第159話「みんな夏目が大好きなんです」

彩乃がいつものように奴良組で名を返していると、突然本家に押し掛けてきたヒノエ達。
騒ぎを聞き付けた奴良組の妖怪達が何だ何だと集まってきた。

「何だ!何事だ!?」
「侵入者か!奴良組に無断で入り込むとは敵か!?」

首無や黒田坊、青田坊、毛倡妓などのリクオの側近達が次々と集まってくる。
無断で侵入してきたヒノエ達に敵意むき出しで睨み付ける奴良組の妖怪達に気付いた三篠が面白そうに笑った。

「ほう……これは面白い。下級妖怪風情がこの三篠に挑もうというのか……」
「何だと!?貴様らは何者だ!!」
「ああ〜!ちょっと待って!!」
「……夏目?」
「夏目殿。」

まさに一触即発。
今にも喧嘩が始まりそうな険悪な雰囲気に慌てて彩乃が三篠と黒田坊の前に出た。

「……こいつ等は夏目の知り合いか?」
「そう!そうなの!だからちょっと待って!三篠もどうしてここにいるの!?」
「だから言っただろ?彩乃が最近奴良組に入り浸っていて全くといっていいほど遊びに来ないからこっちから会いに来たんだよ。」
「全員が!?」
「そうだよ。」

あっけらかんと答えるヒノエに、彩乃は目眩がした。

「夏目様〜!お久しぶりです〜!」
「モウ。」
「夏目の姐御。オイラ達寂しかったんですよ。さっきまでみんなで飲んでたんですけど、みんな夏目の姐御に会いたいってことで思いきって奴良組に押し掛けてきたんです。」
「単身で乗り込むのは恐ろしいが、これだけの数なら例え喧嘩になっても勝てそうだしねえ。」
「そんな恐ろしく軽いノリで攻めてこないで!!」
「仕方ないじゃないか。会いに来ない彩乃が悪い。」
「そんな横暴な!」
「落ち着け彩乃。つまりこいつ等は君の仲間で敵ではないんだな?」
「あっ、ごめん首無。うん。悪い妖じゃないの。すぐに帰ってもらうから……」
「嫌だね。私は帰らないよ。」
「ヒノエ!」

彩乃がこれ以上奴良組に迷惑をかける前にヒノエ達を帰そうとすると、ヒノエは帰らないと我が儘を言う。
それに彩乃は困ったようにヒノエの名を呼ぶと、騒ぎを知ってやって来たぬらりひょんと牛鬼。
それに牛頭丸と馬頭丸。そして何故かニャンコ先生とカゲロウまで現れた。

「これは何の騒ぎだ!」
「――む?おう彩乃。また名を返しに来とるのか?」
「ニャンコ先生!?カゲロウまで!何で二人までここにいるの?」
「ん?私はぬらりひょんに旨い酒があると聞いて付き合ってやってたんだぞ。」
「ワタクシは斑殿の付き添いです。いつも酔い潰れては周りに迷惑をかけていらっしゃるので。」
「ぬわんだとぉ!?」
「……先生。もう酔ってるの?」
「酔ってないよ〜ん!」
「……」

顔を真っ赤にして妙にテンションの高いニャンコ先生に、彩乃は完全に出来上がってるなと呆れる。
不意に何やら視線を感じでそちらに目を向ければ、牛頭丸と目が合った。

「あ。」
「っ!」

目が合った瞬間、ものすごい勢いで逸らされる彩乃。

(え……何?)

何故捩眼山にいる筈の牛頭丸たちがここにいるのかとか、何故目を逸らされたのかとか、色々と疑問はあるが、彩乃はまずこの状況をどうにかしなければと頭を抱えるのであった。

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