第107話「キョウカの願い」

「……本当に俺の部屋でいいのか?」
「うん。一応用心棒のつもりで来たし、田沼君が嫌じゃなければだけど……」

そう話す彩乃と田沼。
夕飯を食べてお風呂にも入り、いざ寝ようという話になったのだが、どこで寝るかという話題になると、彩乃は自分から田沼の部屋に泊めて欲しいと申し出たのだ。
いくらニャンコ先生が側にいたり、用心棒の為とは言え、仮にも年頃の男女が同じ部屋で寝るのはさすがに良くないと思う田沼なのだが、それは彩乃とてわかっている筈だ。
それなのにこんなことを言うのは、間違いなく自分の中に取り憑いてる女妖怪を警戒し、自分を心配してくれてのことだと田沼もわかっていた。
だからかなり恥ずかしくはあったが、彩乃の申し出を受けたのだった。
――8畳ほどのそれなりに広いスペースのある部屋が田沼の自室だった。
ペットで眠る田沼の横に布団を敷かせて貰い、彩乃とニャンコ先生は横になっていた。

「田沼君が掘っていたあの辺りで目が痛んだから、明日はもう一度調べてみよう。」
「そうだな。……夏目はこんなこと時々あるのか?」
「え?」
「時々ではない。しょっちゅうだ。」
「えっ!?しょっちゅう!?」
「ニャンコ先生!!」

余計なことを言う先生を咎めるように名を呼ぶ彩乃。
そんなことを言ったら心優しい田沼はきっと心配してしまう。
慌てる彩乃に、田沼は以外にも落ち着いていた。

「……そっか。」
「……」

田沼はそれだけ言うと黙り込んでしまった。
彩乃も何も言うことが出来ず、静かに目を閉じた。


――風が吹いている。
一面の草原に、目の前に映る人影。

(――田沼君?……いや、違う。)
『…さらば。……さらばだ。』
『もう来ないでくれ。』
『さらば』
(――ああ、これは……田沼君に取り憑いてる妖の夢……)
『さらば、キョウカ。』

風と共に姿を消してしまった妖は、体中に布を巻いていた。
恐らく体を病んでいるのだろう。
彩乃はそこで目を覚ましたのであった。
――目を覚ました彩乃は何となく田沼を見る。
すると田沼もベッドから起き上がった。

「――私の夢を覗いたな小娘。」
「キョウカ……それがあなたの名前なのね。」
「……」
「……今のがあなたが探している友人なの?」
「……」
(あの妖……確かに何か患っているようだった。)
「……銅鏡があれば治してあげられるの?」
「……その筈だ。そう、風の噂で聞いた。」
「…風の噂で…?」
(それはつまり、確実に治せるという保証はないの?)

それでも縋らない訳にはいかなかったのだろう。
きっと、どんな些細な噂でも信じてしまう程、彼女は必死に友人を救いたいのだ。

私だって、もしも田沼君が、透ちゃんが、リクオ君が、氷麗ちゃんが……

そして塔子さんや滋さんが……

大切な人が助かるというのなら、どんなことでもしたいと思うし、どんな些細な噂でも縋りたくなるだろう。

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