第106話「お泊まり」

妖気を感じることができる友人、田沼君が妖に取り憑かれた。
女妖怪は壊れた鏡の欠片を集めきるまで田沼君から放れる気はないらしく……
その後は目を離すのも心配で田沼邸に泊まり込むことになったのでした。

「……ご住職は?」
「父さん今日は出張なんだ。」
「そっか……ごめんね。急に押し掛けて。」
「いや、俺のことを心配してくれてのことだし……気にしないでくれ。」
「うん。お邪魔します……」

*****

「ご馳走さまでした。」
「悪いな夏目。わざわざ夕飯を作って貰って。」
「ううん。私もそんなに料理得意じゃないんだけど、最近は塔子さんから習うようになって……」
「そうだったのか。美味かったよ。」
「ありがとう。」
「おい田沼の小僧。蜜柑剥け。」
「お、いいぞポン太」

泊まらせて貰うお礼に夕食を作ってあげた彩乃。
今までは塔子に任せっきりだった彩乃だったが、最近は自立できるように塔子から料理を習うようになっていた。
美味しいと言ってくれた田沼の言葉が嬉しくて、彩乃はふにゃりとにやけた笑みを浮かべるのだった。

「夏目。さっき拾った鏡の欠片見せてくれるか?どんな感じだ?」
「うん。銅鏡っぽいんだけど……見える?」

そう言って彩乃はハンカチに包んでおいた鏡の欠片を取り出して田沼に見せた。

「んー……駄目だ。夏目はすごいな。俺は……何かがあるのかわかるくらいだ。」
「――そう……」
「おい小娘。それを気安く扱うな。」
ビクッ
「あなたこそ田沼君を気安く操らないでよ!!」
「ふん」
(……自分が取り憑かれた方がマシだよ……)

つんとそっぽを向いて捻くれる女妖怪に、彩乃はこんなに心配な気持ちになるくらいなら、いっそ自分に取り憑いて欲しいとさえ思うのだった。

しゅるんっ!
「……わー!?鏡が目の中に入ったーーっ!?」
「言っただろう。鏡は元に戻りたがっている。その為に共鳴して拾えと訴えてるのだ。さっさと集めれば終わるぞ。」
「……」

女妖怪の言葉に、彩乃は何とも言えない気持ちになってしまう。
彼女の事情を思えば協力してあげたいが、田沼をまるで人質のように扱われているようで彩乃はこの女妖怪を今一心から信用出来ずにいたのだった。

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