第96話「ヒカリの欠片」

その日、彩乃とニャンコ先生は毎日の日課である先生の散歩をしていた。
まるで犬のように首輪にリードをつけられて散歩している先生。
勝手に何処かに行ってしまうことへの予防対策で始めたことだが、今では最初の頃のように文句を言わなくなった。(つまりは慣れである。)

「いつもと散歩コースが違うよ。何処行くの先生。」
「雷の落ちた木を見に行くのだ。」
「雷って昨日の?酔狂だねぇ」
「無知め。雷の落ちた古い木からはこの世のものならぬ酒が沸き上がることが多いのだ。妖の間ではメジャーなことだぞ。」
「ふーん。」
「つまりタダ酒のチャンスなんだぞ。」
「……へえ」

相変わらず飲むか食べることにしか興味のない先生に、彩乃は呆れてどうでもよさげに返事を返す。

くんくん。
「む。あっちだ 走れ彩乃!!」
「あっ!待ってニャン……行っちゃった……」

酒の臭いでも嗅ぎ付けたのか、突然茂みの中に入っていった先生を呼び止めるも、先生は一目散に森の奥へと消えてしまい、彩乃は仕方無く先生を探す為に森に入ることにした。

ガサガサ
「先生ー?……まったく、先生何処よ。」
「……ボソ」
「ボソボソ」
(声……?何?)
「おいあれ、木の上に。」
「光ってる。」
「光ってる。本当だ。あれは、あれはひょっとして……」
(木の上?)

妖なのか森の中からボソボソの誰かの小声で話すが聞こえる。
その話の内容が気になって耳を澄ますと、木の上がどうのという話が聞こえてきた。
気になって上を見上げると、ある一本の木の枝のところで何かきらりと光ものが見えた。

(本当だ。何か光ってる。)
コロン
(――あ、落ちてくる……)
チカッ!
「!、痛っ……!」

その光る何かは木の上から落ちると彩乃の目の中に入ってしまった。
あまりの痛みに思わず右目を押さえる彩乃。

「いったぁ〜、ゴミでも入ったかな?」
ガサリ
「夏目?」
「!……あ、田沼君?」

背後の茂みが揺れて妖かと警戒する彩乃だったが、茂みから出てきたのはクラスメイトの田沼だった。

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