第94話「名取の目的」

「風呂の後準備しておいたんだ。この旅館の裏山に、周りに害を成す妖がいて、最近強力な退治人が封印しかけたのだけど、この旅館に逃げ込まれてしまったらしいんだ。……だから私がここに来た。」
「えっ、じゃあ!」
「妖怪退治が苦手な彩乃を嘘で誘ったんだな。」
「そんな……彩乃ちゃんに妖怪封じの手伝いをさせるために……?」
「なんて卑怯な!これだから祓い屋は信用できないのよ!!」
「――そうだね ごめん。人を騙すのが癖になっていた。あんなに楽しんでくれるんなら、ちゃんと話してわかってもらえばよかった。ごめんな 彩乃。」
「……」
「ごめん。」
「……もう、いいですよ。」

言い訳も何もせずに自分の非を認め、ちゃんと謝ってくれるこの人を、責めるなんてできる筈がない。それに……

「私だって、名取さんに話せていないこともあるんです。」
「……そのようだね。」

いつの間にか嘘をつくことに慣れてしまっていたんだ。私も名取さんも…… 

「手伝います。今回のことは私が甘かったんです。」
「……ありがとう。」

そう言って微笑む名取さんは、どこか安堵したような柔らかな笑顔だった。

「この術式は部屋全体の結界で妖を封じるから、柊や猫ちゃん達は外で待っていた方がいい。うっかり巻き込んで封じてしまう危険があるからね。」
「えー、つまらんなー」
「我慢してね、先生。」
「リクオ様、私達も……」
「あの……」

封印されては堪らないので、柊や先生は部屋の外へと出ていく。
そんな状況で、リクオは不意に何かを決意したような表情で言った。

「……僕は、ここに残ってもいいですか?」
「ええっ!」
「何言ってるんですかリクオ様!危険ですよ!!」

驚く彩乃と氷麗。
それに名取はスッと目を細めてリクオを探るように見つめる。

「どうしてかな?」
「僕は四分の一は妖怪ですけど、今は人間です。だからあまり術の影響は出ないと思うんです。今は夕方だから、もしも万が一彩乃ちゃん達の封印が失敗した時には、僕がお二人を守ります。」
「リクオ君、でも……」
「あまりお勧めはできないよ?」
「……お願いします。」
「……はあ、わかったよ。好きにしなさい。」
「名取さん!?」
「彼は本気のようだよ。男の決意をそうそう止めてはいけないよ彩乃。」
「……はい。」

名取にそう言われ、彩乃は渋々頷いたのだった。

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