

(……あれ?そう言えば炭治郎くんって私の言葉解るの?)

ふとそんな疑問を抱いたが、炭治郎はスタスタと善逸の元へと歩いていってしまう。

「助けてくれ!!結婚してくれ!!」
ぐいっ!
「何してるんだ道の真ん中で!!その子は嫌がっているだろう!!そして雀を困らせるな!!」

炭治郎は善逸の首根っこを掴むと、力強く引っ張って女の子から善逸を引き剥がした。
突然のことにきょとりと目を丸くして炭治郎を見上げる善逸。
目から涙、鼻から鼻水。顔の穴という穴から出せるものを全部出している善逸の顔は凄まじいことになっていた。

「あっ!隊服!お前は最終選別の時の……」
「お前みたいな奴は知人に存在しない!!知らん!!」
「えーーーーーっ!!会っただろうが!!会っただろうが!!お前の記憶力の問題だよ!!記憶力のさ!!」

善逸が必死に自分のことを思い出させようと叫んでいる間に、炭治郎は然り気無く女の子を家に帰そうとしていた。

「さぁ、もう家に帰りなさい。」
「ありがとうございます。」
「おいーーーーっ!!」

その後は女の子を諦めきれない善逸が、女の子にしつこくしすぎて引っ叩かれたり、あまりにも情けなさすぎて炭治郎や小羽たちにゴミを見るような目で見下ろされたりしながらも、小羽と清隆の情報を照らし合わせたところ、なんと二人は同じ鬼を討伐する任務を受けていたことが発覚した。
なのでここからは二人で協力して任務にあたることになるようだった。

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