第136話「絶対に成功させる」

崖の下で待ち構えている獣を誘き寄せる為、名取は式神を飛ばし、獣の興味をこちらに引き付ける。
自分の周りをうろうろと鬱陶しげに飛び回る式神に獣はやがて苛立ったように唸り声を上げ、すっかり気が立っているようだった。

「おい獣、こっちよ!」
「グルル、グァアア!!」
ザザザ

苛立っている時に彩乃の声が聞こえ、獣は標的を式神から彩乃へと変えた。
こちらに来るように手を振って獣の注意を引き付ける。
案の定獣は彩乃に向かって突進してきて、まんまと名取の用意した陣の中へと足を踏み入れたのであった。

ピリッ、バチバチ
「グルルル」
「陣の中に入った。もう逃げられないぞ。」
「はい。」
『古土におわす影ならぬ者。これを掴むは是。示されよ!』
しゅるり
「ぎゃん!」
「彩乃!」
「はい!!」

名取の詠唱で獣は影の掌に包まれると、動きを封じられた。
その隙に彩乃は魔封じの壺を獣に向ける。
すると獣は壺の中に吸い寄せられ、完全に体が中に入った瞬間、彩乃は壺に蓋をした。

「……で……できたーー!!」

見事獣を封印できた彩乃達。
名取と彩乃は疲れたように草むらにへたり込んだ。

「……名取さんありがとうございます。これできっとやれます。」
「何とかなったみたいだな。」
「花開院さん。結界を張ってくださりありがとうございました。後は先生と柊が豊月神の封印された石を取ってきてくれれば……」
ガササ
「「!」」

獣を封印できて安心していた彩乃達から近くの茂みが揺れ、ハッとして彩乃達は身を隠した。
見れば、封印の気配を感じ取った黒衣達が騒ぎに気付いて集まってきたようだ。

「何だ今の光は。不吉なものを感じた……こっちか?」
「……何だ?やはり人の匂いがするぞ。」
(……どうしよう、このままじゃ見つかる。先生達が戻ってくるまでここを動くわけにはいかないのに……)
「……彩乃。彩乃は壺を持って会場へ。私と竜二君はここであいつ等の足止めをしておく。」
「!、でも……」
「豊月神を見つけたらすぐに駆け付ける。大丈夫だよ彩乃。ここまで頑張ったんだ。あと少しだ。きっとやれる。行きなさい。」
「……はい。名取さんと花開院さんも気を付けて」

そして彩乃は一人会場へと急ぐ。

「む?おい今何かあっちに飛び出していかなかったか?」
「行かせないよ。」
「!、人の子!?」
「人が何故このような所に……やはり何か企んでいるのではないか!?」

警戒をあらわにする黒衣達に、竜二は面倒くさそうにため息をつく。

「――こんな連中、倒すのは簡単なんですけどね……」
「駄目だよ竜二君。私達は飽くまでもこいつ等の足止めであって、殺しては駄目だ。」
「……そっちの方が骨が折れるんですけどね。」
「はは、頑張ってくれ。」
「……加減が難しいんですよ。」
(あいつの為に妖怪は殺すなって……甘いな。名取周一……しかし……)

彩乃には助けてもらった恩がある。

「――今は従ってやりますよ。」
「――それは頼もしいな。流石に神祓いは難しいが、私でもお前達を転ばせることはできるよ。」
「来い!」
「……くっ、人の子の分際で生意気な!」

こうして、名取と竜二は彩乃が会場に辿り着くまでの足止めをするのだった。

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