第104話「妖の目的」

靄はやがて人のような形をとり、女のような細いシルエットへと変わっていく。

「ちっ……人の子のくせに生意気な程の力だな……」
「あんたが田沼君に取り憑いてる妖ね!」
「――ああ、そうさ。友人を探す途中、雷に打たれてしまってね。大事な私の鏡もその時に砕けてこの辺りに飛び散ってしまったんだ。欠片を探そうにも雷に打たれては回復が遅くてね。この子を依り代にさせて貰っているんだ。」
「!、田沼君に穴を掘らせてたのは……その鏡の欠片を―……?」
「ああ、あの辺りにも落ちていた筈だから探していたのさ。欠片達は光るものに溶け込み姿を隠している。――それでどうやら一つはお前の目の中に落ち、隠れて他の欠片に近付くと『拾ってくれ』と共鳴して痛むんだろうさ。」
「!?」
「――さあ、私の鏡を返しておくれ……」
「――!!」

女の妖怪は彩乃の右目に手を伸ばす。
もう少しで妖怪の手が彩乃に触れる寸前、勢いよく教室の扉が開かれた。

「待てい!!」
「彩乃ちゃん!!」
「!、ニャンコ先生!透ちゃん!?」
「……ちっ!」

何故か多軌まで連れてやって来たニャンコ先生。
二人の登場に女の妖怪は舌打ちすると、諦めたのか田沼の体へと戻ってしまう。

「ああっ!」
「……まあ何にしろ暫くこの体に宿らせて貰う。」
「何ですって!?」
「田沼君!」
「安心しろ。そう長くは意識を乗っ取れはしない。――しかし、無事にこいつを返して欲しければ協力しろ小娘。鏡の入ったその目があれば欠片集めも容易かろう。鏡さえ戻れば私は去る。」
「そんな……」
「勝手なことを。これ以上厄介事に付き合わされてたまるか。さあ……出ていくがいい!」
「!」
カッ!
「ぎゃ……う……」

先生は退魔の光を田沼に取り憑いてる妖怪に浴びせると、途端に女の妖怪は苦しみ出す。
しかし…… 

「……くっ……まだだ。まだ……鏡が集まるまで……放れはせんぞ……うう……」
「む!?私の光を浴びても放れぬとは!……何という執念深い奴。」
「そんな……田沼君!」
「田沼君!」

ニャンコ先生の強力な退魔の光を浴びても尚田沼から放れようとしない妖怪に、彩乃はどうすればいいのか焦るのだった。

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