第153話「真夜中の訪問者」

時刻は夜中の2時。
彩乃達は10時にはもう消灯な為、彩乃は多軌と同室でスヤスヤと眠っていた。

「おい彩乃。おい。」
「……う〜ん……」
「起きんか。この寝坊助。」
「うう〜ん、何よ先生。まだ夜よ。」

折角ぐっすりと眠っていたというのに、先生に起こされて彩乃は不満げに目を擦りながら起き上がる。

「阿呆。お前はあの音が聞こえんのか。」
「……音?」
コン、コン 
「……本当だ。何か音がする……」

音は彩乃の部屋の窓から聞こえてくる。
まるで静かに窓を叩くかのような音に、彩乃は少しだけ緊張した面持ちで窓を開けた。 

ガラ…… 
「――よう。」
「えっ!イタク!?」

彩乃がそろりと警戒しながら窓を開けると、窓からイタクが侵入してきたのだ。
ここは二階の為、思わぬ来訪者に彩乃は驚いて目を丸くした。

「――どうしたの?こんな時間に。」
「――これを。お前に返したくて……」
「これって……」

そう言ってイタクが差し出してきたのは、昼間にイタクが自分を庇って怪我をした時に手当てに使った彩乃のハンカチだった。
綺麗に洗われており、血はすっかり落ちていた。
丁寧に折り畳まれたハンカチを差し出すイタクに、彩乃はきょとりと目を丸くしてイタクを見つめる。

「……もしかして、わざわざ返しに来てくれたの?」
「ああ、いつまでも借りっぱなしはよくないしな。」
「そのまま捨ててくれても良かったのに……ありがとう。」
「捨てたりするわけないだろ。4年前にお前が手当てしてくれたハンカチだって今も大切に持ってるんだ。」
「――えっ!あのハンカチまだ持っててくれたの!?」

イタクから告げられた言葉に驚いて少しだけ大きな声を上げてしまう彩乃。
隣で多軌が寝ているのを思い出して、慌てて口を押さえた。
それに気付いたイタクが彩乃に申し出る。

「……少し、外で話せないか?」
「いいよ。私もそう思った。」

彩乃が頷いてイタクの言葉に同意すると、イタクは何を思ったのか彩乃を突然横抱きした。

「うわぁ!ちょっとイタク!?」
「黙ってろ。舌噛むぞ。」
「えっ!?ちょっ、わあっ!!」
「おい彩乃!私を置いて行くなーー!!」

イタクは彩乃を横抱きすると、二階の窓から飛び降りた。
そして彩乃を連れて何処かへと去っていく。
一人置いてかれたニャンコ先生は、闇に消えていったイタクと彩乃に向かって精一杯叫んだのだった。

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