第155話「またいつか」

翌日、彩乃達が関東に帰る日がやってきた。
早朝になると、イタク達は彩乃の見送りに来てくれた。

「彩乃、また遠野に来たら遊びに来いよ!」
「今度はこっちから会いに行こうかしら。」
「それはいいなぁ!」
「私も、また彩乃と遊びたい……」
「……またな、彩乃。」
「うん。皆お見送りありがとう。イタクも……ハンカチありがとう。」
「――ああ。」

彩乃の手には先程返してもらったハンカチが握られていた。
夜が明ける前に帰ってきた彩乃は、ニャンコ先生にこってりとお説教を受けることになった。
結局ハンカチを渡しそびれたイタクは、朝になるとお見送りも兼ねてハンカチを返しに来てくれたのだ。

「また会おうな彩乃!絶対だぞ!」
「うん。私も今度は皆に会いに遠野に来るよ!」
「約束よ。」
「皆、昨日は本当にありがとう。さようなら!またね!」

彩乃は皆に手を振ってクラスメイト達が既に乗っているバスへと走っていく。
イタク達は彩乃が見えなくなるまで手を振ったのであった。

「――行っちゃったわね。」
「――ああ。」
「いい子だったな。イタクが惚れるだけあるぜ。」
「はあ!?誰が惚れたって!?」
「あれ〜?ちげぇの?」

真っ赤になって淡島の言葉に反応するイタク。
淡島はからかうようにイタクを見つめると、イタクはがぶりと淡島の指に噛み付いた。

「いってぇ〜〜っ!!」
「――ふん。」
「おい!図星言われたからってキレんなよ!!」
「図星じゃない!あんま調子乗ると殺すぞ淡島!!」
「上等だ!!」
「……はあ。もう、また始まった。」

二人が喧嘩を始めてしまい、冷麗はため息をつく。
イタクは否定していたが、淡島の言葉はあながち間違っていなかったりする。
4年前のあの夜、イタクは自分のために涙を流す少女に、確かに恋をしたのだから…… 

******

「……楽しかったね、遠野……」
「私はつまらんかったがな。」
「そんなこと言って、一番はしゃいでたくせに……」

バスに揺られながら、彩乃は遠野の隠れ里があるであろう山に視線を移す。
窓から見える景色からはやはり普通の山にしか見えなくて、けれど自分は確かにあの里で出会った妖達と友人になれたのだ。

「――また来ようね、遠野!」
「ふん。」

楽しかった林間学校は終わり、バスに揺られながら彩乃達は帰っていく。
近いうちにまたこの遠野の地を訪れることになるとも知らずに……

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