第103話「取り憑かれた田沼」

空き教室の中を覗くと、そこにはあの金槌の妖怪がいた。
教室に掛けてあった鏡を割っていたようで、妖怪は彩乃達の気配に気付くと窓から逃げ出してしまった。

「あっ!……見えた?田沼君。」
「ああ、靄のようにだけど……」

彩乃達は教室の中に入ると、金槌の妖怪が割ったであろう鏡へと近付いた。
床には鏡の破片が散らばっており、彩乃は片付けようと破片に近付いた。

「どうして鏡なんかを割って……痛っ!!」
「夏目!?」

鏡の破片に近付いた瞬間、突然彩乃の右目が痛みだした。
彩乃は痛む右目を押さえながら下を向くと、鏡の破片の中から何か光を放つものが見えた。

(何?何か光って見える……)

彩乃は思わずその光に手を伸ばすと、それに触れた。
陶器の欠片のようなそれを手で拾うと、途端に右目の痛みは嘘のように引いていく。

「痛みが引いた……これって、銅鏡の欠片?」
「……」
「ねぇ、田沼君これ……」
「……えせ」
「……え?」

田沼に欠片のことを話そうと彼に視線を向けると、何やらぶつぶつと呟いている田沼がいた。

「返せ……それを寄越せ……見つけたぞ。私の鏡……」
「た……田沼君……?」
「返せ……返せ……」
(違う。田沼君に取り憑いてる妖が……?)
「返せっっ!!」
「!!」

彩乃が田沼の異変に気付いて一歩後ろに下がると、田沼はまるで別人のように豹変し、彩乃の右目あたりの顔を鷲掴みにしてきた。

ギリギリギリ
「う……あっ……痛い!」
「……返せ返せ……」
ぐぐっ 
「やめてっっ!!」
ドンッ!

あまりの力強さに押し負けそうになったが、彩乃は渾身の力を込めて田沼を突き飛ばした。
その勢いで壁に激突して倒れ込む田沼。
それに彩乃はハッと我に返って田沼を心配する。

「田沼君ごめん……!」
ずるずる……ずるり…… 
「わーーっ!!」

思わず田沼の元へ駆け寄りそうになった彩乃だったが、倒れた田沼の体から何やら黒い靄のようなものが出てきて彩乃は叫んだのだった。

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